国税庁が「税優遇」新解釈示したJリーグ専務理事のスゴ腕。歴史的回答の全貌を解説する
これまで曖昧な部分も残っていた親会社に対する「税優遇」が、プロ野球にとどまらない共有財産となる。19日、Jリーグの村井満チェアマンと木村正明専務理事が理事会後の会見で報告した内容は、「Jリーグの会員クラブに対して支出した広告宣伝費等の税務上の取扱いについて」。クラブにスポンサー料等を支出した場合の税優遇はどうなるのか? その答えが国税庁から明確に提示された。Jクラブにとどまらず、スポーツ界全体にとって大きな収穫が生まれた背景を解き明かす。
(文=大島和人)
プロ野球とJリーグが「同じ扱い」となった大きな意味
税理士のような専門家でなければ、普段は国税庁の公式ホームページを見にいったりしないだろう。しかしこの5月15日、サッカーファンにとってかなり気になる文章がそこに掲載された。
「Jリーグの会員クラブに対して支出した広告宣伝費等の税務上の取扱いについて」と題された木村正明Jリーグ専務理事による照会と、国税庁側の回答はインパクトのある内容だった。親会社がクラブにスポンサー料等を支出した場合、税優遇がどうなるか? そんな問いに答えが出て、しかも明文化された。
Jリーグ側が確認したのは、以下の3点だ。
(1)自己の子会社等であるクラブ運営会社に対して支出した広告宣伝費等の取扱い
(2)親会社がクラブ運営会社の欠損金を補てんした場合の取扱い
(3)親会社がクラブ運営会社に対して行う低利又は無利息による融資の取扱い
国税庁側は課税部審理室長名義で「ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません」と回答し、照会内容を肯定している。
プロ野球は1954年に「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」と称する通達が出されており、親会社に対する税優遇が認められている。具体的にいえば、親会社が球団の赤字を補てんした場合、損金算入に限度のある寄付金ではなく、損金算入できる広告宣伝費として扱うことが認められてきた。
サッカー界は1993年に今の形でプロリーグを発足させたものの、野球とは明確な違いがあった。それはチーム名に企業名が入っていないことだ。例えば鹿島アントラーズでなく「メルカリ・アントラーズ」ならば、広告宣伝効果も明らかだ。しかし企業名が入っていないプロチームをどう扱えばいいのか、J発足のタイミングで新たな判断が必要となった。
水面下でJリーグ側と国税当局のやり取りが行われた。「ユニフォームの胸に企業のロゴを入れる」といった条件で、スポンサー料を損金計上の対象とする方向づけがされた。この経緯は川淵三郎初代チェアマンの著書『川淵三郎 虹を掴む』などで軽く触れられているが、プロ野球のような明文化はされていない。
また事後のスポンサー料、損失補填のような支出に関してはJリーグとプロ野球の扱いに差があるという定説があった。例えば年間の広告宣伝費を千億単位で支出するトヨタ自動車のような大企業が、Jクラブに20〜30億円を出すレベルならば、損金算入を否認される恐れも持たれていなかっただろう。ただし三木谷浩史・楽天会長兼社長のように、プロ野球とJリーグの扱いに違いがあると説明した関係者が過去にはいた。そこについても今回の回答で、両競技は同じ扱いとの意味合いが記された。
スポンサー料、貸付の扱いが明確化
5月19日に行われた2020年度第5回理事会終了報告会見で、Jリーグの木村専務理事はまず照会の背景をこう説明している。
「今後もし予定通りの試合数をこなせない場合には、企業からいただいているスポンサー料に対して解釈の難しい問題が生じてきます。例えば1億円の売上の企業があったとして、スポンサー料を仮に1000万円いただいていたら、9000万円に対して税金がかかることになります。つまり広告宣伝費扱いとなります。もしコロナ問題によって試合数が減った場合、広告価値が減ったと見なされる可能性があります。ここの解釈をどう考えればいいのか、スポンサー保護の観点から国税庁と話していました」
Jクラブにとってスポンサー料は売上のおおよそ半分を締める収入の柱だ。仮にスポンサー料の広告宣伝費扱い、損金扱いが認められなくなれば、課税対象となる範囲が増える。納税額が上がるとなれば、損金計上できない分を返金させる圧力も高まる。
今回は「広告宣伝費扱い」「損金扱い」に関して、試合数減少によるネガティブな影響がないと確認された。木村専務理事は述べる。
「もし試合数が減ったとしても、スポンサーがクラブの復旧支援のために返金を要求しなかった場合には、そのまま損金に算入されます。それが国税庁との会話で明確になりました」
加えて親会社の扱いに関する基準に関して、国税庁側から実質的に新しい解釈が示された。木村専務理事はまずスポンサー料の扱いについて口にする。
「(これまでは)プロ野球の親会社と少し扱いの違う部分があったんですけれど、結論から言うとまったく同じ扱いを認めていただいた。例えば1年の間に親会社がクラブ支援のためにスポンサー料を追加した場合、寄付金や損失補填に見られかねません。しかしそれも損金として、自分たちの親会社の収入に対して差し引けるお金として認められます」
貸付の扱いも明確化された。木村専務理事は言う。
「親会社がクラブにお金を貸した場合、貸したお金をクラブが使った場合、返さなくてもその使ったお金は損金として算入される税優遇がプロ野球には認められていました。しかしJリーグのクラブについても、それが認められると今回明らかになっています」
村井満チェアマンもこう補足している。
「試合が当初の契約通りに行われなかった場合、損金として算入されず、寄付として扱われるとさらに税金がかかってしまう。それが損金算入になるという解釈ができました。今まではスポンサーの担当されている税理士さんの判断で解釈の分かれることもあったんですが、改めて今回すべてのスポンサーについて共通の解釈が通達されたと理解している」
スポーツ界が経営危機を乗り越え、飛躍するための大きな追い風
もちろんクラブや球団に対して支出をする以上、親会社の負担がゼロになるわけではない。また赤字企業ならば税優遇の意味もなくなる。厳しい経営環境が一気に変わるはずもない。
ただしJクラブは新型コロナウイルス問題によって入場料収入の減少に見舞われ、経営難に陥る可能性も高まっている。スポンサー料、貸付と形態は別にして親会社によるクラブへの支出は増えるだろう。そんな中で木村専務理事を中心とした折衝と国税庁の回答により、親会社の納税額増加や追徴課税の恐れがほぼ消えた。間接的にだが、クラブ経営にとって大きな追い風となる。
しかも今回の照会と回答によるポジティブな効果は、Jリーグの56クラブにとどまらない。村井チェアマンは税優遇の対象についてこう述べる。
「JFL、なでしこリーグ、他のスポーツ団体……、例えば(男子バスケットボール)Bリーグのようなプロのスポーツ団体に関する共通したガイドラインという認識です。汎用性の高い内容かなと思っております」
木村専務理事も明言していた。
「(税優遇の対象は)すべてのスポーツになります。サッカーならJFL、アマチュアもここに該当します」
村井チェアマンは大きな喜びを口にする。
「解釈の分かれていた部分が統一化され、Jリーグを支えるスポンサーにとってはとても大きな判断が示された。大変ありがたく思っています」
国税庁への照会は、新型コロナ問題によるスポンサーへの悪影響を避けるための確認を目的として行われた。ただし事後のスポンサー料追加、貸付などに関する損金計上と税優遇は「新型コロナ特例」でなく、恒久的な措置となる。
納税は国家が存立する根幹で、厳密な制度運用が求められることはいうまでもない。今回の照会と回答も、そこに至る綿密なすり合わせがあったことは容易に想像できる。木村専務理事はゴールドマン・サックス証券に在職し、金融界で極めてハイレベルなキャリアを積んだ人材。税法の趣旨や運用を深く理解した上で、緻密なやり取りができる専門家がいたからこそ、Jリーグは国税庁からこのような見解を引き出すことができた。
しかもこの解釈内容は「公認」され、サッカー界、スポーツ界の共有財産となる。この国のスポーツが危機を乗り越え、さらに飛躍を果たすための極めて大きな一歩だ。
<了>
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