楽天のNFTはJリーグに革命を起こせるか? “NBAで1年の売上760億円”NFTで仕掛ける未来戦略
劇的に世界を変えるとして、この1年で急激に注目度を高めている最新テクノロジーがある。「NFT」だ。インターネットの登場以来の“革命”をもたらすともいわれ、その市場規模は今や1兆4000億円を誇る。国内外のスポーツ界も新たな収益源の可能性を求めてさまざまな取り組みを始めている。果たしてNFTは、コロナ禍で経営に苦しむスポーツ界の救世主となるのだろうか?
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、トップ写真=Getty Images、本文写真提供=楽天グループ株式会社)
NBAではわずか1年で760億円以上の売上高のNFT。楽天が仕掛ける戦略とは?
世界中でNFTが活況を見せている。
昨年Twitter創業者のジャック・ドーシー氏が出品した初ツイートが3億円超で落札。著名人のみならず、日本の小学3年生の少年が制作したピクセルアートの取引総額が4500万円に達するなど、“無限の可能性を秘めている”としてその注目度はますます高まりを見せている。
スポーツ界においても、米プロバスケットボールリーグ・NBAのNFTサービス「NBA Top Shot」がサービス開始からわずか1年で760億円以上の売り上げを記録。この成功事例を目の当たりにした国内外のスポーツ団体・組織が、新たな収益源になり得るとして次々とNFT事業に参入している。
そんな中、4月にJリーグ公認NFT、「J.LEAGUE NFT COLLECTION PLAYERS ANTHEM(JリーグNFTコレクション プレーヤーズアンセム)」(以下、本コレクション)の第1弾が販売された。
「ピッチで生まれる熱狂の瞬間は、プレーヤーとサポーターが生み出す唯一無二のアートである」というテーマの下で展開された本コレクションは、ベストゴールやベストプレーなど試合の名シーンを集めたものだ。NFTマーケットプレイス「Rakuten NFT」で抽選販売された。売り上げの一部は、Jリーグを通じて各クラブへと還元されることになる。
コロナ禍で経営に苦しむスポーツ界にとって、NFTにはどんな可能性があるのか。どんな未来が待っているのか。そもそも、NFTとは何なのか――。
Rakuten NFTのサービスを提供する楽天グループ株式会社NFT事業部ゼネラルマネージャー 兼 楽天チケット株式会社代表取締社長の梅本悦郎氏、楽天グループ株式会社 コミュニケーションズ&エナジーカンパニー メディア&コンテンツ事業IPマネジメント事業部シニアマネージャーの菊池辰也氏に話を聞いた。
スポーツ界の新たな収益源となるか? 海外の成功事例は…
――先日Jリーグ公認NFT、「J.LEAGUE NFT COLLECTION PLAYERS ANTHEM」が販売され、サッカーファンの間で大きな話題となりました。NFTの市場は世界中で急激に拡大しています。ただ実際のところ、まだまだ“よく分からない”という人が多いとも感じます。まずは「NFTとは一体何か?」を教えてください。
梅本:NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)は、簡単にいえばデジタルコンテンツの“権利書”“証明書”です。過去から現在に至るまで、誰が・いつ・いくらで売買したかという取引の履歴が数珠つなぎのように記録されるブロックチェーンという暗号技術を活用していて、画像や動画などのデジタルコンテンツの“唯一無二性”を証明することができます。
――なぜ今、世界的にNFTが注目されるようになったのですか?
梅本:アメリカを中心に海外で注目され始めて、今現在約1兆4000億円規模の市場が出来上がりました。これまで動画や写真、音楽といったデジタルコンテンツが違法な形でSNSにアップロードされたり、アーティストや作者の許可なくディストリビューション(流通)されるといった状況がありました。まずはそうした権利を守ること。
さらには、二次流通市場においても新たなマネタイズの方法として活用できる、というのがNFT市場が急成長してきた背景にあります。これまで二次流通市場でデジタルコンテンツが転売されても、IPホルダーに対価が支払われないという現状がありました。NFTでは取引の記録が全て記録されるため、一次販売だけでなく二次流通においてもIPホルダーが利益を得られるようになります。
――スポーツ界で代表的なNFTの成功事例にはどのようなものがありますか?
梅本:サッカーでは、「Sorare(ソラーレ)」(※1)というフランスの会社が展開しているゲームが代表的な事例ですね。
(※1 実在するサッカー選手のNFTカードを所有し、自分の好きなようにチームを編成して他のプレーヤーと競い合うファンタジーゲーム。所有しているカードの選手が現実世界で活躍すれば、ゲーム内の評価にも反映され資産価値が上がることになる。NFTカードは暗号資産を用いてNFTマーケットプレイス上で自由に売買することができるため、ゲームとして楽しむだけでなく、投資対象にもなり得る)
菊池:一番はやはりSorareだと思います。キリアン・ムバッペのNFTカードの話が経済ニュースとして報道されたりするほど注目されていました(※2)。あとは「NBA Top Shot」(※3)がスポーツ界の先駆者ですので、そのあたりは参考にしています。
(※2 Sorareで発行されたムバッペのNFTカードが約670万円で落札されたことや、同カードが二次流通でさらに高値が取引されているといったニュースが、スポーツやゲームのメディアだけでなく経済メディアでも報じられた)
(※3 NBA選手のトレーディングカードがNFT化され、ブロックチェーン上で販売・収集・展示ができるサービス。カードには選手の名プレー動画が格納されている。NFTマーケットプレイス上で自由に売買でき、スター選手や有名なプレーのトレーディングカードは特に高値で取引されている)
ただこうした成功事例から学びつつも、そのまま倣うだけでは日本での成功は難しいだろうと考えていました。日本と海外のマーケットではトレーディングに対するカルチャーも違いますし、どうアレンジするのか、いかに独自性を出すのか。今回の場合、Jリーグのファン、各クラブのサポーター、さらにはクラブやJリーグ全体のために、われわれは何ができるのか。そうした目的のために、成功事例から学び取ろうとしてきました。
サポーター、リーグ、クラブ、選手、地域、未来のサッカー少年少女のために
――今回Jリーグとタッグを組んで公認NFTを制作・販売するに至った経緯を教えてください。
梅本:Jリーグと楽天グループはこれまでにもさまざまなテーマで継続的に議論してきているのですが、昨年の春から夏にかけて、NFTという商材でどういったコラボレーションができるかブレインストーミングをしてきました。秋・冬には具体的に契約内容を決めて、今年の2月にサービスローンチ、4月に第1弾を抽選販売しました。
菊池:背景には、スポーツとNFTの可能性を追求したいという思いがあります。僕は小さいころからボールを蹴って育ってきたのですが、プロの選手たちの瞬間瞬間のプレーから学んで、夢を見させてもらってきました。一方で、リーグやクラブ、選手はさまざまな課題を抱えています。ビジネス視点だったり投資対象としてのNFTではなくて、ファン・サポーター、リーグ、クラブ、選手、地域、さらには未来のサッカー少年少女のために、楽天グループとして何ができるのか。われわれはヴィッセル神戸というチームを保有していて、まさにJリーグの身内という存在ですから、そうした立場から、われわれだからこそできるNFTをやろう、と。いちファンとして、そして楽天グループの一員として今回の事業に関わるにあたって使命感を覚えています。
――Jリーグが公認NFTの制作・販売のタッグに楽天グループを選んだ理由はどこにあったと考えていますか?
梅本:楽天グループには70を超えるサービスがあって、それらのサービスを1億以上のメンバーが使っており、その規模は日本の人口の90%以上相当にも及びます。ただNFTを販売して“モノ”という形でメンバーに提供するだけではなくて、“モノ”から“コト”につながるようなサービスを提供することで、新たなユーザーエクスペリエンスを生み出せるのではないか、と。例えば、ヴィッセル神戸や東北楽天ゴールデンイーグルスの試合を見に行った人だけが、その試合のベストモーメントをNFT化して無料でもらえるようにすることも考えられます。
また楽天コレクション、Rakuten Music、Rakuten TVなどのさまざまな楽天のサービスと連携させる形でJリーグのNFTの認知度を上げることも考えられます。というのも、日本でNFTを買ったり使ったりしたことがある人はたったの人口の約3%しかおらず、そのほとんどが投機筋だったり、“テッキー”と呼ばれるブロックチェーンに詳しい人たちです。そのIP、今回の場合でいえばJリーグのファン・サポーターにどれだけNFTを知ってもらえているかというと、まだまだ全然知られていないと思います。
楽天グループの70以上のサービスと連携し、“モノ”から“コト”につながるような体験型のNFTサービスを提供する、それと同時に、楽天グループの他のサービスと連携させることで認知度を上げていく、という点がJリーグに評価されたポイントだと思います。
サッカーを視聴する環境が大きく変わった時代背景に
――実際に販売をスタートしてから、どのような反響がありましたか?
菊池:総じて、とても高評価を頂けております。今回われわれが力を入れたのが“編集”です。昨今サッカーを見る環境が変わったと思います。動画配信サービスなどでダイジェスト映像を見られるなど、情報は手に入れやすくなりました。ただそうした情報に触れるには自ら手を伸ばす必要があり、以前のようになんとなくテレビをつければ見られるわけではありません。そうした環境の中で、われわれが何をすべきか考えたときに、いろんな階層のファンに対してそれぞれ適したNFTをお届けしよう、と。
例えば、一つは、今回第1弾で販売した「AUTHENTIC(オーセンティック)」というラインでは、比較的廉価で、格好よく編集はしていますがシンプルにプレーを見たい人たちに向けて制作しています。もう一つは、NFTという視点で考えたときに希少価値・付加価値が高いものが求められるだろうということで、先日リリースした「CULTURERISE(カルチャライズ)」というラインでは、アートエフェクトや音楽を加え、プレーをより格好よく洗練した形に編集しています。今後はさらに「SPECIAL(スペシャル)」というラインで、現代を代表するクリエイターとコラボして、世の中に一つしかないような、本当に少数で希少性の高いものにしよう、と。JリーグもNFTも、皆さんが歩んできた人生や価値観によって、その捉え方や使われ方が違ってくると思いますので、いろいろチャネルでさまざまな人たちにお届けできるよう構成しています。SNSでの反響を見てもとてもいい反応を頂いているので、このやり方は間違っていなかったのかなと感じています。
梅本:おかげさまでセールスでもとてもいい結果が出ています。
――今後このNFTコレクションの価値をより高めていくという意味では、菊池さんの言うように格好よく編集するというのはこれまでJリーグでなかなかこだわってやってこれなかった部分なのでとても大事なことだと思います。他にも、例えばNFTを購入した人同士のコミュニティーについてはどのような取り組みを考えていますか?
梅本:Jリーグだけの話ではないのですが、Rakuten NFTで購入したNFTプロダクトを“自慢”できる機能を実装する計画も構想としてあります。例えば、“〇〇選手”の“〇○のプレー”の“シリアルナンバー1”をゲットした、といった喜びの気持ちを発信することで、Rakuten NFTの中で自発的にファンコミュニティーが醸成されていくのではないかと考えています。他にも、まだまったく白紙の状態ではありますが、例えば自分が欲しいプロダクトを持っているユーザーに対してトレードしてくれないかとか、販売してくれないかとか、そういった取り引きに関するコミュニケーションが自由にできる仕組みをサポートしていきたいと考えています。
海外ではNFTを購入したファンが、選手とオフラインで交流できる権利も
――海外のNFTの事例を見ていると、例えばある選手のNFTを購入した人が、オフラインイベントでその選手と交流できるような事例もあります。
梅本:Jリーグとの取り組みではないのですが、今後、ヴィッセル神戸ともNFT企画を実現できたらと考えています。選手と交流できたり、(ホームスタジアムの)ノエビアスタジアム神戸での体験型NFTなど、オンラインとオフラインの融合というのはプロモーションとしても大いに考えられますし、将来的に実施していきたい取り組みだと考えています。
――ヴィッセル神戸や楽天イーグルスでは、オーナー企業としてより実験的な取り組みも実現しやすいわけですよね。
梅本:他社ではなく自社のIPですから、PoC(Proof of Concept/概念実証)でいろんな実験が可能になると思います。
――そこは他のNFTプラットフォーマーにはなかなかできない、本当にすごいメリットだと感じます。実際に成功した実績があれば、他にも展開しやすくなりますから。
梅本:そうですね、ヴィッセル神戸、楽天イーグルスと一緒にいろんなことにチャレンジしていきたいと考えています。
――今後Rakuten NFTではグローバル展開を予定していると思いますが、JリーグがNFTのグローバル展開を最大限に活用するにはどんなことが求められると考えますか?
梅本:グローバル展開は2023年以降を検討していることもあり、Jリーグとの契約に入っているのは日本市場だけで海外市場は入っていません。ただ、日本で作ったコンテンツをそのまま海外に輸出するだけではどれだけの反響が見込めるかが分からないので、Jリーグのコンテンツが、どのリージョンで、どの国で、どれぐらい人気があるのか、まずはインベスティゲーション(調査)をやる必要があると考えています。
――これまでにも、例えばタイ人選手がJリーグでプレーすると、タイでJリーグの視聴者が爆発的に伸びたり、SNSを通じてクラブやスポンサーのプロモーションにつながったりといった実績があるので、特にアジア圏にはチャンスがあるのかなと個人的には感じています。
Jリーグのさらなるファン層拡大に、NFTは寄与できるか
――NFTを活用することは、Jリーグひいてはスポーツ界にとってどんなメリットがあると考えていますか? 直接的な販売収入はもちろんですが、それ以外の間接的なメリットもあれば教えてください。
菊池:Jリーグを通じて各クラブに販売収入を配分できることは、すごく名誉なことだと感じています。今回はリーグ全体としての取り組みでしたが、いくつかのクラブから個別にお声掛けをいただいている状況です。
また、NFTがJリーグに興味を持つ新たな入り口となるのではないかと考えています。Jリーグに熱狂しているファン・サポーターの方は、地元や住んでいる街にクラブがあったり、これまでの人生で深くサッカーに関わった経歴があったりすることが多いと思いますが、現実として世の中はそういう人ばかりではありません。そうした中で、例えば他のコンテンツとのコラボ企画のように、Jリーグに触れるきっかけをいろいろと用意することはとても大事だと感じています。NFTはこれまでとまったく違った新しい入り口をつくれるのではないかと考えていますし、リーグはもちろん、クラブ、選手、さらには地域とも一緒にできることがあると思っています。大げさではなく、可能性は無限大だと感じています。
――今回はJリーグで始めましたが、他の競技団体とも一緒にやっていく可能性はありますか?
梅本:やはりスポーツはファンコミュニティーが醸成されやすいので、サッカーだけではなく、野球、その他のプロスポーツ団体・チームに対してもアプローチしています。
――海外のスポーツ団体と組む可能性もあるのですか?
梅本:JリーグのNFTコンテンツを海外市場に輸出する場合と同じで、海外のリーグ・チームのコアユーザーが日本にどれぐらいいるのかをしっかり調査した上で、リーグ・チーム、ユーザー、われわれプラットフォーマーの三者がウィンウィンウィンになる状況が整えば、当然海外のスポーツ団体との契約もあり得ると思っています。
NFT市場にはびこる真贋問題。プラットフォーマーとしての矜持は…
――今後もNFT市場はますます盛り上がるのではないかと感じますが、NFT市場全体を見たときにどんな課題があるのでしょうか?
梅本:NFTを語る際に必ず議論になるのが、ブロックチェーンがパブリック型なのか、プライベート型なのか、ということです。プライベート型とパブリック型で一番大きな違いは、プラットフォーマーが強力な管理権限を持っているかどうかです。昨今NFT市場では真贋(しんがん)問題が大きな問題として話題になっています。パブリック型のブロックチェーンは中央集権型ではないので管理者がいない。不正なプロダクトがあってもバーン(焼却)することができませんし、不正なものを売買したユーザーのアカウントをBAN(消滅)することもできません。NFT自体には“真正性”を判断する機能が無い、というのが現状のNFT市場における大きな課題だと認識しています。
――Rakuten NFTではどのように対策しているのですか?
梅本:Rakuten NFTはプライベート型のブロックチェーンを採用することでリスクを最小化しています。われわれは現在6つのIPホルダー(取材時点)と契約をしていて、年内にさらに多くの契約が完了する予定なんですが、やはりNFTプラットフォーマーとして、NFT化する前に厳正にコンテンツの精査をしたり他社のIPを侵害しないような形で商品を企画・制作しディストリビューションすることが重要です。
これまでにも、さまざまな問い合わせをいただいてきましたが、真贋証明を担保するための審査は、NFTを提供するプラットフォーマーの立場として、必須なことです。剽窃(ひょうせつ)作品を出すことのないように、楽天グループの技術を最大活用して、非常に厳正なチェック、管理能力を保有することが本当に大事なことだと感じています。
――最後に、NFT市場は今後どのようになっていくとお考えですか?
梅本:われわれは今現在、ブロックチェーンおよびNFTのテクノロジーを、スポーツ、音楽、アニメ、漫画、ゲーム、アートといったエンターテインメント領域に注力しているのですが、ブロックチェーンというのは暗号技術であり、暗号技術をフル活用したものがNFTですので、ひょっとするとエンタープライズのニーズが、エンターテインメントのニーズよりも増えてくる可能性はあるのかもしれません。例えばインシュランス(保険)の証明書をNFT化するだとか、その契約書をNFT化するだとか、エンターテインメント以外にもそういったニーズは出てくると考えられるので、幅広い視野を持って、NFTのエクスパンションプランを考えていきたいと思います。
(左:梅本悦郎氏、右:菊池辰也氏)
<了>
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