本田圭佑が挑戦する「レッスンしない指導」とは? 育成改革目指す「NowDo」の野望

Education
2020.01.25

本田圭佑の新事業に、錦織圭、長友佑都、石川遼らトップアスリートが出資したことでも話題の「NowDo」。プロを目指す選手をオンライン指導で育成し、メンターである本田圭佑からも直接指導が受けられるというサービスだ。

本田圭佑と共にこれまで数多くのサッカースクール事業を立ち上げ、本サービスでも中心的な役割を担う鈴木良介氏が、「本田圭佑のオンライン成長革命」NowDoの現在地とその可能性について語った。

(インタビュー・構成=木之下潤、写真提供=NowDo/※取材は2019年12月18日に実施)

プロの哲学とメンタリティを直接受けられる

――2019年12月にNowDoが新サービスを発表しました。魅力は本田圭佑さんから直接アドバイスを受けられることだと思います。

鈴木:このサービスは本田の哲学やメンタリティを直接受けられるのが大きな価値です。募集開始直後から多くの人に興味を持っていただいていて、現在1歳半のお子さんからプロサッカー選手まで本当に幅広いたくさんの方から応募が届いています。意外に海外在住の子どもからの応募も多いです。

――そうなんですね。

鈴木:僕たちも海外7カ国でサッカースクールなどを開きましたが、現地の日本人コミュニティは小さいんです。いいコーチがなかなかいなくて、いい指導が受けられなかったりするので、そのあたりが理由なのではないかと思っています。サッカーを上手に教えてくれるいいコーチが都合よくいるわけではありませんから。日本だと、地方からの応募が多いですね。いいコーチに巡り会えない現実があるからからかな、と。

このサービスはスマホを使ったコミュニケーションを基本としているので、小学校1年生くらいから受け付けています。低学年のうちはお母さんと一緒にサービスを受けるような形になります。当然、僕らがメインターゲットにしているのは、育成年代なので親御さんの経済的な援助と、携帯使用の許可が必須です。

――仕組みは本田さんがメンターになり、最低でも週1はテキストを含めて直接コンタクトがあるとのこと。そこに、鈴木さんらティーチングアシスタント(以下、TA)が付く形です。狙いは「選手の意識を変える」こと。こういう理解で合っていますか?

鈴木:その通りです。今はその工程を検証中です。サービス利用者に対し、本田がテキストで渡すものと音声で伝えるものとを分けています。ただ、子どもの心には圧倒的に音声が響くし、うれしいらしいのです。

――テキストだと「本田さんなの?」と疑いたくなりますよね。

鈴木:でも、面白いもので、テキストでも絶対に本田だとわかります(笑)。現状は親御さんの満足度も高いようです。今は利用者10人から始めているので、これから100人になったときに本田がコミットする時間を取ることが現実的に難しくなってきます。僕らの課題は、それをITなどのテクノロジーを使ってどう解決していくか。現在のところは、本田も「どこまでできるかをやってみたい」と言っていて、指導を受けている子どもたちはめちゃくちゃ意識が変わってきています。

――現実問題、本田さん自身がメンターとして経験を積まないと、子どもにどんな問題があるのかはわかりません。

鈴木:まさに。トライ&エラーで「本田が指導する→問題が起きる→どうやってITで解決するかをエンジニアと話す→プロダクトに落とし込む」の繰り返しです。

――エンジニアチームが「選手にどんな問題意識があるのか」、そこから「どんなワードが出てくるのか」という流れを感覚的に理解し、例えばAIに落とし込むなどすればさまざまな傾向が見えてきます。

鈴木:現状は、まだAIをうまく活用しているわけではありません。今できる開発技術の中で「僕らがイメージする世界を創っている」最中です。AIに何かを学習させて、本田の代わりをさせるわけではありません。もちろん今後はそういう方向も考えていきますが、もう少し前段階にあります。海外を含めたエンジニアチームを組んでいるので、「こっちのプロダクトを利用してもいいのでは?」といったアイデアはたくさん出ています。

――なるほど。NowDoのホームページには体組成計などサッカー外からのアプローチが見られます。

鈴木:健康系某企業との契約が決まっていますし、プレー以外からもリーチしていくつもりです。僕らは利用者の個人データが蓄積されていくものを「サッカーノート(サッカーの場合)」と呼んでいて、それを見ながらオンライン上でフィードバックしていく仕組み作りを進めています。だから、サービス自体はテクノロジーの側面と、トップアスリートが持つ哲学やメンタリティというメンタル的な側面があり、それらを有効活用して選手の意識改革を図っています。データとして数値的に説得力を持たせつつ、いい意味での根性論的な要素もあって、僕は非常に面白いサービスだと感じています。

――最近は体罰的な根性論の問題ばかりが取り沙汰されていますが、このサービスについて本田さんがインタビューに答えている動画を見ると「本気」をボーダーラインに引いている気がします。

鈴木:根性論という言葉は誤解を招きそうで使いたくないのですが、本田と子どもとのやりとりを見ていると非常に優しいですよ。僕らには見せない一面なので、面白いです。僕も現場指導を長年してきましたが、このサービスが実際に良いか悪いかはまだわかりません。でも、これまではサッカーコーチと違う人間がプレーをサポートすることがなかったわけです。親御さんや友達とは違う存在が、よりサッカーコーチに近い存在が、子どもに必要なのかもわかりません。

先日の公開インタビューの質問でもありましたが、サッカーコーチと違うことを教えないといけない状況になったとき、どうするのか? この質問は絶対にあるだろうなと思いました。僕らはクラブチームの指導に触れるつもりはありません。もちろん練習中のプレー動画が送られてきて、触れざるを得ない場合もあるかもしれません。でも、否定ではなく、意見として触れるのが本田ならOKだったり、僕だったらアウトだったり、答える人にもよるのかな、と。

――最低限のマナーとしては否定的に触れないわけですね。でも、少し本音を言えば、本田さんのような立ち位置のアスリートは経験を含めて商品価値が高いので、もし触れたとしても誰も気にならないのかなって思います。TAならダメだったり、人によりけりで受け取る側の心理によって違いますよね。

鈴木:TAの立ち位置がまだ少し明確ではありません。今はサービスとしても挑戦段階でもあるので、サッカーを全く知らない人が入ったりもしています。だから、プレーに対しては何も言えません。でも、そばでメンタル的に支えてくれる人という役割で、意外と子どもにとってはプレッシャーがかからずにいい影響が出ていたりもしています。

例えば、僕と本田の組み合わせだと両方から詰められるような状況も生まれかねないので、そこは気をつけて仕組みを作っていかないといけないな、と。ソルティーロ(本田圭佑選手プロデュースによるサッカースクール)のコーチのように実際の現場で教えているコーチにオンライン上で指導が受けられることも今後あり得るなと思いますが、それも良いか悪いかはわかりません。どれもやってみて一番いいものを作っていきたいです。

選手の今を知るためにテクノロジーを活用する

――このサービスはリアルタイムに選手の状況を把握する必要があります。

鈴木:僕らも動画を送ってもらったり、結構な質問量を親御さんも含めて答えてもらったりして、選手の今を把握する努力はしています。日々の細かい成長はテクノロジーの領域を含めて解決していきたい。一つ言えるのは本田ほど意識が高い選手が本当に少ないということです。

例えば、本田が幼少期からやっていることを同じようにやっている子はいません。彼は本当に意識高い系も高い系! だとすると、変えられることがたくさんあるということです。僕らが「1日30分だけ自主トレをしよう」と伝えても、実際に取り組む子はいないです。僕らはサーティー・ミニッツ・トレーニングと呼んでいるのですが、30分だけ自主練をする時間を作っています。本田が子どもに「30分なら時間を作れるでしょう」と言うと、その子は本当に自主練をやるようになるんですよね。動画を撮ってきたりして、積み重ねは大事です。

もちろんオーバートレーニングになったら身も蓋もないので、そこは体の変化を診断するためにテクノロジーの分野で解決することも必要です。例えば、赤信号だったら「休もうね」と言えますから。プレーの状況、子どもの成長状況というより、「日々何をするのか」といった睡眠や食事の重要性など、本田がプロになるために取り組んだり考えたりしてきたことを子どもに伝えてあげることで、それに感化されて「朝5時半に起きて練習しました」という子も出てきています。

それが良いか悪いかは別にして「意識が変わった」点で判断すると、とてもポジティブな成長です。意識が変わると時間を無駄にしなかったり……幼少期からそういう価値観で「何のために、何をするのか」がわかるだけでも良い成長だと思います。先日の公開インタビューで本田が自分と大学との価値を比較しましたが、このサービスを通じてトップアスリートから言われる言葉は高い価値があると実感しています。

――公開インタビューで感じたのは、意識改革のキッカケがプレー外のことだと発見することなのかな、と。例えば、タイムスケジュールの管理とか。このサービスの価値はそういう部分にもあると感じていて、それはプロになった人にしか言えないことです。

鈴木:例えば、宿題にテニスボールのリフティングを課題として出したとします。これはやればできること。子どもが本田や僕らTAと数日後に振り返ったときに、「初めは8回だったけど、今は23回になった」という話になります。それがテキストとして残っている。そういうピッチ外での客観的な振り返りが意識改革を進める部分でかなり影響があることがわかってきました。

――このサービスの良さは第三者の介入であり、フィードバックです。例えば、いつも行っている自主練と、誰かが介入してコミュニケーションが発生する一人練習とは意味も効果も違います。

鈴木:そうなんです。だから、僕らもメンターとしてJリーガーに協力をお願いしようと考えています。Jリーガーがメンターとしての価値を広げてくれたらサッカー界が一つの事例になりますし、他のスポーツにも目を向けられます。別のスポーツに拡張したタイミングで、サッカーは海外に広げていきたい。サービスもそうしていかないとスケールが大きくなりませんから。

僕らの現時点での考えでは、今の本田のコミット量では100人に対応するのは難しいということです。本当に手厚く選手に接していますから。でも、これをテクノロジーだけに頼る形に変えるとサービス価値が低くなるので、うまくITを活用したテクノロジーで解消していくのが、エンジニアチームのミッションだと認識しています。

――いかにサービス利用者がリアルを感じられるか。

鈴木:本田にしか価値がない。そう思われるとサービスとして成り立ちませんから、それ以外にどう付加価値を作っていくか。それが選手のコンディショニング管理や、アスリートやTAによるフィードバックだったりします。例えば、管理栄養士の資格を持っている人たちもたくさんいます。このサービスを通じて親御さんが食事面のアドバイスを受けられるとしたら付加価値を高められます。ようするに、子どもと保護者が何を求めているかで、そういった専門家とも関わっていきたい。選べるようなサービス形態になれば、価格もそれに応じて価値をつけられます。僕らはメンター、TA、各専門家と利用者とを結びつけ、いかに質の高い指導が受けられるかを追求しています。

本田はすごく大きな目標を掲げて突き進んでいく役割を担っている人物だから、今のまま進んでもらうことが日本サッカーのためだと思っています。でも、僕は日本サッカーを現実的に変えるにはどうしたらいいのかを一方で考える役目を感じているので、例えばTAに一般のサッカーコーチが関わることができれば雇用や収入を生むことができ、サッカーコーチの価値を高めることができると考えています。

僕もTAとして本田と子どものやり取りを見ていて勉強になることがたくさんあります。指導者ではない視点で声かけをするし、その内容がいい意味で言葉に力を持っているんです。人によっては無責任だと思う発言も、その選手にとっては理論や説得力では出せない言葉の力が働いていて、そこも重要なものだと思えるんです。子どもは本当に無限の可能性を持っていて、僕が見ていると「それは無理だろ」と思うようなことを言われても、意外とクリアできたりするものなんです。

一般のサッカーコーチもメンターのもとでTAにつくことは大きな学びだと思ってくれる方もいて、「サッカーコーチはサービスを受けられないんですか?」という問い合わせも多いです。僕らはそういうサッカーコーチをTAに迎え入れられるようなスキームを構築できると学びと収入につなげてあげられるのかな、と。もちろん、どれだけTAの資質があるのかという見極めが重要です。

クラウドファンディングで少しでも格差を解消

――いずれにしろTAをどう集めるか、育てるかは、今後のサービス展開を左右するように思います。

鈴木:現在のところは本田がガッツリやっているので、TAはそこまで大変ではありません。本田が手の届かない状態になったときにどうなるのか。メンター側もどのTAでもいいわけではないでしょうし、コミュニケーションが取れる人間ではないと足を引っ張られて、自分の言葉の効力が半減してしまいます。利用者に「メンターとTAがセットで選ばれる」ような形になるのが理想かなとイメージしていたりします。そうなると、「TAに必要な資質は何なのか?」を僕らもしっかり見つめ、根拠を持ってサービスとして落とし込んでいかないといけません。

――メンターもサービスを受ける側の選手もTAとの組み合わせで左右される場合もあるので、そこは明確化する必要がありますね。TAが3カ月ごとに替わるのか、毎回替わるのか。

鈴木:今後はメンターがJリーガーになったとき、「本田と同額なのか?」という利用者の疑問も必然です。メインターゲットが小学生である以上は価格に関わる問題はつきまといます。そういうこともあってドネーションサイトを立ち上げてクラウドファンディングを活用する道を用意したんです。「お金がなくてサービスを受けれられない」子どもを作ってはいけないと思っているから。全員に平等にサービスを与えることはできませんが、可能性は広げられます。

――本田さんも公開インタビューでクラウドファンディングについて語っていました。あれって個人で集めるのか、NowDoとして集めるのか。つまり、今回の10人の募集に対してNowDoが代表して呼びかける形態なのかを知りたいです。

鈴木:それは個人です。NowDonation(ナウドネーション)というサイトで、それぞれがエントリーできるようになっています。「優秀で可能性があるけど、経済的に厳しい」という子が個人でエントリーし、支援者を募る形です。その選手をサポートしたいという人たちが集まって支援をする。何が優秀なのか。その定義は人それぞれありますが、僕らは「サポートそのものをステータス化したい」と思っています。例えば、「このプロになった選手が5年生のときに支援したんです」ということが、このサイトに残っているわけです。

――エントリーする選手はアピール動画をアップするわけですね。

鈴木:そうですね。何ができる。こう考えている。こういう思いがある。エントリーの中で伝えてほしいです。

――選手も選ばれる側としてプレゼンするわけですね。でも、見方によっては「お金がない」と言っていることにもなります。

鈴木:もちろん、覚悟は必要です。最近は「海外でプレーしたい」と、クラウドファンディングを利用する人も増えています。NowDonation(ナウドネーション)のアイデアはエンジニアチームの中にクラウドファンディングに詳しい人間もいて、みんなでニーズがあることを議論した上でのことです。今は支援という形も多様化し、金銭支援のためのプレゼンみたいなことも受け入れられるような社会になってきています。

――お話を聞くなかで「技術を教えるわけではない」ことに一番の可能性を感じます。思考力、解釈力、コミュニケーション力だったり……。人間力が問われるところにサービス価値を作ったことに意味がある。

鈴木:子どもが一生懸命がんばっている。それを後押ししているTA自身も「何もやってないな」と感じたら、逆に誰かに促さなくてもサッカーのことを勉強するかもしれませんしね。いろいろと話していますが、中身はまだまだ試行錯誤中です。鈴木啓太くんが腸内細菌でビジネスを始めましたが、これまでスポーツで新しいものを生み出すことは珍しいことでした。

きっと、僕らみたいなサッカー現場の人間が新しいサービスに挑戦しているので、一般の人もサッカー界の人も違和感しかないと思うんです。だけど、エンジニアチームと進めていると、彼らはサッカー界やスポーツ界のことをそこまで詳しくは知りませんから、その事実が僕らもいい化学反応が起こせているなとポジティブな印象を抱いているんです。

――新しいアイデアの源泉はサッカー外のところにありますからね。

鈴木:西村博之さん(匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者でもある実業家)もメンバーに入ってくれたし、本田も僕も今後の展開が楽しみでしかありません。

<了>

【後編】「正しい努力ができているか?」本田圭佑、西村博之ら超一流が集う「NowDo」の真価とは?

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PROFILE
鈴木良介(すずき・りょうすけ)
1981年生まれ、東京都出身。「NowDo株式会社」取締役副社長。本田圭佑と共に2010年から国内外でサッカークリニックなどを開催。2012年には「SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL」を本田と共に立ち上げ、全国76校にわたる国内外でサッカースクール、施設運営事業を行う「SOLTILO 株式会社」を設立し、取締役副社長に就任。今回の「NowDo株式会社」の取締役副社長に加え、スポーツ競技におけるセンシング技術を使った(ウェアラブル)IoT事業ビジネスを展開する「Knows株式会社」、2019年4月からスタートする幕張ベイエリア内の認可保育園、インターナショナルスクールの経営を行う「SOLTILO CCC株式会社」の代表取締役社長も務める。

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