BリーグMVP 田中大貴「世界とのレベルの差を痛感した」リベンジをかけて世界へ臨む覚悟
新型コロナウイルスの影響により、無念の中止に終わった4シーズン目のBリーグ。3連覇をかけて戦っていたアルバルク東京を最高勝率に牽引する活躍で2019-2020シーズンMVPに選ばれた田中大貴。リーグができる前後の日本バスケットボールの変化を振り返りながら、改めて挑む3連覇へ向けた思いや今後の目標、そして日本代表の主力として日本バスケットボール界の未来へ向けた思いを語ってもらった。
(インタビュー・構成=阿保幸菜[REAL SPORTS編集部]、撮影=森大樹)
「もっと自分自身の価値を上げたい」という選手が増えた
――新型コロナウイルスの影響で3月27日にBリーグは2019-2020シーズンの全試合中止となってしまいましたが、このような状況の中でどのように過ごしていましたか?
田中:中止が決まってからは、ずっと家にいました。野球やサッカーと違って、Bリーグはシーズンが完全に中止になってしまったので。1週間ぐらいはまったく何もせずに休んでから、家の中でできる範囲でトレーニングをやったりしていました。
――Bリーグの試合中止が決まった時は、どういう気持ちでしたか?
田中:完全に中止になる前に中断期間があったんですけど、その時、個人的には「これはちょっと、もう厳しいんじゃないかな」とは内心思っていました。なので、はっきりと中止となった時に残念な気持ちもありましたけど、この状況を踏まえると仕方ないのかなと、ある程度心の準備はできていました。
――2015年にBリーグが発足されて以来、日本でのバスケットボールの注目度においてどのような変化を感じていますか?
田中:僕はBリーグができる前の実業団チームの頃も経験していますが、やっぱりかなり大きくガラッと変わったなという印象はあります。リーグを立ち上げるためにいろいろな方が尽力してくださって、なんとか多くの人に認知してもらおうという動きもあったおかげで、認知度はかなり高まったなと感じています。
さらに、2019年に日本代表が(FIBAバスケットボール)ワールドカップに13年ぶりに出場したり、八村(塁)選手がNBAでドラフトされるなど、明るいニュースも入ってきたことによってどんどん注目度も上がってきているように思います。
――そういったポジティブな変化がどんどん見られてくると、選手たちのモチベーションもさらに高まっていきそうですね。
田中:実はそれが一番大きく変わったことですね。もちろん、Bリーグを作ってくださりプロという形になったのは周りの方々のおかげですが、この先、Bリーグをサッカーや野球のように日本でもっと盛り上げていくためには、選手のパフォーマンスやレベル、技術の高さというのが大事だと思うので。そういった意味では、自分も含め選手たちが今以上にもっといいもの見せなきゃいけない。そういう思いはより強くなりましたね。
――田中選手は、プロ化前のトヨタ自動車アルバルク東京から所属されていましたが、プロ化する前後でチーム内ではどういった変化がありましたか?
田中:名前を聞いてわかるように、トヨタ自動車という大企業がついているので、言い方はおかしいかもしれないですけど、ある程度安定した環境の中でやっていたかなと。プロ化してからは、生々しい話ですけど自分の力一つでいい契約が結べたり、どんどん自分の価値を上げられるということが、今、どんどん目に見えてきているなと思うので。昔はレベルがトップの選手でも低い選手でもそんなに幅がなかったのが、今はどんどん上に行く選手は上に行っているし、そういった部分はすごく変わってきているんじゃないかなと感じますね。
チームとしても、プロ化したことで収入を得ないといけないですし、いかにたくさんの人たちが試合を見に来てくださることで成り立っていくのかというところは、やっぱりプロ選手としての意識が高まりました。みんな今のほうがハングリーだと思いますし。例えば「代表にもっと入りたい」「もっと自分自身の価値を上げたい」とか。そういう選手が増えているのはすごくいいことだと思っていて、そういう意識レベルからどんどんステップアップしていっているなと感じます。
――そのようにBリーグが発展していく中で、より良い変化をし続けるためにはどんなことが大切だと思いますか?
田中:個人的には、全てにおいて満足しているわけではないですけど、Bリーグができてからポジティブな変化がほとんどで、Bリーグ自体もいい方向に進んでいるなという手ごたえを感じながらやってこれているイメージはあります。まだリーグができて日が浅いので、これから年数を重ねていく中で注目度や人気を毎年どれだけ上げていけるかというところは、これからも課題になってくると思いますし、選手たちも意識しているはずです。
なので、なおさら今回コロナの影響で試合中止になったことはすごく残念ですけど。次はどうしていくかということを、みんなで考えながらやっていかないといけないと思います。
「子どもたちが具体的な将来の目標をイメージできるように」
――一年一年が大事だという中で、今後の日本バスケットボールの未来への思いを聞かせてください。
田中:まずはやっぱり、代表。日本代表が世界で結果を出せば間違いなく国内も盛り上がると思いますし。今、Bリーグは少しずつですが、すごくステップアップしているしみんなそれぞれ頑張っていますけど、やっぱり代表は、なかなかまだ世界で戦えるレベルかというと、そうじゃないので。代表のレベルが上がってくれば、バスケットボールをやっている子どもたちも「将来Bリーグを目指して頑張って、日本代表として世界と戦いたい」というようにもっと具体的なイメージが持てるはずなので、そこが一番大事なのかなと。
もう一段階上に行くために、もっと世界で活躍できるようにレベルが上がっていけば、ますます盛り上がると思うので。自分は日本代表の一員としても、なおさらもっと頑張らないといけないなと、いつも思っています。
――田中選手が子どもの頃は、すでにプロのバスケットボール選手になるという夢を持っていたのですか?
田中:まったくなかったですね。始めたきっかけも小学2年生の時によく遊んでいた友だちがみんな急にバスケットボールを始めて、それに置いていかれるのが嫌で始めたぐらいなので。自分がずっとバスケットボールをやり続けることになるとは考えてもいなかったですね。
――バスケットボールをやっていくうちに、だんだん楽しさを覚えてここまで続けることになったのですか?
田中:最初は、友だちと一緒に何かできればいいなという感覚で始めたんですけど、今でも覚えているのが、試合で負けるのがめちゃくちゃ悔しくて、試合に負けると毎回泣いていたぐらいで。そこからどんどんのめり込んでいって、「もっとうまくなりたい」とか、そういう気持ちが出てきたんだと思います。
レベルアップのためには、世界と戦う機会を増やして継続するしかない
――昨シーズンは、ワールドカップ出場やBリーグでMVPに選出されるなど、田中選手にとって飛躍の年になったと思いますが、心境や考え方に何か変化はありましたか?
田中:Bリーグの開幕戦を戦わせてもらったところから、意識が大きく変わりましたね。それが今後のBリーグのイメージをつくっていく一発目の試合だったので。そこから、これまで以上に真剣に打ちこまなきゃいけないと思いましたし、自分たちが次の世代に与える影響などを意識し始めてからは、自分自身もレベルが上がったと感じますし、充実したバスケットボール生活を送れていました。ところが昨年夏のワールドカップで、きれいにへし折られたというか……。本当に狭い世界でバスケットボールをやっていたんだということを思い知らされた大会だったので。
個人としても、天狗にはなっていないですけど、やっぱりどこか国内ではある程度やれているという感覚があったと思うんです。でも、世界の高いレベルを直接肌で感じて、「やっぱりこのままじゃダメだな」と感じて、これからどう戦ったらいいんだろうと考えながら戦ったシーズンでした。そういった意識の変化が、最後にMVPを受賞できるような結果につながったのかなと個人的には思います。
――ワールドカップを通して、特にどういった部分で世界との差を感じましたか?
田中:「体格ではもともと劣っていても、技術は日本人のほうがうまい」と昔から言われていたんですけど、実際は全然世界のほうが上だったんですよね。サイズも技術も、すべてにおいて、世界のほうが一つも二つもレベルが高かったなと感じます。
現実を見せられてショックを受けましたけども、なるべく前向きに考えるようにしていて。自分が初めて日本代表に選ばれた時は、まだ「アジアで勝とう」というレベルだったのが、13年ぶりに世界のレベルを感じるチャンスが訪れて、そんなに甘い世界ではないと改めて感じましたし。
世界と戦う機会をどんどん増やしていけば間違いなくもっとレベルが上がってくると思うので、それを継続するしかないのかなと。何事も急には絶対うまくいくわけないので。今回は今までで一番強い日本代表チームだと言われてワールドカップに挑んだにもかかわらず、ああいう結果になってしまったので、ここから力をつけていくしかないのかなと思います。
――壁を越えていくために成長の機会を作っていくということが、今後のために必要なことなのですね。
田中:僕たちはプロなので、「いい経験をして帰ってきました」っていうのは通用しない世界です。やるからには結果が求められますし、それはもちろん理解はしてるんですけど。ただ、そんな甘い世界じゃないので、やっぱりそういった経験をどんどん続けていくしか、強くならないと思います。
――逆に、世界と比べて日本のバスケットボール界のいいところは何だと思いますか?
田中:例えば今、世界的に新型コロナウイルスが猛威を振るっている状況でも、しっかり選手を守っているリーグとしてBリーグが海外から注目されているそうです。なので、そういった環境面のよさから日本でプレーしたいという外国人選手が、昔よりもどんどん増えてきています。
昔だったら到底考えられないような高いレベルの選手も、今どんどん日本に来ている流れがあるので、それはすごくいいことだなと。実際に、自分のチームにも外国人選手がいますが、「こんなに安全で、プレーに集中できる環境は世界を見てもそんなにない」というような話を聞きます。「日本はすごくいい所だ」ってみんな言いますし。そういった環境のよさは、世界に誇れる部分だと思います。
――2012年に日本代表に初選出された時から、日本代表チームに変化を感じるところは?
田中:自分が初めて選出された頃は、日本代表が世界で戦う姿なんて想像できなかったというか、アジアでも勝てないレベルだったので。もちろん、選ばれたことは光栄なことですし、なんとか結果を出さなきゃいけないという気持ちはありましたが、正直なところ、難しいのかなという思いがありました。
でも、それからBリーグができたり、選手一人ひとりの意識が変わったり、アメリカの大学に行く選手もいれば、NBAでドラフトされる選手も出てきたり、そういう明るいニュースがどんどん出てきて。自分たちでも不思議なくらい、急にポンッとレベルが上がったんですよ。もちろん、帰化選手が入ってきたというのもあるんですけど。
そこで、日本で行われたワールドカップのアジア予選(2018年6月29日 FIBAバスケットボールワールドカップ2019 アジア地区1次予選)で、強豪のオーストラリア(当時FIBAランク10位)に勝ったり、アジアでも勝つ機会がどんどん増えたりして。そういう経験を重ねることでみんなに自信がついて、もっと上を目指したいという欲が出てきたというのが、一番変わった部分かなと思います。
――チームの顔であり、引っ張っていく存在としてどのようなことを心がけていますか?
田中:年齢的にも常にいいリーダーでいることを意識しながら、みんなが自分の背中を見てやっているという感覚でやっています。あんまりああだこうだ言うタイプではないので、自分が誰よりもハードに練習やトレーニングに取り組むことで、その姿を見てチームメイトたちにもいい影響を与えられたらいいなと。自分は代表にも選ばれた身なので、代表で経験したことをチームに持ち帰って、周りの選手がそれを見て何かを感じ取ってくれたらいいなと思っていますし、そういうことが結果的にいいリーダーシップにつながればいいのかなと考えながらやっています。
――チームを引っ張っていく立場でもあり、日本代表としてバスケットボール界を盛り上げていく立場としても、さまざまな期待や注目を浴びる存在ですが、その中で田中選手のリフレッシュ方法があれば教えてください。
田中:シーズン中は通常、土日に試合をやって月曜日が休みになることが多いので、オフの時は友人と食事に行ったりするのが一番リフレッシュになっていますね。食べるのが好きなので。
――お肉が大好きだと伺いました。
田中:そうですね、焼肉が大好きです(笑)。最低限の食事バランスはもちろん気をつけているんですけど、個人的にはあまり食事面でストレスを感じたくないので、食べたいものを食べるタイプです。
――外出自粛期間中の食事はどうしていましたか?
田中:今までまったく料理をやったことがなかったんですけど、時間があったので自分で作ってみようかなと思って、いろいろチャレンジしました。簡単なものですけど。あとは、チームの栄養士さんが、普段は練習後に体育館で食事も全部出るんですけど、家に持って帰れる用に食事を作ってくださっていたので、それをお願いしたりしていました。
一番の目標は、やっぱり「東京五輪」
――MVPに選ばれたり、日本代表の主力メンバーとしても活躍している中で、より注目される機会も増えたと思いますが、見られる立場として意識していることがあれば教えてください。
田中:いつ誰に見られても恥ずかしくないように、最低限の身だしなみは心がけています。でも、シーズンが始まると試合の時以外は周りの人に会う機会がそもそもあんまりないので、そこまで意識はしてないかもしれないですね。
身だしなみで言うと、MARO(マーロ)のシャンプーは見た目のとおり、使い心地も爽快感があってスッキリするので、夏にぴったりです。暑い時期は特に汗のにおいが気になる人も多いと思うので、香りも爽やかでいいなと思います。これまであんまりスッキリするタイプのシャンプーを使ったことはなかったんですけど、練習や試合後にも使ってみたいですね。外国人選手も好きそうです。外国人選手のロッカーに置いたら、きっと使うと思います。
――新シーズン、そして東京五輪に向けて今後の目標を教えてください。
田中:自分にとって、今一番大きな目標は、やっぱり東京五輪です。東京五輪が決まった時から、一番自分の中での大きなモチベーションとしてやってきたので。それが今回延期になってしまって残念だなという気持ちもありますが、ワールドカップで結果が出なくて世界とのレベルの差を痛感した時に、正直「もう来年、東京五輪が来るのか……」という気持ちになって。ワールドカップに参加するのは32チームなんですけど、オリンピックは12チームなんですよ。なので、ワールドカップの中でもさらにトップ12しか出られないっていうイメージなんですよね。
なので、そこに自分たちがポンと行った時にどうなるのか考えたら、ちょっと大変だなと。1年延期になったことでチームとしても個人としても、間違いなく今年迎えるよりはいい状態で迎えられるはずですし、そのために時間が必要だと思います。プラスに捉えて来年なんとか開催されることを願ってオリンピックの舞台に立ちたいですね。もちろんチームでも、アルバルク東京は3連覇がかかったシーズンだったので、来シーズンはそれをかなえたいというモチベーションもあります。
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<了>
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PROFILE
田中大貴(たなか・だいき)
1991年9月3日生まれ、長崎県出身。ポジションはシューティングガード。長崎西高校卒業後、東海大学に進学し、関東大学リーグで優勝・MVP受賞、全日本大学選手権では2連覇、2年連続MVP、MIPの2部門を受賞するなどの活躍を見せた。大学2年生の2010年は第26回ユニバーシアードに出場し日本代表としても活躍。2014年よりトヨタ自動車アルバルク東京にアーリーエントリー制度で入団し、NBLルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。2016年にプロリーグ統合に伴いチームはBリーグに参入し、自身初となるBリーグ年間ベストファイブに選出。2017-2018シーズンはBリーグ優勝、2年連続となるBリーグ年間ベストファイブとファイナルMVPの栄誉にも輝いた。2018-2019シーズンには2連覇を果たし、2019-2020シーズンにおいてチームを最高勝率に牽引する活躍を認められレギュラーシーズンMVPとベスト5をW受賞。日本代表では2012年に初選出され、2012年FIBAアジアカップ準優勝、2013年アジア選手権9位、2014年には第4回FIBAアジアカップで6位、仁川アジア競技大会で3位に導き、主力メンバーとしてチームを率いる。
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