「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
FIFAワールドカップ北中米大会後、新たなスタートを切った森保ジャパンで、26歳のDF瀬古歩夢が存在感を高めている。9月から10月に行われた国際Aマッチ4試合では、追加招集を含む33人の中で唯一、全試合に先発。東京五輪ではメンバー入りしながら出場機会を得られず、A代表でも長く招集から遠ざかった時期もあったが、瀬古は「自信を失った経験がない」と言い切る。そしてスイス、フランスでの挑戦や初めて出場したワールドカップ北中米大会を経て、着実に成長を遂げてきた。久保建英や堂安律ら仲間の言葉も交えながら、日本代表の最終ラインで信頼を高める瀬古の現在地を追う。
(文=藤江直人、写真=森田直樹/アフロスポーツ)
久保建英と堂安律が認める、瀬古歩夢の成長
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに、久保建英が声のトーンを上げた。
「いまの瀬古選手にケチをつける人は、サッカーがわかっていないんじゃないですかね」
上田綺世の2ゴールでベネズエラ代表に2-1で逆転勝ちした、9月28日の国際親善試合後の取材エリア。同24日のウルグアイ代表戦に続いて日本代表でただ一人、2試合続けて先発出場を果たしていた瀬古のプレーが安定している、と問われた久保は一つ年上の盟友への賛辞を続けた。
「瀬古選手はマジで、マジですごくいいと思いますよ。彼と仲がいいとか、そういうものは置いておいて、すごくクレバーになりましたし、ウルグアイ戦に続いて無駄なミスが一個もなかった。今日もめちゃくちゃ余裕があったと思います。まるでベテラン選手のような風格があるというか、もともとうまい選手でしたけど、ボランチでもプレーしていたのもあってどんどんうまさと強さが出てきたというか。なんて言うんですかね、いままでは過小評価されていた感じですよね」
ベスト32で敗退したFIFAワールドカップ北中米大会後に、日本サッカー協会との契約を延長。来年1月にサウジアラビアで開催されるアジアカップまで続投する森保一監督のもとで、日本代表は9月下旬から10月上旬まで行われた国際親善試合4連戦で新たなスタートを切った。
そのなかで瀬古はエクアドル、ニュージーランド両代表戦でも先発。71分に伊藤洋輝と交代したベネズエラ戦を除いてセンターバック(CB)でフル出場し、最終ラインで存在感を放ち続けた。
森保監督はニュージーランド戦で、2024年3月の北朝鮮代表戦以来となる4バックを採用。アジアカップを見据えて戦術の幅を広げる、という目的のもと、限られた練習時間のなかで右CBとして最終ラインに安定感をもたらした瀬古に、キャプテンを務めた堂安律もこう言及した。
「4枚にするメリットとデメリットがあるなかで、(瀬古)歩夢と(伊藤)洋輝の守備範囲の広さがあるからこそ2枚で守れるという信頼感がある。特に歩夢は本当に成長していると感じますし、あれだけスペースがあるなかでの1対1は日本人選手が不得意とするケースが多かったと思うんですけど、いまはすべて球際で勝てている。今日はプレミアリーグの選手にも勝っていたし、そういったディフェンス陣のデュエルの強さが、いまの代表の底上げにつながっていると思う」
「自信を失った経験がない」揺るがなかった信念
今シリーズでは特にCB陣にケガ人が相次いだ。冨安健洋が招集を辞退し、安藤智哉と渡辺剛も途中離脱。コンディション不良に苦しんだ板倉滉も、ニュージーランド戦ではベンチ入りメンバーから外れている。もっともCB陣の非常事態だけが、瀬古をフル回転させた理由ではないだろう。
26歳にして初めて臨んだワールドカップ北中米大会をへて、タフネスさや対人の強さ、メンタルを含めたすべての面で、まさに現在進行形で成長している。森保監督も「中心的な存在」と全幅の信頼を置く存在になったからこそ4試合、計341分間にわたってピッチへ送り出した。
瀬古自身も「4試合すべてで出た点は、ポジティブにとらえている」とした上でこう続けた。
「自分自身でも成長を感じている部分はあるけど、いままで自信を失った経験がないし、自分は絶対にやれると思ってずっとここ(日本代表)に来ていた。そこはよかったと思っている」
瀬古の出場試合数はようやく「20」に達した。一方で久保は「54」に、2つ年上の堂安は「73」を数える。差をつけられたなかで「自信を失った経験がない」は何を意味するのか。瀬古が続ける。
「もちろんミスはよくないけど、それは自分が成長するためのものだと思っている。たくさん批判もされたけど、そういう経験があったからこそ、いまこうしていいパフォーマンスができていると思うし、今後もミスをするかもしれないけど、自分が成長するための糧だと思ってやっていく」
瀬古のミスで真っ先に思い浮かぶ一戦がある。敵地パースで行われた昨年6月のオーストラリア代表とのワールドカップ・アジア最終予選第9節。すでに北中米大会の出場権を獲得していた森保ジャパンは0-1で敗れて、アジア最終予選における唯一の黒星を喫している。
そして、試合終了間際の90分に決められた決勝ゴールに絡んでしまったのが瀬古だった。
ペナルティーエリア内の左隅でボールを受けた相手選手の背後についた瀬古が、プレッシャーをさらに強めようとした直後。時計回りに反転した相手に簡単にかわされてポケットを突かれ、ゴールライン際から折り返されたラストパスを逆サイドから飛び込んできた選手に決められた。
「守備のセオリー通りにシンプルに相手の内側からいけば。あれは自分の個人的なミスです」
東京五輪で出場ゼロ。空白期間で培ったハングリー精神
森保監督はオーストラリア戦で常連組のほとんどを招集しなかった。さらに新戦力を発掘する目的を込めて、代表デビュー組を含めたフレッシュな選手たちをピッチへ送り出した。そのなかで後半開始から途中出場し、出場試合数を「6」としていた瀬古は自らを責めている。
「メンバーが変わったからといって、やっているサッカーが変わるわけではない。初招集の選手が数多くいたなかで、自分は初招集ではないので失点と敗戦に対しては本当に責任を感じている。ああいったミスをなくしていったらもっと、もっと成長していけると思っている」
オーストラリア戦を振り返ったのは日本へ帰国し、インドネシア代表とのアジア最終予選最終節へ向けて大阪市内で練習を再開させた6月7日。くしくも瀬古の25回目の誕生日であり、練習後に音頭を取って、駆けつけたサポーターとともに瀬古を祝福したのが久保だった。
中学生年代のU-15日本代表を皮切りに年代別の日本代表、そして瀬古がA代表デビューを果たした第2次森保ジャパンで共闘してきた盟友の久保へ、こんな言葉で感謝の思いを表している。
「あいつとは仲がいいし、昔から戦ってきた仲間でもあるので。いい誕生日になりました」
ただ久保との共闘には何度も空白期間が生じている。自国開催だった2021年の東京五輪の代表メンバー22人に名を連ねながら、瀬古は一度もピッチに立てなかった。第2次森保ジャパンでは2023年6月から、約1年5カ月にわたって招集すらされていない。瀬古はこう振り返る。
「ああいう経験があったからこそいまがある。もちろん試合に出られなかったときはすごく悔しい思いもしたけど、そういうハングリー精神がある選手がここ(代表)に残っていると思う」
ハングリー精神は強いほうなのか。こう問われた瀬古は、苦笑しながらこんな言葉を続けている。
「なんて言うのかな、ちょっとしたことで落ち込んでいるようでは、プロサッカー選手はやっていられない。なので、そのへんに対してはポジティブにとらえられればいいかな、と」
ル・アーヴルで磨いた強さとタフネス
小学生年代からセレッソ大阪のアカデミーで心技体を磨いた瀬古は、J1リーグ戦で67試合に出場した後の2022年1月にスイスのグラスホッパーへ完全移籍。前出のオーストラリア戦、そしてインドネシア戦を終えた直後にはリーグ・アンのル・アーヴルへステップアップを果たした。
1872年に創設された昇格組のル・アーヴルで初の日本人選手としてプレーした昨シーズンが、瀬古の成長を後押しした。リーグ戦で30試合に出場し、前半戦はボランチやアンカーで、後半戦では本職のCBでフル回転してチームをリーグ・アン残留に導いた瀬古はクラブMVPを受賞した。
今年1月には試合中に肋骨を骨折しながらもフル出場。さらに治療に伴う戦線離脱をわずか3試合に留めて戦列復帰を果たした瀬古を、ディディエ・ディガール監督は驚きを込めて称賛した。
「これほど早く、しかも完璧な状態で復帰してきた選手を見るのは初めてだ」
CBに加えてボランチでもプレーできる二刀流が評価され、ワールドカップ北中米大会代表に選出された瀬古は、アイスランド代表との壮行試合を控えた5月31日の朝に心を震わせている。
PK戦の末にアーセナルを破ったパリ・サンジェルマンが、UEFAチャンピオンズリーグ連覇の偉業を達成した。リーグ・アンでも5連覇を継続中の強豪クラブの名前をあげながら、瀬古はル・アーヴルへ新天地を求めた自身の選択は間違っていなかったとあらためて実感している。
「パリ・サンジェルマンの一強と言われているけど、実はすごく強いチームも多い。その意味でいまのチームでプレーしてきたなかで1対1の部分やスピード感がすごく鍛えられたと思う」
吉田麻也への憧れと、初めて立ったワールドカップの舞台
アイスランド戦では特別に招集された元キャプテンのDF吉田麻也が、14分間ながら先発出場。その後は両チームが作った花道を引きあげ、ワールドカップ・カタール大会以来、通算127試合目の代表戦出場を万感の思いとともに終えた吉田の姿を、ベンチにいた瀬古は必死に記憶に焼きつけた。
吉田との共演はA代表では果たせなかった。後半の45分間だけ同じピッチに立った2021年6月のU-24ジャマイカ代表戦に目の前の光景を重ね合わせながら、瀬古は決意を新たにしている。
「立っているだけで相手が嫌がる威圧感がある。今日も短い時間でしたけど、相手に一つもチャンスを与えなかった。自分もああいうCBになりたいとあらためて思いました」
心身両面で右肩上がりの軌跡を描いていたなかで迎えたワールドカップ北中米大会では、チュニジア代表とのグループステージ第2戦で後半途中から、冨安健洋に代わる3バックの右CBで途中出場。スウェーデン代表との同最終戦では同じポジションで先発出場を果たした。
「一つのミスが失点につながるポジションだし、難しい部分もあるけど、やはりCBをやっている以上はそういったものも宿命だと思っている。90分間を通して隙を作らない守備をやっていかないと今後は難しくなるし、そういったディテールを突き詰めてもっともっと成長していきたい」
瀬古はさらに同じ2000年生まれの中村敬斗や自身を称賛してくれた久保、さらに2つ年下ながらも守護神を拝命した鈴木彩艶ら年齢の近い世代が今後の中心を担わなければいけないと力を込めた。
「自分たちの世代が下からもっと突き上げていかないと、チームも強くなっていかない。自分たちの世代がもっと、もっと代表で試合に出ていくことが今後、代表が強くなるために必要だと思う」
身長186cm・体重81kgの筋骨隆々としたボディに闘争心とデュエルの強さ、さらには責任感も熱く脈打たせる瀬古は、SNS上でファン・サポーターから「セコム」と呼ばれ始めた。
総合セキュリティー企業の名称と今シリーズで日本のゴールを守り続けた姿に、フルネームを短縮させて生まれた「セコム」という愛称は、瀬古にとってもまんざらではないようだ。
「名前がすべて入っているので。歩夢の『ム』も」
口ひげだけでなくあごひげもたくわえたワイルドな表情に、ちょっぴり笑顔が浮かんだ。30歳で迎える2030年の次回ワールドカップへ。苦境が続いても決して自信を失わず、成長の二文字だけを貪欲に追い求めてきた瀬古が、日本の最終ラインの新たな砦として君臨しようとしている。
<了>
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