高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?

Opinion
2024.07.08

高校生年代におけるラグビー人口の減少は深刻だ。その大きな理由の一つとして少子化の加速によって高校生自体の数が減っていることが挙げられるが、サッカーやバスケットボールといった他競技に比べてラグビーの競技人口減少はより顕著だ。ではそこにはどのような問題が横たわり、日本ラグビーフットボール協会や現場の指導者たちはどのような打ち手を考えているのか?

(文=向風見也、写真=アフロスポーツ)

20年で競技人口が半減。加えて生じる「二極化」問題

ブームの追い風が効いていない。ここ数年、高校のラグビー部やラグビーをする高校生の数はどんどん少なくなっている。

全国高等学校体育連盟(高体連)によると、前年度の高校のラグビー部の数とその部員数はそれぞれ「863」「17037」。20年前にあたる2003年度の「1252」「30419」より激減している。競技人口に至っては、約半分に減っている。

その間には2015、2019年のワールドカップで日本代表が結果を残し、競技認知度を爆発的に高めている。それでも、五郎丸歩や松島幸太朗のようになりたい少年少女の層、ないしはその受け皿は広がっていないのである。

折からの少子化で各競技のプレーヤーは増えない向きにあるが、ひときわ打撃を受けているのがラグビーだと指摘される。

加えて、高校ラグビー界で起きているさらなる問題に「二極化」がある。

15対15という大人数での団体競技なうえ、身体衝突もあって個体差が生じやすい。そんな競技特性もあってか、中学までに腕に覚えのある人が行きたい学校はいくつかの強豪校に絞られがちだ。

競技人口の総数が目減りしているいまもその潮流が続くからか、全国行きを争う名門が大所帯となる一方、単独で公式大会に出られないチームが全国で続出している。

「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度

「二極化」問題で生じるのは、二つのデメリットだ。

一つは一定の競技力のある選手がレベルの高い所属先でレギュラーを取れず、公式戦の経験を積めないというケースが生じやすいこと。もう一つは、エリートクラスではない立ち位置でこのスポーツを楽しみたい人のための環境が見つけづらくなることだ。

そのひずみは、トップカテゴリーへも少なからぬ影響を与える。

1980年代から1990年代に大学選手権で優勝を争っていた強豪大学の指導経験者は、このように指摘する。

「昔は強豪校のエースがよそに取られても、都道府県予選の1、2回戦で負けるチームにもずば抜けた『お山の大将』みたいな選手がいて、そういった選手を集めてチームが作れた。いま現場に立つ指導者は、それがやりづらくなっているのではないか」

この問題は看過できない。統括団体の日本ラグビーフットボール協会(日本協会)は、きっとそう思ったのだろう。

2024年4月1日より、同協会規約にある「チーム登録等に関する規程」の 「第3章 チーム登録等の手続 第12条の2(複数登録の禁止)」に例外規程を設けた。

従来は男子高校生の選手が二つのチームに登録できないことになっていたが、公式大会に出られる「主チーム」のほか、出場できるゲームに制限のある「副チーム」を登録できる。

例えば、在籍する高校のラグビー部を「主チーム」、学校の垣根を取り払った各地域のクラブチームを「副チーム」として活動できるわけだ。登録上のクラブの定義も「満18歳以上で構成されたチーム」だったのが「15歳以上(中学生未満はのぞく)」に見直された。

これなら「所属チームは変えたくないが、そのチームのメンバーが少ないため大人数で練習する場所が欲しい」など、さまざまなケースに対処できそうだ。

コルツの挑戦「理想は全国に我々のようなクラブが増えること」

日本協会の岩渕健輔専務は言う。

「全国のあらゆる世代の競技者がチームに所属しプレーを継続できるよう、環境の整備を続けたいです」

そういった課題解決への第一歩を評価しつつも、さらに着手すべきことがあると語るのは徳増浩司氏。元日本協会理事で、2019年のワールドカップ日本大会招致に携わった国際派だ。

いまは、渋谷インターナショナルラグビークラブ(SIRC)という組織のチェアマンを務める。インターナショナルスクールに通う子どもたちと日本の子どもたちが、一緒にラグビーを楽しむことを目的として作られた組織だ。英語でラグビーを指導するのも特徴的なこのSIRCは、今度の規約改正に先んじて高校生年代のクラブチームを運営している。SIRCの中学部を卒業した会員の受け皿として、2019年に渋谷バーバリアンズを結成した。

選手は外部からも集まる。県外から通うあるメンバーは海外留学の経験者。活動は原則、週に1回のため、季節や曜日によって違う種目に親しみたい学生も加入しやすい。

他方、競技力があり、都内屈指の古豪ラグビー部のある学校に通いながら、その環境に馴染めないという青年もこのクラブの門を叩いている。

渋谷バーバリアンズは昨年からはコルツと名称を変えた。するとその年に、日本協会が一芸に秀でた高校生を集めるTIDキャンプ、通称ビッグマン&ファストマンキャンプに当時高校1年の竹本良佑を輩出した。各選手の高校名が並ぶメンバー表の「所属」の欄に「渋谷インターナショナルラグビークラブColts(コルツ)」という名前が刻まれたのだ。

地道なアクションは口コミで広がった。コルツはこの春、40名超の入会希望者から連絡を受けて募集を止めた。夏には全国7人制大会の東京都予選に初出場した。

徳増氏は、クラブの可能性を感じる。

「私の理想はコルツの人数を増やすことではなく、全国に我々のようなクラブが増えることです」

現状コルツは、高体連主催の全国大会予選に参加できない。コルツが全国7人制大会の予選に出られたのは、その大会が日本協会の管轄下にあったからだ。さらにクラブの総数が限られているため、クラブだけを対象にした大規模な大会はない。

何より高体連の部活は、熱量の大小こそあれ競技実績を作ることを目指す。自ずと1週間あたりの練習日数は増えるため、前掲したコルツの留学経験者のような志向の持ち主は入りづらいのが実情だ。

スポーツをする人権が高校から失われている

岩渕専務理事も「規程の変更だけで環境が改善するわけではない。さまざまに活躍できる機会を作っていかなければいけない」と課題山積であることを認める。

今後着手されるべきは、各地でクラブの数を増やし、かつクラブが活躍できる場を広げることだと徳増氏は言う。

「少子化のためにラグビーをする子が少なくなったと言われますが、それぞれにラグビーができない事情があるんです。(いまのラグビー界は)日本の高校のラグビー選手のニーズに答えられていない。本当の受け皿がないのです。

 いまの高校生には、楽しいことがいっぱいある。『ラグビーも楽しみたいけど、ラグビーだけではない』という価値観を受け入れる柔軟性が必要になってくるんじゃないかと思います。

 日本協会は参加するのが2~3チームになるとしてもクラブの大会を作るべき。鶏が先か、卵が先かではありませんが、まず大会があればチームは増えてくる」

クラブのプレゼンスを上げられるよう手を打てば、競技人口の減少や二極化という問題もずいぶんと解消されるのではないかと徳増氏は話す。少なくともコルツでは、ハイレベル志向とエンジョイ志向という「二極化」の両極にいそうな選手が共存している。既存のシステムのもとではラグビーをやめてもおかしくなかった学生がラグビーを続けているという事実が、そこにはある。

今回の二重登録の仕組みにおいて、「主」が高校、「副」がクラブを前提とされることにも、徳増氏は異を唱える。

「本来なら、(高校とクラブの)どちらを『主』にするかは本人が選べるようにしなくてはいけません」

家庭の事情で進学が難しい若者の存在も加味してか、こうも言及する。

「いまのルールでは、全国高校大会の予選に出るには(ラグビー部のある)高校に入らなくてはならない。中卒で働いている人やラグビー部のない夜間高校の生徒は、クラブには加われますが、(高体連の行う全国大会関連の)大会には出られないのです。スポーツをする人権が高校から失われているともいえます」

ちなみに徳増氏は元茗溪学園ラグビー部監督。昭和最後の全国高校ラグビー大会で決勝中止に伴う同時優勝を果たした実績を持ち、これまでの高体連の貢献度には最大級の敬意を払う。あくまで時代に即した新案として、今度の話をしてくれた。

「高校の先生も我々も、やっていることはラグビーの普及です。その場所が高校であろうが、クラブであろうがいい。そういう大らかな気持ちがないといけない」

<了>

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