世界屈指の「選手発掘・育成の専門家」は日本に何をもたらす? リチャード・アレンが明かす日本人のポテンシャル
3月28日、J2・横浜FCから、英国のリチャード・アレンをシニアフットボールエグゼクティブ・テクニカルアドバイザーとして招聘したというリリースがなされた。イングランド・プレミアリーグのトッテナムのアカデミーでハリー・ケインやハリー・ウィンクスらを見出し、イングランドサッカー協会タレントID(才能発掘および育成)の最高責任者を担ってきたリチャード・アレン。彼が構築してきた選手の発掘・育成の仕組みづくりはイングランドサッカーの発展に寄与し、FIFA U-17ワールドカップ優勝にも貢献。世界的にも評価の高い人物だ。リチャード・アレンとは一体どのような人物で、なぜ日本に来ることになったのだろうか。
(文=柴村直弥、写真提供=リチャード・アレン)
近年のイングランドサッカー躍進の“功労者”
イングランドはサッカー発祥の母国ではあるが、1966年に地元で開催されたFIFAワールドカップで優勝して以降、1度もワールドカップを制していない。
そうした中、2014年にタレントID最高責任者としてリチャード・アレンがイングランドサッカー協会へ着任。リチャードは才能発掘及び育成のエキスパートとして、トッテナムで8年間アカデミー採用の最高責任者を務め、ハリー・ケインやハリー・ウィンクスなどを発掘して成長させ、トッテナムをイングランド屈指の育成クラブへと発展させた実績を持つ人物だ。
リチャードがイングランドサッカー協会で最初に敢行したのは、U-15代表チームの創設だった。
U-17ワールドカップの予選に照準を合わせて、2年早くU-15から招集。より早い段階から才能を発掘・育成していく仕組みをつくっていった。同時に、リストアップされた選手たちを少なくとも数年間、長期的にフォローアップして成長を記録していくことも行った。さらに、育成の指針となるパスウェイをつくり、選手それぞれの年齢や身体の発達段階、スキルなどにより、優先順位を項目ごとに整理し、それらを所属クラブで行うべきか、代表チームで行うべきかも選別。加えて、クラブの強化担当者やスカウト、テクニカルダイレクター向けのライセンスコースをレベル1〜5まで創設し、いまではプレミアリーグを始め多くのクラブの強化担当者がこの資格を取得している。
リチャードが創設および整理したこれらの施策によって発掘・育成された最初のメンバーが、ジェイドン・サンチョ 、フィル・フォーデン、カラム・ハドソン・オドイらである。
彼らが出場した2017年のFIFA U-17ワールドカップでは、イングランドは準決勝でブラジルを3-1で撃破、決勝でスペインを5-2で退けて見事初優勝を遂げた。久保建英や菅原由勢、谷晃生などを擁し決勝トーナメント1回戦でイングランドと対戦した日本代表チーム(結果はPK戦の末にイングランドの勝利)の関係者は当時のイングランドU-17代表チームの印象をこのように語っている。
「戦術的に洗練されていた、という印象ではないのですが、選手たち個々の能力が突出していました。まれにみるタレント集団という感じでした。そして、選手たちの『自分たちが絶対に優勝する』というような情熱やプライドがピッチ上にも表れていてとても驚異でした」
同世代のほかの強豪国の選手たちよりもイングランドの選手たちの能力は際立っていた。個々の能力の高さが際立つブラジルにも競り勝ち、チーム戦術という面で本大会で突出していたスペインに対してもそれを凌駕する個々の能力で勝利し、優勝をさらっていったのだ。
昨年開催されたUEFA EURO(欧州選手権)では、サンチョやフォーデンがメンバー入りし、グループリーグを無敗で首位通過。決勝トーナメントでもドイツなどの強豪国を撃破し、決勝ではイタリアとの死闘の末にPKで敗れるも、準優勝というイングランドのEUROでの最高成績を残した。
イングランド代表は、今年行われるカタールワールドカップへの出場も、欧州予選グループ首位ですでに決まっている。リチャードは、ガレス・サウスゲート監督がイングランドU-21代表監督だった際に対戦相手や自チームの分析などの役割を担い、現在もサウスゲート監督をサポートしている。
草の根から代表レベルまで、イングランドサッカー界において、2014年からリチャードが着手してきた育成年代を中心とした施策は功を奏してきているといえるだろう。
選手の成長という観点では、現場で直接指導している指導者にのみスポットが当たりやすいが、実は、実際にその裏側でどのような仕組みを構築しているかも選手の成長に密接に関わってくる部分である。
世界屈指の選手発掘・育成のキーマンが新天地に日本を選んだ理由
では、なぜそのような優れた実績を持つ人物が、日本の横浜の地ヘ来ることになったのか。そこには、昨年12月に横浜FCがグローバルパートナーシップを締結したFrontive Holding Limitedが密接に関わっている。
英国ロンドンを拠点に投資事業および事業経営を国際的に展開し、英国フットボール界とも強いコネクションを持つFrontive社が横浜FCのビジョンに沿った人物であるリチャードの招聘をサポートしたのである。Frontive社は松本健弥・代表取締役会長兼CEOが横浜で少年時代を過ごした縁があり、また、サッカーを通じて高いレベルでグローバルに活躍できる選手を育て、サッカー少年少女たちの未来に貢献したいとの思いが根底にあるという。
そして、リチャード自身、実は以前から日本との関わりがあったことも今回の招聘が実現した要因の一つでもある。
Jリーグが開幕してまもなく、いまから27年ほど前にあたる1995年ごろ、リチャードはクラウン&マナークラブという総合型スポーツクラブでフットボール部門の統括やトップチームの監督などを務めていた。そのときロンドンである日本人音楽家と知り合い、サッカーと音楽で青少年を育成するプロジェクトを立ち上げ、クラウン&マナークラブで日本人留学生を受け入れるプログラムもスタートさせた。以降、多くの日本人留学生に触れ、近年では毎年のように来日して、全国各地で講演や指導などを行っていたのである。
そうした中でリチャードは日本人の印象をこのように語っている。
「とても真面目で信用できる。2017年のU-17ワールドカップで対戦した際もそうでしたが、日本と戦うときはいつも私たちイングランドは苦しめられます。育成年代において才能あふれる選手たちが多くいます。私は彼らのクオリティの高さに感銘を受けました。彼らは世界のトップリーグでプレーしていくだけでなく、日本代表チームがワールドカップなど主要なトーナメントでより高い順位に到達することの力になっていくと確信しています」
今回、シニアダイレクターとしてチェルシーから破格のオファーも受けていたリチャードだが、日本でまったく新しいチャレンジをする道を選んだ背景には、そうした日本人へのリスペクトと日本人選手たちのポテンシャルに大きな可能性を感じているという部分もあったという。
それでは、今後リチャードが日本にもたらしてくれるものとはなんだろう。
UEFA指導者Aライセンスを保持していて、育成年代の現場での選手指導経験も豊富であり、UEFAプロライセンスなどの指導者の育成プログラム作成やインストラクターなども務めていたため指導者を育成することにも長けている。そして、何よりクラブのフィロソフィーに沿って育成年代からのタレント発掘・育成という部分の仕組みを構築してきたスペシャリストである。
「横浜FCの発展に寄与し、より多くの日本人選手たちが世界トップレベルで活躍していくようになっていく一助になれるよう努めていきたい」
そう意気込みを語るリチャードが、横浜FCでどのような成果を出し、日本サッカー界に何をもたらしていくのか、楽しみでならない。
<了>
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PROFILE
リチャード・アレン
1965年2月14日生まれ、イギリス・ロンドン出身。横浜FCシニアフットボールエグゼクティブ・テクニカルアドバイザー。幼少期からサッカーをプレーしていたが複数回の大きなケガもあり早くから指導者や青少年育成、サッカービジネスなどの道へ。グリニッジ大学教育学部を卒業し、クラウン&マナークラブで統括運営責任者やサッカー指導者として勤務しながらUEFA指導者Aライセンスを取得。その後、トッテナムのアカデミー採用最高責任者としてハリー・ケインやハリー・ウィンクスなど多くのタレントを発掘・育成。クイーンズ・パーク・レンジャーズのアカデミーダイレクターを経て、イングランドサッカー協会のタレントID最高責任者として育成の仕組みを構築し、U-17ワールドカップ優勝の礎を築いた。才能発掘および育成のエキスパートとしてFIFAのエキスパートパネルメンバーにも従事し、レッドブル・ライプツィヒやシアトル・サンダーズのスカウト部門のコンサルタントや、フィンランドサッカー協会などのタレントIDのコンサルタントも務めている。
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