「鹿島顔」が象徴するアントラーズのクラブ哲学とは? 好調の今季“らしさ”支える熱量と愛情
鹿島アントラーズが持ち前の強さを取り戻しつつある。Jリーグ開幕当初から積み上げてきた“鹿島らしさ”――それは、泥臭く、しぶとく、そして勝負に妥協しない姿勢だ。2025シーズン、新たな「鹿島顔」の選手も加入したトップと、クラブユース選手権で初優勝を果たしたアカデミーが重なり合い、世代を超えた連携も機能し始めた。その再建と新たな構築を担うのが、クラブの原点を知る鬼木達監督だ。再びクラブ全体に熱量と一体感がみなぎっている鹿島の「草創期」を振り返り、「今」を追いかけた。
(文=田中滋、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
今季の鹿島は、過去数年と比べてなにが違うのか?
世の中には「鹿島顔」と呼ばれる人たちがいる。
失礼を承知でその傾向を文字にすると、都会的なイメージを抱かせるというよりは、どこか職人気質を感じさせる男臭さを漂わせる人物、と言ったところだろうか。
昨季、スコットランドのハート・オブ・ミドロシアンFCから田川亨介が完全移籍で加入したときも、東京ヴェルディから千田海人を完全移籍で獲得したときも、SNSでは彼らのことを「鹿島顔」と評する投稿は少なくなかった。今季から加入した小池龍太や小川諒也も、鹿島に在籍した知性を感じさせる選手たちやイケメンの系譜に連なる選手ではある。しかし誰もが納得できる「鹿島顔」のイメージは、シュッとした感じではなく、多少の激突ではびくともしないような無骨な印象の顔のことを言うのだろう。
1993年に産声をあげたJリーグも30年以上の歴史が積み上がってきた。その間に、クラブごとに色がつき、特徴もはっきりするようになってきた。開幕当初は、最強クラブの一つだった東京ヴェルディが一度は没落するも再興し、若々しいイメージを持つクラブに生まれ変わり、横浜F・マリノスは守備を特徴としたチームからいつしか攻撃的なチームへと変貌を遂げ、川崎フロンターレはボールを持たせれば魅力的な攻撃を繰り広げるチームであり続けている。大迫勇也が引っ張るヴィッセル神戸もすっかり質実剛健なチームとなり3連覇を虎視眈々とうかがっている。
その中にあって、今季は久々に“らしさ”を全開にしているのが鹿島アントラーズだ。チームに鹿島顔が集結したわけではなく、持ち前の勝負強さを発揮してしっかり成績を残している。J1リーグ戦では4月末から守ってきた首位の座を3連敗で明け渡したものの、7月20日の第24節柏レイソル戦では、2点のリードを追いつかれる苦しい展開ながら、アディショナルタイムに奇跡的な決勝弾で勝点3をもぎ取るしぶとさを見せ、現在は神戸に次ぐ2位につけている。サッカー専門誌エルゴラッソで2008年から担当記者を続けてきた身としても久々に感じる、往年の鹿島らしい泥臭く、したたかで、粘り強い勝ち方だった。
では、今季の鹿島は、ここ最近となにが違うのだろうか?
「最初に鹿島に来たからこそ、勝負に対するこだわりが形成された」
一番の違いは、監督にクラブの草創期を知る鬼木達が就任したことだろう。
すっかり川崎の淡いブルーのイメージが染みついている鬼木監督だが、プロのキャリアをスタートさせたのはJリーグ開幕を控えた鹿島からだ。その原風景は強烈なインパクトだった。
名門・市立船橋から加入した鬼木青年は、加入当初こそ自信に満ちあふれていたという。
「最初の1週間くらいは“やれるんじゃないか”と思ってました。最初は自分たち若手が動けるぶん、いけるかと思っていたら、上の人たちがシーズン開幕に向けてどんどんコンディションを上げてくると練習するごとに技術も体力も体格も違う。結局『全部かなわないじゃん』となっていました。そこにきて“あの開幕戦”だった。すごく印象に残っています」
1993年の開幕戦、鹿島はホームであるカシマスタジアムにリネカーを擁する名古屋グランパスエイトを迎える。試合は名古屋の優勢かと思われたが、ジーコのハットトリックを含む5得点で鹿島が圧勝という結果に終わった。
「Jリーグ元年は、正直どこが強いかわからず、鹿島が強いとは思っていませんでした。ギリギリでJリーグに参入したクラブでしたし、それこそ名古屋の方が名前もあった。それがあの点差で、なおかつ勢いをものすごく感じたゲームでした。練習でも先輩たちをうまいなとは思ってましたけど、試合が始まって『強いところに来たんだな』ということをすごく実感したゲームでしたね」
その後も鹿島は快進撃を続ける。試合内容は必ずしも勝っていたわけではないが、最後に勝っているのは鹿島だった。
「僕はなかなか試合には出られなかったですけど、試合が終わると相手チームの選手たちは『今日の試合、勝てたよな』『俺たちの方が全然よかったよ』という話をずっとしていた。でも、試合に出ていた先輩たちのなかでは自分たちが試合をコントロールしている感覚というか『ここさえ抑えておけばやられない』というものがあったんだと思います。そういう相手の声を聞いたときに『強さに対する感覚がこんなにも違うんだ』と驚きました」
開幕初年度、鹿島はダークホースとして優勝争いを演じる。1993年と言えば、ジーコが現役でプレーしていたときだ。今では伝説となっている鹿島のレクリエーショナルゲームを、鬼木もまた経験していた。
「有名な話ですけど、レクリエーションがレクリエーションじゃなかった。ジーコさんと同じチームで負けているとだんだん先輩たちが『やばいぞ、やばいぞ』という雰囲気になっていく。一緒のチームになったら、とにかく絶対に負けられませんでした。
華やかなJリーグの中で鹿島は異色だったというか、最初にそういうチームに来られたことは自分自身にとっては大きかったです。やることをやらないと勝てないとか、逆にそういうものをしっかりやるからこうやって勝つんだとか、そういうものを最初に知ることができた。それがあったからこそ、今の自分があると思うし、最初に鹿島に来たからこそ、勝負に対するこだわりが形成されたと思いますね」
1+1 を3にも4にも。“鹿島らしさ”の呪縛からの解放
近年、タイトルから遠ざかっていた鹿島は“鹿島らしさ”の呪縛にとらわれてきた。
岩政大樹監督が「常勝の看板を下ろす」と宣言し、もう一度強い鹿島を取り戻す作業を一からスタートさせようとしたがうまくいかず、次いで就任したランコ・ポポヴィッチ監督は「俺たちは鹿島だ」とメンタリティの復活を目指したが、サッカーの戦術的な積み上げは薄く、思うような結果を残せなかった。
そんな鹿島の再建を託されたのが、ジーコの薫陶を色濃く残す鬼木達監督だ。鹿島らしさが戻ってくるのは当然と言えば当然だろう。
ただ、世界中が経験したパンデミックがようやく落ち着いたことも、鹿島のような距離が近いクラブにとっては幸いしたかもしれない。
先日、鹿島アントラーズユースは、クラブユース選手権で初優勝を果たした。今季のトップチームにはユースの選手たちが数多く練習参加しており、クラブユース選手権決勝で先発した大川佑梧や吉田湊海ら、半数以上の選手たちが一度はトップに混ざってトレーニングした選手たちだった。さらに言えば、そうしたユースチーム内の実力者だけでなく、ユースではセカンドチームに属するような選手たちも練習参加していた。そうした状況を鬼木監督は「いろんなつながりが深く、広がっていくことで、よりクラブが強固になっていく感じが自分の中ではある」と話した。
クラブユース選手権決勝の会場には、鬼木監督だけでなく、昨季までユースでコーチを務めていた柳沢敦や曽ヶ端準、鹿島ユース出身の舩橋佑や山田大樹ら、数多くの選手の姿も見られた。
鹿島がクラブとして大切にしてきた言葉に「全ては勝利のために」というものがある。これまでもクラブに関わる誰もがその言葉を胸に努力を続けてきた。ただ、それが一つの束になって、尋常ならざる力を発揮する瞬間には恵まれなかった。しかし、柏戦のカシマスタジアムの雰囲気や、ユースがもたらした雰囲気など、今までにないまとまりや一体感がクラブ全体に流れ始めている。
鬼木監督は、それを熱量と表現する。
「本当にみんなが必死でやってる。それがこのクラブの良さかなと思います。必死にやることがカッコ悪いことじゃない、というか。そういうところは、このクラブのすごくいいところですし、それはアカデミーからも感じます。
それぞれが、自分の役割に徹することができる。それは、選手もそうだし、スタッフからもそういう感じがある。みんな、熱量と愛情がありますね。このクラブは選手も寮があったりして距離が近い、というのもあるかもしれないですけど、でも、結局は熱量がないとグッとこない。そこはいろんな人から感じますね」
らしさを発揮するのは鹿島だけの特権ではない。他のクラブにも、必ず特別な瞬間は訪れる。それは多くの感動を呼び、奇跡的な光景をもたらす。鹿島だけが特別なわけではない。しかしながら、今季の鹿島は確実になにかが違う。
1+1が2ではなく、3にも4にもなっていく。そんな瞬間が待っているかもしれない。
<了>
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