「24時間、君はプロなんだよ」RB大宮・西村卓朗SDが語る“伸びる選手”の条件。その原点にあった苦悩
選手の何を見れば、その成長の可能性が分かるのか。才能や技術だけではない。日々の習慣、考え方、言葉と行動――。長く選手を見続けてきた西村卓朗には、独自の「見る」視点がある。浦和レッズで出場機会を得られなかった選手時代。水戸ホーリーホックで強化を担い、伊藤涼太郎ら多くの選手と向き合った経験。そして2026年、18年ぶりに古巣へ戻り、RB大宮アルディージャのスポーツダイレクターとなった。なぜ西村は選手を「見る」のか。何を見て、何を考え、いつ伝えるのか。その原点をたどると、自身が選手として苦しみ続けた日々に行き着く。
(インタビュー・文=佐藤亮太、写真提供=RB大宮アルディージャ)
西村卓朗が考える、良い選手、伸びる選手の条件
ここ数年、変貌を遂げるRB大宮アルディージャ(以下・RB大宮)にさらなる加速度をつけるべく、2026年1月、西村卓朗スポーツダイレクター(以下・西村SD)が就任。18年ぶりの古巣大宮への帰還となった。
西村SDはスチュアート・ウェバー ヘッドオブスポーツを中心とした体制の中で、選手の交渉、リクルートや評価などをサポートし、監督、コーチなどと関わりあいながら、チームの潤滑油となっている。
2013年、VONDS市原FCのGMに就任して14年目。延べ300人以上の選手を見てきた。プロ選手の目利きである西村SDに良い選手、伸びる選手の条件を聞くと2つのキーワードが挙がった。
1つ目のキーワードは「メタ認知」。自分自身をより高い次元で客観視することだ。
選手自身がプロサッカー選手としての長所と短所を認識するため、また現状をクラブが選手に伝えて共有するため、「メタ認知」には2つの基準がある。その一つが「技術」「フィジカル」「メンタル」「戦術」の4つの指標だ。
「この4つのそれぞれにはグラデーションがあります。そのなかに選手の特徴があります。ピッチ内で何か課題があるのなら十中八九、この4つのうちのどれかに原因があります。この原因に対してフォーカスして指標としていきます。武器なら伸ばす。課題なら改善する。選手はその指標に対して、自覚しなければいけません」
そしてもう一つの基準が、「生活」「思考」「学習」「プロフェッショナル(主に食事、ケア、振り返り)」。この4つの習慣。
例えば、ある選手が30分早くクラブハウスに来るようになったとする。そのとき、西村SDはその時間に何をしているのかを見る。
「フィジカルトレーニングをやっていれば、課題に向き合っているんだなと予測できます。僕は習慣を見ます。習慣は行動の積み重ね。生活面や思考はどうなのか。常に学習しているか。プロフェッショナルの習慣でこの選手は何が優れているのか。課題をクリアしているのか、まだ足りないのか。日々の会話と行動を常に見ています」
ただ、長所を伸ばすにも、短所を改善するにも、アプローチが難しい。選手の性格やチーム内の序列などを踏まえて、どこから着手するのか。その手法、タイミングも千差万別。だからこそ対話を重ねて見定めていく。
もう1つのキーワードは「言行一致」。言っていることとやっていることが一致しているかどうか。
「こうしたことを選手に日々伝えています。人生を考えても大事なことです。あとは選手がいつ気づくか、いつ刺さるかが問題です」
大事なのはいつ気がつくか。いままで伝えたことを選手が理解し、納得し、行動につなげているのか、だ。
伊藤涼太郎を変えた言葉「24時間、君はプロなんだよ」
西村SDの仕事はまさに“見る”ことだ。
選手の変化を見ること。変化に気づくには常に見ていなければ成立しない。その変化は良い変化なのかどうか。考えて分析し、現状を把握したうえで選手に伝え、働きかける。
好例の一つをさかのぼると、日本代表経験を持つ伊藤涼太郎との水戸ホーリーホックでの日々に行き着く。
伊藤は2016年、岡山・作陽高校から浦和レッズに加入。下部組織以外での高卒ルーキーの加入は5年ぶり。期待は大きかった。しかし選手層の厚さに阻まれ出場機会に恵まれずにいた。また伊藤と同世代の選手は少なく、まわりは一線級の先輩ばかり。自身の悩みを打ち明ける仲間がおらず、一時、ささくれだった生活を送っていた。その伊藤が2017年9月、水戸に育成型期限付き移籍する。水戸には当時、強化部長を務めた西村がいた。
伊藤に対して「前を向けば良いプレーをするけど、もっとメンタルを鍛えなければならない」という第一印象を持つ中で、まずは習慣に目を向けた。
「いかにサッカーと向き合わせるか。水戸はそういったチーム」と話す西村は、伊藤になぜ水戸に来たのか。水戸で何をしたいのか。そのためには何をすべきか。食生活、練習後のケアと気がついたことがあればすぐ伝え、諭し続けた。
そんな日々の言葉が、伊藤に刺さった。浦和時代、練習開始に間に合うギリギリの時間に起きて全体練習に向かったときから一変。練習開始の数時間前に起き、食事をしっかり摂り、ストレッチなど準備を行い、練習に臨むようになった。西村は、当時の伊藤の変化をこのように語った。
「選手である以上、良い状態でピッチに立つことが大事。これは普段の生活と密接していること。『24時間、君はプロなんだよ』と言い続けたことによる変化を本人から感じられるようになった」
行動が変わる。それが継続され習慣となるといつしか自信と結果につながる。
その後の伊藤の勇躍は皆が知るところ。水戸を後にしたのち2022年、アルビレックス新潟で中心選手となり海外へ。森保一監督のもと、日本代表にも選出された。
これはあくまで一例。そうした働きかけの積み重ねが水戸のJ1昇格につながったといえる。
「なぜ試合に出られないのか」。浦和での苦悩が生んだ武器
「見て、考えて、伝える」。西村のこの思考の始まりは選手時代にさかのぼる。
西村は2001年、国士舘大学から浦和レッズに加入し、3年半を過ごした。この日々を「模索し続けた苦しんで苦しみ抜いた時間」と振り返る。それもそのはず。同じポジションの右サイドバックには山田暢久が君臨し、2002年に筑波大学から加入した平川忠亮と、2人の天才肌がいた。
西村は「なぜ試合に出られないのか」「能力の高い彼らを追い抜くにはどうすればいいのか」を考えた。そしてひたすらチームメイトを観察し続け、成功する選手の生存戦略を見出していく。
チームが求めるものは何かを先に知り、実践した鈴木啓太。居残り練習で長所を磨くなどサッカーと向き合うあくなき姿勢を見せた同期の田中達也。才能をハンス・オフト監督に見いだされ、高卒2年目でレギュラー格となった長谷部誠。
さまざまな成功例を目の当たりにした。同時に同じくらい思うようにいかない選手の姿を見た。それらのケースを自分自身に当てはめ、生きる道を探した。
西村の観察の日々はすぐ目に見える成果には至らなかった。浦和在籍時の公式戦出場はゼロ。一方で契約解除されなかったのはレアケースといえる。クラブは西村の考える姿を評価し、成長を待っていたのかもしれない。
「考える習慣がついたといえます。いまとなっては、あの時間が、いまの自分にしてくれたなと感じる原体験でした」
西村は見えない大きな財産を得た。その財産が2004年夏、期限付き移籍した大宮アルディージャ(当時)で活かされることとなる。
「過程を見てほしかった」大宮で学んだ、選手を見る視点
大宮加入直後、西村はチームに活気がないと感じた。自身のキャラクターではなかったが声を出しチームを盛り上げた。さらに当時選手と距離をとるタイプの三浦俊也監督ではあったが、積極的に自分からコミュニケーションを取りにいき、戦術をいち早く理解しようと努めた。
これが功を奏した。西村は途中加入ながらリーグ戦15試合に出場。最初の2戦こそ1分1敗だったが、32節のホーム札幌戦から怒涛の13連勝で、この年大宮はJ1への悲願の初昇格を果たした。翌2005年、完全移籍するとレギュラーに定着。J1で31試合に出場した。
「初めてサッカー選手としての時間が始まりました」。思考の積み重ねが一つの結果となって表れた。
長い雌伏を経て選手として充実したシーズンを送る一方で、のちの強化の仕事に影響を与える人物が現れる。
当時大宮で強化を担い、その後ヴァンフォーレ甲府のGMなどを務めた佐久間悟。印象的なシーンがあった。
2005年の契約交渉の席に着いた際、佐久間から出された用紙には指標化された評価表が記されていた。個々の項目に具体的な数字を示しながら「ここは良い部分」「ここは足りない部分」と一目瞭然に書かれてあった。
数字は冷徹な評価。しかし指標化された評価に齟齬(そご)はなく、佐久間からの説明にも納得できた。
「見るとともに、見られなくて残念な思いもたくさんしました。結果だけでなく過程を見てほしいと思っていました。佐久間さんにはプロセスを見てくれたことで勇気づけられました」
札幌で知った、出場できなくてもチームを支える意味
その後、西村は大宮を2008年シーズンいっぱいで退団。その後、アメリカに渡り2つのクラブチームに所属したのち、2011年、当時のコンサドーレ札幌に加入。そこでGMの三上大勝と出会う。
札幌はこのシーズン、石崎信弘監督のもと、J1昇格を果たしたが、西村の公式戦出場はリーグと天皇杯の1試合ずつ。34歳の西村はシーズン終了後に契約満了となった。
シーズン終了後の契約満了を伝えられた席で、三上から告げられた言葉がいまでも脳裏に残っている。
「チームには3つの層がある。1層はスタメンで出ている選手。ここには河合竜二がいた。2層のサブ組には岡山一成がいた。そして3層、メンバー外には西村卓朗がいた。メンバー外でもお前が腐らずにやってくれたから若い選手がモチベーションをもってやれた。昇格できたのは西村の姿勢があったからこそ」
労いの言葉に「報われた感じがしました」としみじみ語った。
佐久間悟、三上大勝、鈴木満。先達から受け継いだ強化の哲学
そしてもう1人、西村に大きな影響を与えた人物がいる。鹿島アントラーズで長く強化を担当した鈴木満だ。
現役を終えた西村が2016年に水戸の強化部長に就き、しばらく経ってからのこと。シーズン前に開催される鹿島とのプレシーズンマッチの後、両クラブの幹部のあいだで食事会が開かれた。
その際、ポテンシャルはあるものの出場機会に恵まれない選手をいち早く見つけ、キャリアを積ませ、戦力にする、水戸の強化方針を鈴木から高く評価された。
「(鈴木)満さんは見てくれたんだと。選手を見る目、育てることに対して認められたことで自信となりました」と当時を振り返る。
「また現Jリーグチェアマンの野々村(芳和)さんが立ち上げたフットボール委員会でも、2022年から現在まで同委員として、月に1回の会議とその後の濃密な時間の中で、日本で一番タイトルをとった強化担当である満さんの実践知に触れさせてもらえていることは大きな財産です。
2023年の成績不振時には、悩みに悩んで、満さんに電話をして鹿島のクラブハウスで結果的に3時間以上の時間をとっていただき、アドバイスをもらったことがありました。そこで感じたことからチームの立て直しに着手したことを今でも鮮明に覚えております。今思い返せば、あそこが、2025年の大きな成果への始まりでしたね」
大宮発、世界へ。西村卓朗SDが描くRB大宮の未来
佐久間悟、三上大勝、鈴木満。経験豊富で人間味ある3人から学びを得て、その歩みを進めた西村SD。RB大宮でどんな青写真を描いているのか。
「水戸では大卒選手が活躍し、高卒の選手を育てることを数年かけてやってきました。RB大宮ではその前の育成世代から関わることで成長曲線がどう変わるのかにチャレンジしたいです。今季トップチームに高3で5人(うち1名はRBライプツィヒU19に期限付き移籍)、高2で2人、プロ選手がすでにおり、アンダー世代で日本代表に選出されている選手も数多くいます。
できるだけ早いタイミングでどんなアプローチをしていけば、成長角度がより高くなるのか。本物のスターを生むにはどうすればいいのかに挑戦したいです。そして世界に出ていく選手をつくりたい。また若手だけでなく、これからの日本サッカーの未来をつくる、志の高いフットボーラーを数多く育てたい気持ちがあります。そしてチームとしてもアジアを目指したいですね。アジアで一番のクラブになること、圧倒的な選手を育てることの両軸をやっていきたいです」
世界に通用する選手を。チームはアジアナンバーワンへ。そしてその先へ。
大宮発世界へ。
「RB大宮に思い入れがありますし、もっと、もっと良くしていきたいです、純粋に」
<了>
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