
なぜ湘南ベルマーレは失速したのか? 開幕5戦無敗から残留争いへ。“らしさ”取り戻す鍵は「日常」にある
湘南ベルマーレは、今季のJ1リーグで開幕5戦無敗という好スタートを切った。だがシーズン中盤には連敗が続き、順位は一気に低迷。23節終了時点で17位、再び残留争いに巻き込まれている。勝ちきれない試合、心理的なブレ、主力の離脱――。要因が複雑に絡み合う中で、チームが取り戻すべきものとは何か。“湘南らしさ”と再成長の兆しを追った。
(文=佐藤亮太、写真=アフロ)
5戦負けなしのスタート。しかし簡単ではなかった
今年こそはと期待に胸を膨らませたが、あぁ今年もかと思わず、ため息が漏れてしまった。
リーグ序盤、J1湘南ベルマーレは目覚ましいスタートを切った。開幕戦、鹿島アントラーズを1-0で下すと続くセレッソ大阪、浦和レッズに勝って3連勝。横浜F・マリノス、FC東京に引き分け、5戦負けなし。華麗にスタートダッシュを飾り、メディア、サッカーファンの耳目を集めた。
新主将を務めたFW鈴木章人をはじめ、MF畑大雅、DF鈴木淳之介ら手塩にかけた高卒選手が主力を張り、ここ数年、ピンポイントの補強で獲得したDF鈴木雄斗、GK上福元直人、FW福田翔生、MF藤井智也ら移籍組も躍動。
猟犬のように追いかけ、ボールを奪えば、パスが面白いようにつながり、ゴールに迫る。それが絶え間なく続いていく。2021年9月に就任してから今季で5シーズン目、山口智監督の相手を見て、考え、ボールをつなぎ、ゴールをもぎとるサッカー、この総決算が見られると確信した。
しかし簡単ではなかった。
第6節ヴィッセル神戸戦から3連敗。以降、勝ち数より負け数が多くなるいわゆる借金状態になった。第14節ガンバ大阪では0-4で惨敗。第16節の東京ヴェルディ戦では今季ベストともいえる内容と結果で2-0の完勝劇を見せたが、その後、下位にあえぐ横浜FC、アルビレックス新潟に連敗。第23節、神戸に今季2度目の4失点を喫して、東アジアE-1サッカー選手権に伴う中断期間に入った。
「個々が欲張りすぎるとチームとしての機能が弱くなる」
リーグ23節終了現在、湘南は勝点23。6勝5分11敗の17位。1試合未消化ながら自動降格圏18位の横浜FCとの勝点差は「4」。今季こそは残留争いせず、上位進出できると思ったが、例年通りとなってしまった。
序盤のあの勢いはどこにいってしまったのか。リーグ戦を振り返ると、時に大きな落差はあるものの、総じて試合内容はそれほど悪くない。ただここで勝てば上位に、あるいは一桁順位に上がれるという大事な試合で引き分けと負けを繰り返した。加えて連敗中の相手や、降格圏に沈む相手に勝ちきれなかった。
なぜ安定した戦いができず、勝点を逃してしまうのか。
「開始1秒からゴールを目指して戦う姿勢は変わりません。しかし懸けるエネルギーは試合によって波が出てしまう」と上福元。最後尾から見える景色に上福元は細部へのこだわりの重要性を強調した。
「攻撃ではゴールをとって勝つために(ペナルティエリア付近で)どこにポジションを取るのか、守備では一点を守るために最適な立ち位置をどう取るのか。一人一人が勇気をもって、一歩、二歩踏ん張って、ゴール前に入り込めるか。守備では体を投げ出せるかどうか。勝ちたいならという、がむしゃらさ。勝つための一歩、二歩を惜しまないことが大事」とメンタル面を重ねてあげた。
「監督からは、うまくいっていないときこそ自分たちの良さを貫く、信念をもってやり続けるという言葉があります」と明かした平岡大陽は個とチームのバランスの難しさを語った。
「個々の良さを欲張らずに出すこと。これを愚直にやり続けることで結果につながります。一方、あれもこれもと欲張りすぎるとチームとしての機能が弱くなってしまう。もちろん個人のプレーは大切ですが、チームのピースとして戦うことが大事。個人戦術もですがうまくいかなったとき、チームと協力しながらうまくやっていくのがサッカー。そのそれぞれが足りていない。環境が整っていないと力を出せないのが課題」
可能性とリスク。「湘南には若い選手が多くいるので…」
平岡が語る「環境が整っていないと力を出せない」という指摘には思い当たるところがある。湘南は90分間、ほぼ安定した戦いができないと勝てない、ひ弱さを抱えている。
例えば、第22節のマリノス戦(1-1)では、1-0で迎えた61分、負傷交代した鈴木淳之介がベンチに下がり、選手が投入されたそのワンプレー、ツープレー目で失点した。つまり試合の状況、流れ、変化にうまく対応しきれない、また対応するまでの時間がかかる悪癖があり、終始プラン通りに戦い抜けないと勝てない。この傾向が強い。
そして「(開幕から5試合は)プレーしていて楽しかったですが、いまは勢いのなさを感じます」と語った藤井は心理面を要因にあげた。
「湘南には若い選手が多くいるのでプレーで挑戦できるはず。その若手を経験のある選手が助けることで、持っているものをフルに発揮すれば生き生きしたプレーができます。(ただ現状)その勢いすら出せず、助けられてもいない。これがチームの(悪い意味での)若さにつながっています。湘南はアグレッシブなチーム。にもかかわらず、どうしようと迷ってしまい簡単な失点が増え、ちぐはぐな試合になってしまう。探り探りのなかゲームを進めることが習慣化している」
藤井自身、「楽しかった」と話した序盤の戦いを思い起こすとミスは度外視し、むしろチャレンジした上でのミスは歓迎し、ミスしても全員がカバーするという思い切りの良さが確かにあった。しかし負けが続く、あるいは良い内容にもかかわらず勝ちきれなくなるとどうしても委縮してしまう。藤井の言う湘南の持ち味であるアグレッシブさが出し切れない精神面が湘南の上位進出を阻む要因といえる。
主力の海外移籍、守護神の長期離脱。それでも山口監督は動じない
勝点「1」でも積み上げ、一つでも順位を上げたい湘南だが、今月7月、福田、畑、鈴木淳之介の海外移籍という喜ばしいニュースがある一方、このタイミングでの主力の離脱は痛い。加えて上福元のアキレス腱断裂という計算外の長期離脱があった。
補強に乗り出したクラブはマリノスからGKポープ・ウィリアムスを完全移籍で獲得。続いて浦和からFW二田理央とGK吉田舜を期限付き移籍で、広島からMF松本大弥を、新潟からFW太田修介をいずれも完全移籍で獲得。
強化部は迅速に動いた。ただし、どの選手も今季出場機会が少なく、順応するのに時間を要する湘南で果たして即戦力になるかどうか、個々の頑張りに期待するしかない。
不確定要素ばかりに目がいく現状で山口監督は動じない。周囲に惑わされず、自分たちにフォーカスを当てること。選手の特長を生かすこと。勝敗にかかわらず次の試合に向け、どう生かしていくかを徹底している。
今週末に行われる第24節のC大阪戦に向けたオンライン会見では「勝った負けたの感情はありますが、次に向けてどう向き合うかが大事。シーズンが終わりに近づくにつれて、結果にフォーカスしなければなりませんが、次の試合に向け、どう学ぶか、どう継続していくかをよりやっていきたいです。今日何ができるのか、何をしなければならないのか、その考え方は変わりません」と終始一貫している。
湘南の残留力はどこから生まれるのか?
とはいえ状況は芳しくない。頼りは専売特許の「残留力」となりそうだ。
昨季23節時点での湘南の成績は5勝7分11敗、勝点「22」の18位。勝ち点23の今季とほぼ変わっていない。
最終的に昨季の湘南は12勝9分17敗、勝点「45」の14位で終了。つまり残り15試合で7勝2分6敗と五分の戦績。驚異的な勝負強さを発揮した。
その残留力はどこから生まれるのか。
クラブ全体の一体感。追い込まれた状況になって生まれる一発勝負の強さ。これまでの経験から残留争いでの戦い方、心構えが浸透している。育成型クラブの特長だが、起用した実戦の少ない若手選手が経験値を積むことで主力へ成長する。またそうした環境がクラブに根づいているなど挙げられる。ただ、さらに湘南がクラブとしてワンランク上に進むためには、いわゆる残留力に頼ってばかりではいつか行き詰まってしまいかねない。とはいえJ1には残りたい。
限られた予算のなか、選手を鍛え上げ、主力が抜ければ即戦力となる選手を獲得し、チームの底上げを行う。育成型といわれる湘南のようなチームがJ1にあってもいいはずだ。
7月19日のセレッソ戦、未消化分の23日の浦和戦での連戦で一つでも順位を上げたい湘南ベルマーレ。果たしてここからの巻き返しは実現できるのか。その答えは日常に、馬入グラウンドでの妥協のない“らしさ”を取り戻すトレーニングに、そして選手たちのさらなる成長に懸かっている。
<了>
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