スタメン落ちから3カ月。鈴木唯人が強豪フライブルクで生き残る理由。ブンデスで証明した成長の正体
開幕2試合でスタメン、一転、その後はベンチ外も経験――。2025シーズンのフライブルクでの序盤戦は、鈴木唯人にとって決して順風満帆ではなかった。しかし3カ月後、彼はブンデスリーガのピッチで欠かせない存在となっている。何が変わったのか。鈴木が手にしたのは、フライブルクで生き残るために不可欠な“強さ”だった。
(文=中野吉之伴、写真=picture alliance/アフロ)
ふがいない連敗スタート。それでも物語は終わらなかった
2025シーズンのドイツ・ブンデスリーガ1部には日本人9選手が所属している。それぞれの選手がそれぞれの立ち位置で奮闘しているが、一番成長を遂げた選手を挙げるとすると、フライブルクの鈴木唯人の名前がすぐに浮かび上がる。
順調なスタートだったわけではない。リーグ開幕のアウグスブルク戦と続くケルン戦はスタメン起用された鈴木だが、この2試合で鈴木もチームもふがいないパフォーマンスで連敗。特にケルン戦は攻守のバランスがバラバラで、チームとしての良さがまるで見られないありさまだった。
ユリアン・シュースター監督は直後の代表中断期を利用して、ハードワーク、ハイインテンシティ、チーム戦術への規律というフライブルクらしさを取り戻すことに着手。しばらくスタメンから鈴木の名前が消えることになった。
あれから3カ月。いまや鈴木は毎試合のようにスタメンに名を連ね、ピッチ上で見違えるようなプレーを見せている。では、どのように鈴木は自身と向き合い、ポジションを取り戻したのだろうか。
「強度と走りの部分はストロングになった」
デンマークリーグのブレンビーから加入が決まると、フライブルク取締役ヨハン・ザイアーは「ユイトは自分でゴールを決める能力と、味方選手をシュートシーンに導く能力とで特別な配合性を持っている。彼の持つスピードと多様性、優れたテクニックでチームのオフェンシブプレーをけん引してくれるだろう」と期待を口にしていた。
だがフライブルクはオフェンス力だけで試合に出られるようなクラブではない。クリスティアン・シュトライヒ前監督が、クラブ哲学についてこんな風に語ってくれたことがある。「フライブルクではどの選手も攻守に高いインテンシティでプレーするのが求められていますね」というこちらの質問に対して、シュトライヒはじっと僕の目を見つめながらこう答えてくれた。
「それ以外に他の可能性はないからね。このレベルで戦うのに他の選択肢はない。それができなければここでプレーはできないだろう。チームとしてみんながそれぞれの役割を担えなければ、ブンデスリーガの試合で勝つのには問題が生じるんだ」
フライブルクで3シーズンにわたってプレーし、今季フランクフルトへ移籍することになった堂安律は、昨季10得点8アシストという素晴らしい数字を残したことがよく取り上げられるが、それ以上に攻守両面において常にインテンシティ高く、戦術的な規律を守りながらあらゆるプレーをハイレベルで実践していたことが何よりも高く評価されていた。
そして鈴木によるここ最近の試合を見ていると、足を止めることなく、常に攻守に絡んでいるのがわかる。特に味方が失った後のファーストディフェンスで鈴木が体を張る印象が強い。攻撃が途絶えたその瞬間に、相手との距離がありながらも、すぐにダッシュでプレスをかけるというのは簡単なことではない。実際に鈴木によるそのプレスのおかげで、相手カウンター機会を防ぎ、チームが守備組織を築くための大きなサポートになっている。鈴木自身もこう話す。
「ああいうところで他の選手との違いを見せないといけないし、あれを特徴にしていかないといけないと思っています。強度の部分、走りの部分は最近ストロングになってきて、自分自身の中で走れる感覚もすごいある。チームのためにできるだけ走って、助けたいなと思いが強いんです。いまは自然と体が動くようになってるんで、いい方向に進んでるかなと思います」
鈴木唯人がフライブルクに求めていたもの
今チームに必要なことはなんなのか。自分が成すべきことはなんなのか。そこへの意識改革が進んでいることの表れだ。だからフル出場へのこだわりより、強度高く走り、戦い続けることの大切さを口にする。
「強度高くプレーして、60分でも70分でもチームのために走れれば、それがベストだと思っています。いい選手は他にも控えてます。毎試合90分出るためにやろうとは思ってない。結果として90分出れることはいいですけど、インテンシティ高く最初から飛ばしていこうって決めてるんです。成長して長くできるようになればなるほどいいことなので、いまはそこをトライしてます」
地に足をつけて、主体的にハードワークに取り組んで、成長に貪欲であること。勝っても負けても謙虚に自分と自分たちを振り返り、改善点に取り組み続けること。鈴木が見せるそうした姿勢は“クラブ哲学”にもビシッと合っている。
そしてフライブルクが鈴木に求めたものがあるように、鈴木にもフライブルクに求めていたものがある。移籍の決め手の一つとなったのは、こうしたハードワークや守備への関わり方の部分で、自分が大いに鍛えられる環境がここにあるからだった。
「そうですね。リツ君(堂安)から個人の成長にはもってこいのクラブだって。他のチームにいったら、攻撃優勢でやってくださいというチームもあるかもしれないです。でもこのチームはみんな守備も求められます。強度も求められる。どんな選手でもボールと一緒に戻らないといけない。すべてのことをチームのために貢献してこそ、『後はオフェンスで自分の好きなようにやってください』という感じなので。そういう基本的な部分はすごく鍛えられてるところだと思います。それが結局、代表でもいま求められてるところだと思うので、それはすごくつながってるのかなと思います」
シュースター監督が語る、鈴木唯人が結果を残す理由
シュースター監督はそんな鈴木の日々の取り組みをずっと見ていた。開幕から2試合連続でスタメン出場後、しばらく試合に出られない時期が続いた。メンバーから外れたこともある。「チームにはそれだけのクオリティがある」とシュースターは説明。鈴木よりも適した選手がいたらそちらを使うのだ、という明確なメッセージがそこにはある。
ただこれは、鈴木に対するダメ出しではない。誰もがすぐに思い通りのプレーができるわけではない。頭では必要な要素が何かをわかっていても、それを試合でハイレベルに実践するのは非常に難しい。「ハイインテンシティ」という言葉一つとっても、誰が、いつ、どこで、どのようにプレーすべきかの基軸が変われば、それらのすべてに順応するためには、相応の時間が必要になる。そのことはクラブ関係者みんながよく理解している。
うまくいかないときにどんな向き合い方をするのか。
それでその後成長できるかどうかが決まるといっても過言ではない。これはサッカー選手だけではなく、あらゆることに共通するテーマだろう。のちにシュースターは「そうした時にあるのは2つの可能性だ」と話している。10月下旬、ユトレヒトとのUEFAヨーロッパリーグの一戦で鈴木が見事なゴールで勝利に貢献した試合後の記者会見だった。
「一つは自分が犠牲になっていると嘆き悲しむ。もう一つはそこからハードワークをスタートさせること。それを彼はやってのけた。だからいま素晴らしいパフォーマンスに報いられる結果を残すのは、偶然などではない」
「僕が出てない時と出てる時だとチャンス数は断然違う」
鈴木の本気の取り組みをチームメイトもコーチングスタッフも、みんな身近で見て、高く評価している。守備での貢献がチームでも高く評価できるようなレベルまでアップしたことで出場機会はどんどん増え、ピッチにいる時間が長くなることで、オフェンス部分で違いを見せるプレーも多く見られるようになってきている。特に中盤の狭いスペースでボールを受けて前を向く時のポジショニングとタイミングは非常にいい。迷いなくシュートに持ち込む感覚とシュート精度は他の選手にはないものだ。
「僕が出てない時と出てる時だとチームのチャンス数は断然違うと思う。ジョアン(マンザンビ:スイス代表MF)もすごいいい選手でチャンスをクリエイトできますけど、僕ら2人が出ていたら、起点となってチャンスメイクできている感覚あります。相手の動き見て、スペースの中間に立ってボールを受けるのがもともと得意。その回数はたぶんもっとこれから良くなると思います」
素晴らしい成長力で一気にブンデスリーガ強豪クラブでレギュラーの座を確保した鈴木。FIFAワールドカップを控えた日本代表にとっても必要な選手として注目を集めるのは間違いない。
<了>
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