欧州サッカーが未来を創る? UEFAがスタートアップ3社と生み出す「体感」とは

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2019.11.13

今や欧州サッカー界は、世界のサッカーをリードする存在と言っていいだろう。クラブのブランド価値ランキングでは欧州勢が上位を占め、UEFAチャンピオンズリーグはFIFAワールドカップをも凌ぐ世界最高峰の大会となった。だが、欧州サッカー連盟(UEFA)はさらなる高みへ、歩みを止めるつもりはないようだ。UEFAがサッカーの新たな未来を創造するために始めた取り組みを紹介する。

(文=川内イオ、写真=Getty Images)

UEFAがスタートアップ3社との提携を発表

アメリカでは、4大プロスポーツリーグ(NBA/バスケ、NFL/アメフト、NHL/アイスホッケー、MLB/野球)がベンチャー企業と組んでさまざまな取り組みを行っている。その波に乗るように、欧州サッカー界でも新しい動きが始まった。10月18日、欧州サッカー連盟(UEFA)は、スタートアップ企業3社と提携したことを発表した。

「テクノロジーとイノベーションを駆使して、ピッチ内外のゲームをリードする」と公約を掲げるUEFAが「スタートアップチャレンジ」プログラムをスタートしたのは、今年1月。UEFAは、「スタートアップチャレンジ」のために準備した、12週間にわたるアクセラレータープログラム(大企業や自治体が新興企業に出資や支援を行うことにより、事業共創を目指すプログラム)に参加するスタートアップを公募した。

そして2月12日、書類審査を通過した18社がプレゼンを行い、7社がアクセラレータープログラムへの参加権を獲得。12週間のプログラムは、翌月からスタートした。

スイスのローザンヌを拠点とするこのプログラムでは、FIFAマスターの運営教育研究機関であるスポーツ研究国際センター(CIES)、著名なビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD)などの学術機関や、イノスイス(スタートアップ支援組織)、スイスに本社を置く食品世界大手ネスレの子会社ネスプレッソなど幅広いジャンルから招へいした専門家からコーチングを受ける。その内容は、リーダーシップやチームワーク、人工知能など多岐にわたった。

AIによって自動でハイライト動画を生成

いかにも本気度の高いこのプログラムを経て、UEFAとの提携を実現したのが、WSC Sports、Formalytics、LiveLikeの3社だ。それぞれ、紹介しよう。

WSC Sports は、AIによって自動でハイライト動画を生成する技術を持つイスラエルのスタートアップだ。同社に出資するNTTドコモ・ベンチャーズによると、同社はすでにアメリカのNBA、ドイツのプロサッカーリーグ・ブンデスリーガ、北米プロゴルフのPGAツアーなどに採用され、2018年には85万本以上のハイライト動画を生成しているという。

日本でも、日本企業2社と組んでこの10月からJリーグのハイライト映像の提供をしているほか、プロバスケットボールリーグのBリーグでも採用されている。

同社はブラジル市場に向けてブラジル人選手に焦点を当てたハイライト、フランス市場に向けてフランス人に焦点を当てたハイライトなどをリアルタイムで生成できる技術を持ち、すでにUEFAチャンピオンズリーグとUEFAヨーロッパリーグでの実装がスタートしている。

あらゆるプレーヤーがサッカースキルを改善できるアプリ

Formalyticsは、2016年に設立されたオーストラリア・パース発のスタートアップ。昨年、独自開発のボール追跡技術を用いてスマホで自分のシュートの精度やスピードなどを分析でき、AR(拡張現実)によってキックターゲットで遊ぶことも可能なアプリ「myKicks」をリリースし、3カ月間で6万5000ダウンロードを記録して、話題を呼んだ。

今回のプログラムでは、モーショントラッキングシステムによってあらゆる年齢、能力のプレーヤーがサッカーのスキルを自分で確認し、改善できるアプリを開発した。同社のCEOは、今後、UEFAと協力として欧州でプレーするプロ選手のプレーデータを取得し、「プレーヤーカード」を作成するとしている。恐らく、ファンがスマホでそのデータを見ながら試合を楽しんだり、自分のトレーニングに活用することを想定しているのだろう。

VR観戦で没入体験、放送局やクラブは既存の設備で配信可能に

LiveLikeはアメリカのスタートアップで、VR(バーチャルリアリティー)を用いたスポーツ中継サービスを提供している。同社に出資している電通ベンチャーズの資料によると、LiveLikeのプラットフォームを使用することで、放送局やスポーツクラブは既存の映像設備でライブVR配信が可能になる。

ユーザーは、ヘッドセットを装着して、同社のライブ配信アプリで試合を見ると、バーチャル空間上のVIP専用席からゲームを観戦できる。さらに、プレーヤーの統計情報を見たり、プレー映像をさまざまな角度で視聴することが可能になる。

この独自技術に加えて、試合の展開を見ながらプライベートチャット、グループチャット、パブリックチャットを設定することもできるなど、参加型の観戦体験を提供することで、視聴者とのエンゲージメントを高めることが評価されたようだ。

さらに多くの新規事業をスタートしていく可能性も

UEFAのメディア「UEFA.com」は、今回の提携に関して、UEFAの財政的持続可能性とリサーチ部門担当ディレクター、アンドレア・トラヴェルソ氏のコメントを掲載した。

「3つのスタートアップとサインする機会が得られたことをうれしく思います。将来的には、さらに多くのスタートアップをフォローする可能性があります。UEFAは、ビジネスワーキングモデルを改善し、ファンとのエンゲージメントを高めるために、革新、研究、開発のプラットフォームを作成し、最新のテクノロジーとデータの使用をサポートする必要があります。そうすることで、サッカーの未来を健全に保つことができるのです」

3社の事業を見ると、UEFAがサッカーファンの「体験」に強い関心を持っていることがうかがえる。UEFAは、メディアの取材に対して「これらのスタートアップに出資も投資もしない」と明言しているが、今後の協業でどのような新規事業が創造されるのか、注目だ。

<了>

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