世界で勝つには「組織力だけでは足りない」。長谷川唯が語る、なでしこジャパンの現在地
ヨーロッパの強豪クラブで経験を重ね、世界のトップ選手たちと日常的に競い合ってきた長谷川唯。初著書『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』では、海外でプレーして初めて実感した日本人選手の強みや課題、なでしこジャパンが再び世界の頂点に立つために必要なことを綴っている。海外でプレーする選手が増えたことで、代表全体の強度や基準は確実に高まった。一方で、世界一を目指すためには、組織力だけでなく、一人ひとりが世界基準で戦える「個」の力も欠かせない――。書籍の抜粋を通じて、世界最高峰の舞台で長谷川が感じてきた、日本代表の現在地と課題を紹介する。
(文=長谷川唯、写真=Imagn/ロイター/アフロ)
海外組が増え、日本代表の基準は変わった
今の日本代表は、海外でプレーする選手が増えたことで、以前よりプレーのレベルが全体的に上がっていると感じます。
合宿の強度も高いですし、個々の基準が自然と引き上げられています。自分が20歳で代表に入った頃からを振り返っても、今がいちばん強度の高い集団だと感じます。
海外でプレーしている選手が増えると、それぞれが違う環境で身につけた感覚や基準を持ち寄ることになります。リーグの特徴も違えば、求められる役割も違います。ただ、そのなかでも共通しているのは、個の力で局面を変えられる選手が増えてきたことです。以前より、対人で守備を上まわれる選手や、自分で打開できる選手が増えた実感があります。世界で勝ち上がるために必要なのは、やはりまず個々が負けないことだと思っています。
日本代表として、2019年と2023年のワールドカップ、2021年と2024年のオリンピックでベスト8の壁を破れず、悔しい思いをしました。そうした経験を通して感じたのは、世界で勝ち上がるためには、「まず個々が負けてはいけない」ということです。
とくに前線と最終ラインは、1対1の強さがそのまま試合を左右しやすいといえます。中盤の1対1は少し意味合いが違っていて、試合の流れや相手の攻め方によって状況が変わります。だからこそ、前と後ろの選手が1対1で負けないことは、チーム全体の戦い方を大きく広げるのです。
組織を生かすためにも、「個」で負けないこと
たとえば、相手の前線にすごく速くて強い選手がいたとして、それに個人で対応できる選手がいれば、守備の組み立て方は変わります。なでしこジャパンでいえば、古賀塔子(トッテナム・ホットスパーFCウィメン)のように、対人に強く、スピードでも負けにくく、カバーリングもできる選手がいることで、守備はやりやすくなります。
今まで外国籍のフォワードに対しては、最後は2対1で守れるように逆算して守る感覚が強かったです。今もその感覚はありますが、さらにレベルの高い相手になると、すべてのポジションが1対1に近い状況になることがあります。そういうなかでも負けない守備ができることは、大きな強みになります。
攻撃でも同じことがいえます。相手のセンターバックが強くても、自分たちのフォワードが一人で収められるとか、少し難しいボールでも前で収めてくれるとか、そういう安心感があるだけで、チームとしての選択肢は一気に広がります。組織としてどう崩すかはもちろん大切ですが、その前提として、個人が局面で負けないことが欠かせませんね。組織力は日本の良さですし、それはこれからも大事にすべきです。ただ、その組織力を生かすためにも、個人の能力を上げることが必要です。
世界最高峰の基準が、日本代表を強くする
年々、日本人選手の個々の対応力は上がってきていると思いますが、それでも海外のトップレベルとくらべると、まだ差を感じる部分があります。だからこそ、個人の力をさらに高めていくことが大切だと思うのです。
今の代表には、以前より、チームとしての自信が備わってきていると実感しています。もちろん、勝たなければいけない責任の重さはありますが、必要以上にプレッシャーに感じることもありません。不安よりも、「今の自分たちならできる」という感覚のほうが強くなっています。それは、海外でプレーする選手が増えて、それぞれが高い基準をもっているからかもしれません。
チャンピオンズリーグは大きな大会で、女子でもハイレベルな戦いが繰り広げられます。マンチェスター・シティで出場したこともありますが、いろいろな国のチームが出るなかで、グループステージなどはWSL(女子スーパーリーグ)のほうが強度や戦術的なレベルが高いと感じることもありました。そういう環境で日常的にプレーしている日本人選手が増えたことは、日本代表にとっても大きな財産です。普段から高い基準のなかにいることで、それが代表でも自然な基準になるからです。
海外組が増えたことで、日本代表は以前より多様な経験をもつ集団になりました。でも、ばらばらになっているわけではありません。それぞれが違う環境で磨いてきた強みを持ち寄りながら、共通して高まっているのは、局面で負けない力と、個人戦術も含めて高い基準を当たり前にする感覚です。
その積み重ねが、今の日本代表の成長につながっているのだと思います。
【連載第1回】「批判は気にならない」長谷川唯が明かす、評価に振り回されない思考法
【連載第2回】大一番を「特別」とは思わない。長谷川唯が世界最高峰で貫く“準備の習慣”
【連載第3回】「努力できる人」と「続かない人」何が違う? 長谷川唯が語る、目標設定が人生を変える理由
(本記事は徳間書店刊の書籍『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』から一部転載)
<了>
なでしこジャパンの小柄なアタッカーがマンチェスター・シティで司令塔になるまで。長谷川唯が培った“考える力”
憧れの「ベレーザの14番」を背負う覚悟。眞城美春が語る“プロ2年目”の現在地
[PROFILE]
長谷川唯(はせがわ・ゆい)
1997年1月29日生まれ。宮城県出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・マンチェスター・シティWFC所属。ポジションはMF。中学1年生で日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織であるメニーナに加入。年代別代表では2014年FIFA U-17女子ワールドカップ優勝、2016年FIFA U-20女子ワールドカップ3位入賞。2017年になでしこジャパンに初招集され、2度のFIFA女子ワールドカップ、東京五輪とパリ五輪、3度のAFC女子アジアカップを経験。なでしこジャパン通算100試合出場も達成した。2025-26シーズンはマンチェスター・シティの10年ぶりとなるリーグ優勝とFAカップ優勝の二冠に貢献。イングランドプロサッカー選手協会(PFA)選出のベストイレブンを3年連続で受賞し、日本プロサッカー選手会(JPFA)が選ぶ年間最優秀選手賞も2年連続で受賞している。抜群のサッカーセンスとボールコントロール、高い戦術眼を武器に、世界最高峰の舞台で日本人プレーヤーの価値を高め続けている。
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