『うんこドリル』に『バブリーナイト』。今一番注目の金沢「グッズ担当の女」とは?
「ツエーゲン金沢グッズ担当の女です。新商品の紹介などゆるーくツイートしていきます」という紹介文とともに、クラブの公式とは別にTwitterでグッズ情報を発信しているアカウント「グッズ担当の女@ツエーゲン金沢」がひそかにサッカーファンの注目を集めている。
実は金沢にとって収入面で大きや役割を果たしているのがグッズなのだという。この仕事をほぼ一人で担当し、Twitterアカウントの“中の人”でもある女性担当者に話を聞いた。
(文・写真=宇都宮徹壱)

注目を集める「グッズ担当の女」の中の人が登場
このところJクラブの公式とは別に、個別アカウントからTwitterで発信する「中の人」が増加傾向にある。その多くはクラブの代表や名物フロントだが、個人的に注目しているのが「グッズ担当の女@ツエーゲン金沢」。その名のとおり、J2所属のツエーゲン金沢でグッズを担当している女性スタッフのアカウントである。どうも文面や写真から察するに、20代くらいの若い女性のようだ。
金沢といえば、ゲンゾイヤーとヤサガラスによる「ピッチ外」での正義と悪の対決。あるいは、早見優をゲストに呼んでの『バブリーナイト』や『うんこドリル』(文響社)とのコラボレーションなど、試合以外での話題でも注目を集めることが少なくない。すでにいくつかのメディアでも取り上げられているが、なぜかグッズについては顧みられることはなかった。
実は金沢にとって、グッズをはじめとする物販での収入は重要な意味を持っている。ホームゲームでの毎回のイベント費用を十全にカバーしているのがグッズの売り上げ。しかも毎回のホームゲームに、新商品をほぼ3種類も販売しているのだそうだ。J2のホームゲームは年間で21試合。ということは、1年で60種類以上のグッズを開発していることになる。
これだけの数のグッズを、20代の女性スタッフがほぼ一人で担当していることに、まず驚かされる。加えて業者とのコミュニケーション、新製品情報のSNSでの発信、さらにホームゲーム当日には自ら売り場にも立つ。そんな「グッズ担当の女@ツエーゲン金沢」の中の人が、今回登場していただく中野由茉さんである。入社3年目の25歳。まずは、Jクラブのグッズ担当となった経緯から語っていただこう。
「生まれも育ちも金沢です。地元の金沢大学で、地域創造学類の健康スポーツコースを専攻していました。もともとソフトボールをやっていたこともあって、将来は漠然とスポーツの仕事をしたいと思っていました。それで大学3年の時(2015年)、ツエーゲンのインターンに採用されて、その時もグッズの担当だったんです。もっとも当時は毎試合、新商品を出せない状況でした」
中野さんは大学卒業後、プロパー社員としてクラブに迎えられる。もちろんJクラブの仕事の大変さは理解していたが、「早く働きたかったし、休むことよりも仕事をしたい性分なので、そんなに気にしていなかったですね」。かくして、インターン時代の経験を買われて「グッズ担当の女」となった中野さん。そんな彼女にとって幸いだったのは、入社した2017年から、クラブが面白いチャレンジを始めたことである。

当時の音楽を聴いたり、両親に「肩パットって何?」って聞いたり
「ちょうどこの年、ヤサガラスとゲンゾイヤーが登場したんですよね。それとマスコットのゲンゾーをリニューアルするということで、新たに生まれたのが(女子キャラの)ナンシー。一気にマスコットが4体になって、グッズ展開がやりやすくなりました。もっとも、4体をまんべんなく出さないといけない縛りもあるんですが、間違いなく商品の幅は広がったと思っています」
ヤサガラスとゲンゾイヤーを発案したのは、事業企画部部長の中山大輔さん。中野さんいわく「中山はガイナーレ鳥取にいたことがあって、ガイナマンのイメージからヒーローものの着想を得たんだと思います」。一方で、数々のユニークなイベントを実現させてきたことでも知られる、中山部長。しかしアイデアマンであること以上に、入社して間もない女性スタッフにチャンスを与え続けたことに、私はこの人の非凡さを感じる。
「最初のイベントが『バブリーナイト』だったんですが、中山から『やってみて』と言われて、光り物のペンライトを出したらけっこう売れたんですね。とはいえ私、まだバブルの時代には生まれていないんですよ(苦笑)。ですからネットで調べたり、当時の音楽を聴いたり、それから両親に『肩パットって何?』って聞いたり(笑)。当時の動画とか見ると、本当に浮かれていたんだなって思いましたね」
中野さんの仕事で注目すべきは、そのデザインセンス。クラブカラーの赤を強調しすぎず、それでいてクラブらしさを損なうことなく、上品かつシズル感のある商品を提供し続けている。学生時代にデザインの勉強をしたわけではないので、もともと才能はあったのだろう。そんな彼女の力量が試されたのが、文響社の『うんこドリル』とのコラボレーション。モノがモノだけに、どうグッズに反映させるかが難しかったという。
「コラボの狙いは、キッズの来場を増やすことでした。ただし『うんこ』というワードや見た目に抵抗を覚える人も多いし、デザインで大きく扱うとグッズとしても使いづらいですよね。やっぱりインパクトだけを考えるのではダメで、買っていただいた方が長く使えることを第一に考えました。それと『うんこ』の見せ方も、外で使うバッグと部屋の中で使うクッションでは、あえて変えてデザインしましたね。幸い、このイベントでのグッズの売り上げは、通常の2倍以上でした」
ここで少し観点を変えてみることにしたい。金沢駅周辺や繁華街で知られる片町を歩いていて気づくのが、地元のJクラブに関するポスターやノボリといったものが、まったくと言ってよいほど見当たらないことだ(店の中は別だが)。これは決して、クラブが怠けているわけではない。観光都市である金沢市は景観条例が厳しく、金沢駅といった主要な場所では、他のホームタウンのように告知用のポスターの露出が難しい(京都も同様の事情を抱えていると聞く)。その上で、中野さんはこう語る。
「だからこそ、多くの金沢市民の皆さんに、ウチのグッズを持っていただくことが大事なんです。グッズであれば、金沢にもJクラブがあることを、外から来た皆さんにも知っていただける。そういったことを意識しながら、商品のデザインをしています」
今年1月、クラブは「挑戦を、この街の伝統に。」という新たな理念を発表。その5本の柱は「つなぐ、楽しむ、夢見る、育てる、つくる」となっている。中野さん自身、それらを念頭に置きながら「自分も楽しめて、買っていただいたお客さんも楽しめるものを」日々制作しているという。本稿を締めくくるにあたり、グッズ担当に必要な条件について、中野さんにコメントしていただいた。
「あまりサッカーやスポーツに染まりすぎていないほうがいいかもしれないですね。むしろ、普段づかいとか日常的な感覚を大切にしたほうが、グッズ担当として売れるものが作れると思います。普通にアパレルのお店に行って、デザインとか商品の値段なんかをチェックすることも大事ですね。その意味では、むしろ女性向きの仕事かもしれないです」
<了>

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