「批判は気にならない」長谷川唯が明かす、評価に振り回されない思考法
イングランドのマンチェスター・シティでプレーし、なでしこジャパンの中心選手として世界の舞台に立ち続ける長谷川唯。初著書『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』では、トップレベルで戦う中で磨いてきた考え方や、日々を前向きに過ごすための習慣を明かしている。結果を求められる世界では、称賛も批判も含め、さまざまな評価を受ける。そのなかで長谷川は、評価そのものに振り回されるのではなく、「誰が、どんな視点で伝えているのか」を大切にしてきたという。書籍の抜粋を通じて、他者の評価を受け止めながら、自分の成長につなげるための考え方を紹介する。
(文=長谷川唯、写真=PA Images/アフロ)
反骨心がわたしを成長させてくれた
わたしが小さい頃から人の言葉に振り回されなかったのは、自分に自信があったからかもしれません。怒られて落ち込むというより、反発する気持ちのほうが強いタイプで、厳しく指導されても「うるさいな」と思うくらいの感覚でした。指導者の方からは、生意気な選手に見えていたと思います。でも、その反骨心や負けず嫌いな気持ちは、自分にとって必要なものでした。
なんにでも反発すればいいわけではありませんが、「悔しい」「見返したい」「負けたくない」という気持ちが成長につながる力になることはあります。指導のあり方は時代とともに変わりますが、負けず嫌いや反骨心から生まれるエネルギーは、どの時代でも絶対に必要だと感じています。
気持ちを奮い立たせるうえで大事なのは、自分が簡単には勝てない、少し上のレベルの環境に身を置くことです。わたしの場合は、幼い頃から兄と一緒にサッカーをして、中学1年生でメニーナに入ってからは、技術も体格も年齢も上の選手たちとプレーしてきました。普通に考えたら勝てる相手ではありませんでしたが、当時は「勝てない」と決めつけることなく、ついていこうと必死にがんばりました。
今の年齢になって、自分からそういう環境を選ぶのは簡単ではありません。でも、年代が低いうちは男子選手のなかでプレーする機会をつくったり、年上の選手とプレーできる環境に飛び込んでみたりすることは大きな意味があると思います。
とくに女子サッカーでは、そういう環境をどうつくるかが課題でもあります。本気でやっても勝てない相手や、ギリギリ勝てるかどうかのライバルがいるような環境のなかで揉まれることは、サッカーにかぎらず、どの競技でも、どんな社会でも大事なことだと思います。
10代で学んだ、ピッチ内外の振る舞い
年上の選手たちとプレーしていた頃から、わたしは「ピッチに入れば年齢は関係ない」と考えていました。ただ、フィールドの中と外では感覚をはっきり分けていました。メニーナでは、年下の選手がドリンクのボトルやボールの準備、片づけを担当していて、それを“仕事”と呼んでいました。行き過ぎた上下関係はよくないと思いますが、年下としてやるべきことをきちんとやるという意識をもつことは大事だと思います。
中学3年生でU-16女子代表に選ばれたとき、チームを離れる前に、当時監督だった寺谷真弓さんから「いちばん年下なんだから、いちばん仕事をしっかりやりなさい」と言われました。その言葉は今も印象に残っています。
今のなでしこジャパンでは年上の選手が何かを押しつけることがなく、年下の選手たちも自分の役割をみずからきちんと果たしているので関係もよく、とてもいい環境だと感じていますが、そういう意識のもち方も、日本ならではのいい部分でもあったと思います。
わたしが年上の選手たちから学んだことは、ほかにもたくさんあります。生意気だったわたしは、試合中によく先輩たちと言い合うことがありました。とくに、ベレーザでも日本代表でも一緒だったイワシ(岩清水梓)さんには、試合中によく厳しく声をかけられました。言われたことをすぐに受け止められず、意地を張って反発してしまうこともありました。この年齢になって振り返れば、わたしの表現の仕方がよくなかったとわかります。でも、当時は一つひとつのプレーに自分なりの考えがあって、その意図をわかってもらいたい一心でした。
そんなとき、有吉佐織さん(アルビレックス新潟レディース)や阪口夢穂さんが間に入って、空気を和らげてくれました。わざと笑わせてくれたり、自然に会話をつないでくれたりしたことで、ぶつかり合ったまま終わらずにすんだことも多かったです。イワシさんの厳しさ、有吉さんと阪口さんの柔らかさ、その両方があったからこそ、わたしは伸び伸びプレーすることができて、いろいろなことを経験させてもらうことができたのだと思います。
評価は「誰が言ったか」で受け止め方が変わる
海外でプレーするようになってから、賞をいただいたり、バロンドール候補に名前が挙がったりする機会が増えました。そうした評価は大変光栄なことです。ただ、わたしがより嬉しいと感じるのは、賞の大きさよりも、ほかの人があまり見ていないプレーまで見て評価してもらえたときです。「そんなところまで見てくれているんだ」と思えるような視点からの評価のほうが印象に残ります。
わたしのなかには、「この人に評価してもらえたら嬉しい」と思える相手がいます。ベレーザ時代に監督として指導を受けた永田雅人さんや、マンチェスター・シティのガレス・テイラー元監督は、周囲にはあまり伝わりにくいわたしの良さを見つけて、評価してくれる存在でした。
マンチェスター・シティに来てから、PFA(イングランドプロ選手組合)が選ぶ年間ベストイレブンに3年連続で選出されました。この賞は現役選手たちの投票で決まるので、わたしにとっては特別です。同じ舞台で戦っている選手たちから認めてもらえることには、大きな意味があります。試合ごとのプレイヤー・オブ・ザ・マッチや年間の各賞など、いろいろな評価がありますが、わたしは「誰が選んでいるか」を大事にしています。有名なチームでプレーしているから選ばれるのではなく、自分のプレーそのものを見て評価してもらいたいと思っているのです。
表面的な印象ではなく、プレーの中身を見たうえでの評価には重みを感じます。それは、監督からの評価も同じです。シティでは、単純な技術というより、スペースを見つけて動くことや、目立ちにくいプレーも含めて理解し、評価してもらえていると感じます。今のプレーをきちんと見てもらったうえでの評価は、わたしにとってポジティブなことです。
最後に信じるのは、自分自身の感覚
プロとしてプレーする以上、褒めてもらうことはもちろん、批判されることもあります。でも、その言葉に気持ちが大きく左右されることはほとんどありません。周りが高く評価してくれても、自分が納得していなければ喜べませんし、批判されても、自分で納得できていれば気になりません。
大事なのは、周りの意見よりも、自分がどう感じるかです。2024-2025シーズンは、ケガ人が多かったなかで周囲から評価してもらった感覚はありましたが、自分のなかでは納得しきれていません。個人としては、シティの1年目の2022-2023シーズンや2年目の2023-2024シーズンのほうが良かったという感覚があります。周囲の評価と自分の実感がずれることはありますが、そういうときこそ自分の感覚を信じるようにしています。
なでしこジャパンに対する批判を目にすることもあります。とくに、SNSのように短い言葉をすぐに発信できる場では、そうした声が流れてくることがありますが、あまり気になりません。きっと批判の内容そのものよりも「どんな人が、どういう視点で言っているのか」というほうが気になるからだと思います。なかには、「たしかにその試合では自分も同じ感覚だった」と思うこともあります。
でも、最終的に判断するのは自分です。どれだけ強い言葉で言われても、その人が何を知っていて、何を見て言っているのかがわからなければ、そのまま受け止めることはありません。ストレスをぶつけるように批判している人もいるかもしれませんが、そういう言葉にまで心を動かされる必要はないのです。
周囲の評価は、自分を知るきっかけにはなります。でも、それで自分が決まるわけではありません。最後に信じるのは、自分の感覚です。評価と向き合ううえで大事なのは、自分の感覚という軸を持ち続けることだと思っています。
(本記事は徳間書店刊の書籍『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』から一部転載)
<了>
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[PROFILE]
長谷川唯(はせがわ・ゆい)
1997年1月29日生まれ。宮城県出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・マンチェスター・シティWFC所属。ポジションはMF。中学1年生で日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織であるメニーナに加入。年代別代表では2014年FIFA U-17女子ワールドカップ優勝、2016年FIFA U-20女子ワールドカップ3位入賞。2017年になでしこジャパンに初招集され、2度のFIFA女子ワールドカップ、東京五輪とパリ五輪、3度のAFC女子アジアカップを経験。なでしこジャパン通算100試合出場も達成した。2025-26シーズンはマンチェスター・シティの10年ぶりとなるリーグ優勝とFAカップ優勝の二冠に貢献。イングランドプロサッカー選手協会(PFA)選出のベストイレブンを3年連続で受賞し、日本プロサッカー選手会(JPFA)が選ぶ年間最優秀選手賞も2年連続で受賞している。抜群のサッカーセンスとボールコントロール、高い戦術眼を武器に、世界最高峰の舞台で日本人プレーヤーの価値を高め続けている。
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