トップアスリートの「才能の正体」とは? ビリギャル著者・坪田信貴が語る「結果を出す方法」
ベストセラーとなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称『ビリギャル』)の著者で知られる坪田信貴氏。昨年上梓された新著『才能の正体』において、「才能は、誰にでもある」と伝えている。
一般的に、世界で活躍するトップアスリートは特別な“才能”を持って生まれたものだとされており、多くの人たちはその才能を“自分にはないもの”として諦めている。1300人以上の子どもたちを指導し、数々の急激な“成長”をバックアップしてきた坪田先生の考える、「トップアスリートの才能の正体」とはいったい何なのか? トップアスリートを育て上げるには、周りにいる大人はどうするべきなのか? 話を聞いた。
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=UZA)
才能が“ある”と“ない”の違いは何なのか
今回は、大きなテーマとして2つ伺いたいと思います。まずは著書『才能の正体』(幻冬舎)にちなんで、「どんなトップアスリートも、もともと特別な才能があったわけではない」というテーマで話を聞かせてください。プロアスリートを目指している子どもたちにもわかりやすく、坪田先生のお言葉で「才能の正体」についてぜひ説明していただきたいです。もう一つは、親がどのように子どもの「才能の正体」を伸ばしたらいいのか。先生の視点で教えていただければと思います。
坪田:僕は「才能」というものを昔から考え続けてきて、いろいろ記録にも残してきているのですが、結論、才能って誰にでもあるし、誰にでもないとも言えると思っています。じゃあ、才能があると言われる人はどのような人かというと、シンプルに“結果を出している人”です。結果を出していないのに才能がある、と言われることってまずなくて。逆算すると、才能があると言われる人は結果を出していて、その人の結果に対して付加して、周りの人が「才能がある」と言っているだけなんです。逆に言うと、ほとんどの人たちは、まだ結果を出していない人のことを「才能がない」というだけの話で、その人に合った適切な努力をして結果を出していけば、才能があると言われるようになる。それだけのことだと思います。
スポーツにおいてはどう思いますか?
坪田:スポーツにおける観点でいうと、僕はあることに気づきました。例えば、足がメチャクチャ速い選手としてウサイン・ボルトを例に挙げてみます。「100メートル走を1対1で走ったとしたら、実際自分の何倍くらい速いと思う?」と生徒に聞いてみると、「10倍……いや100倍くらい早く感じると思う」と答えるのです。でも、ボルトって世界記録で9秒6くらいですよね。そう考えたら、「もし倍だとしたら、君は20秒で走っていないとおかしくない?」と。僕らは100メートルって、高校生くらいなら遅くても14~15秒ぐらいで走れるじゃないですか。ということは、「ボルトって君の何倍なの」という話なんですよ。実際は1.5倍くらいの速さだと考えると、大したことなくないですか?
確かに、そうかもしれません。
坪田:何が言いたいかというと、ボルトは、明らかに僕らと比べて足も長いし筋肉も別格だろうし、間違いなく世界トップレベルの才能を持っていると思うんですよ。おそらく世界一練習して、世界一の環境を用意されて、世界一才能がある人が、僕らのわずか1.5倍くらいの成果しかあげられないというのは、どうなのって話じゃないですか。こちら側は大して毎日走っていないし、なんなら不摂生だし、もちろんお金もそこまでないし。それでも、あげられる成果が1.5倍ですよ。これは他の競技でもほとんど同じ。
ということは、何が問題かというと、僕らは先天的な才能差や環境差ってほぼ関係なくて、能力差もない、ということなのです。面白いのが、身長を例に挙げると、僕は165センチなんですけれど、僕の10%アップで181センチくらいじゃないですか。20%アップで2メートルくらい。世界でトップクラスに身長が高い人ですら、僕らの25%増しくらいだと思うんですよ。そう考えると意外に差なんてないよね、という話です。それなら、あとは何かしらの工夫や努力を積み重ねることのほうが、明らかに成果を出す要因としては大きくなる、というとてもシンプルな話なんです。
具体的な話も聞きたいです。
坪田:有名な話だと、イチロー選手の何がすごかったのかという話を当時の球界にいた人に聞いてみると、「毎日試合が終わったら、自分たちはすぐシャワーを浴びて飲みに行くけど、彼は風呂に20~30分入った後に、ずっとストレッチをしたり身体のケアをしていた」と。その姿を見ていて、こいつはタマが違うなと思ったとおっしゃっていましたね。
プロ野球選手なんて、野球をやっている人の中のエリート中のエリートなのに、それでもプロとしてやるべきことを継続できる人とそうでない人がいるという、典型例ですよね。結局、それをやっているかどうかというだけの話なのです。
確かに、とてもシンプルなことですね。
坪田:面白いのが「複利効果」といって、例えば毎日1%ずつお金が増えるとなると、1年後に37.78倍になりますが、逆に1%ずつ減ると0.02倍になる。何を意味しているかというと、例えば身長が1メートルの人がいて、その人が1年間で1%ずつ身長が増え続けると37.78メートルになる、ところが1%ずつ減り続けると1年後は2センチになるのです。シンプルに、その積み重ねの差だけなんですよね。
要は、結局僕らは努力などの「複利効果」を得られて、それを長期間やっているかいないいかだけで、天才だ何だって言われるようになっている。もともとの身長差などは20%ぐらいの要素なのだけれど、複利効果を1年間やると37.78倍になるっていう、この大きな差だけなんだと思うんです。
勉強なら、ある程度みんなそのことをわかっているかもしれませんが、スポーツの場合、いきなり身体能力や空間把握能力とか曖昧な感じなもので「才能」を捉えがちですよね。すごくわかります。例えば、本田圭佑選手は日本代表であれだけの結果を出して、近年では最も結果を出している選手の一人ですけれど、ガンバ大阪の時はジュニアユースからユースに上がれていないんですよね。毎年たくさんユースに上がる子たちはいるわけじゃないですか。でも、当時のその子たちに今も負けているかと言ったら、最終的な結果でいうと勝っていますよね。
坪田:そうなんです。そして、そういう人は「大器晩成型」と言われるんです。結局、才能はすべてタイミングの問題などと言われるんですけれど、そういうことを言い出したら、みんな大器晩成型って言えますよね。だいたいの人が、早熟といわれるような人たちを前にすると負けてしまって、やらなくなっているだけで、やっていたら結局同じですよね。
そういう意味で面白いなと思うのが、僕は高校時代はニュージーランドに住んでいて、大学の時にはアメリカにいたのですが、日本と、南半球の国と、欧米の国それぞれに住んで大きく違うなと感じたことがあって。良い悪いは別として、日本ってダメなところがあると、「せめて普通にしよう」という発想や、そこに対するベクトルがすごく強いんですよね。サッカーに例えると、シュートは良いのだけれど、トラップがちょっと……となったら、「苦手なトラップを最低限ちゃんとやらなきゃ」となってしまって、「得意なシュートをもっと伸ばそう」というふうにはならなくて。それはたぶん、勉強などにもおいても同じで。
日本人的思考の落とし穴
日本人は、苦手なことを克服しようと思いがち、ということですね。
坪田:例えば、自分の子どもが定期テストで返ってきた結果が、ほぼ95点くらいの中で、英語だけが4点だったとしますよね。そうしたらどう思うかというと、「いや4点って……他のは頑張ったけれど、これは酷すぎるだろう!」となって、会話の9割は「できているところはもういい、4点をどうにかしよう」となりがちだと思うのです。
人間って1時間説教することはできるけれど、1時間褒め続けることってたぶん、できないんですよね。なぜかというと、叱られ慣れているけれど褒められ慣れてない。だから、その語彙が足りないことが原因だと思うんですよ。本当なら1時間褒めても良いはずの時でも、その視点が欠けていて、できていないところに目がいってしまうから、子どもが「自分はダメなんだ」となりがちなんです。
継続できない一番の理由って結局メンタルなので、自分がダメなところに対して「よし、やるぞ!」ってなかなかならないものです。「好きこそものの上手なれ」じゃないですけれど、なぜ好きって思えるかというと、できるから、自信があるからなんですが、日本ってできないところに目を向けがちなんです。これをみんな“向上心”だと思っているんですけれど、ちょっと違うんですよね。
なぜ日本人はそのような思考になってしまうのでしょうか?
坪田:理由についてずっと考えていた時に、これだなと思ったことがあって。おそらく、妊娠時のエコー検査が原因だと思うのです。
エコー検査ですか?
坪田:どういうことかというと、今のエコーってすごくて、何センチ、何ミリか、推定体重までわかるんですよね。そのデータに基づいてお母さんたちは健康管理をするから、体重が1週間目でどれくらい減った、増えたとか、どれくらいお腹の中の子が育成しているかというのもわかるわけじゃないですか。2週目3週目って、その数値の変化がグラフで出てくるわけですよ。それを見て、平均値より下だったら痩せすぎなのでもっと食べてくださいと言われて、平均値の間にいないとダメ、と言われるんです。僕の妻なんて1人目の子の妊娠時に、「今の成長具合だと手指がない可能性がありますよ」って言われて、当然親からしてみたら必死になるじゃないですか。で、体重を増やしてそのグラフの平均値のゾーンに入った瞬間に「やったー!」てなっていたんですよ。
(笑)。
坪田:それを見ていて、僕は別に手指がなくても、もしそうなったらなったで幸せになればいいだけじゃないかと思って。僕らって、何かが足りないから不幸せになっているわけではないじゃないですか。「そこじゃなくない?」って。例えば乙武(洋匡)さんとかも、幸せそうじゃないですか。僕は乙武さんの『五体不満足』(講談社)を見た時、冒頭で「手足がない子どもが生まれた時に、自分の母親はまず『かわいい』と言った」というのを見て心を掴まれて。その部分で「このお母さんに生まれてすごく良かった」ということを言っていたんです。
つまり、僕らは生まれる前から「何かが欠けていたらまずい」というのを、医者から植えつけられてしまう。生まれてからも、「“平均値”に入っていないと……」という発想になるのは当然じゃないですか。挙句の果てには、例えば生まれた瞬間の体重が3200グラムの子もいれば2000グラムの子も4000グラムの子もいますよね。そこからちょっと成長曲線が変わるのは当然じゃないですか。ハイハイするのが月齢より早かったら、親はなんと言うかというと、「この子運動神経良い!」(笑)。 もうおかしいでしょ。数字を覚えるのが早ければ「この子、数学者とかになれるんじゃない?」とか。
あるあるですね(笑)。
坪田:それはまだいいんですが、ここからが問題で。なぜこれらのように思うのかというと、比較対象がないからなのです。親にとって初めての子だったり、兄弟がいたとしても、多くても4~5人。たいして多い母集団ではないのに、この集団の中で比べたら、その中でこの子は良い悪いというのを判断してしまうのです。一人っ子だったら比較する人がいないから、なおさらですよね。ところが幼稚園に行くと、自分の子は運動神経が良いと思っていたのに、同じクラスに鉄棒でくるくる回っている子がいたり、足が速い子がいたりして、「あれ? 意外と普通の子なのかな?」と思うわけです。
つまり、母集団が増えることによって、今まで1位だったのが2位、3位になった瞬間に「あれ?」ってなるわけですよ。さらに今度は小学生になると、近隣の幼稚園や保育園の子たちが集まって、数百人という集団になったら当然そこでも1位になるのが難しくなって、急に順位が下がっていくわけですよね。するとどんどん、普通どころか、これができていない、あれができない、他の子はできているのに……という思考になっていきます。子ども目線からすると、天才だとおだてられていたのに、親の目線が「あれ? たいしたことないじゃん」というように急に変わってしまえば、自信をなくしてしまうのは言うまでもないですよね。
親やまわりの目線によって僕らは自信みたいなものが左右され、そのことによってなかなかメンタルが安定せずに継続ができなくなっていき、結局成果が出せなくなっていくのです。
以前、読売新聞さんで、何月生まれかによってプロサッカー選手の数が全然違うという記事があったのですが、4月、5月生まれが圧倒的に多くて3月生まれがすごく少ないと。なぜかというと、特に小学生くらいだと4月生まれと3月生まれだとほとんど1年違います。身長も体重も違えば、筋肉のつき方も変わってくるから、同学年の子と比べたら3月生まれの子は勉強もスポーツも苦手になりがちなのです。特に低学年くらいだと顕著に差が出てくる時期だから、全然違うんです。だからこそ、周りからの見られ方をもろに受けて、自信をなくしてしまうのではないかという仮説になります。
途中で諦めてしまうということですよね。親も本人も。
坪田:努力を継続しなくなることによって、成果というのが出せていないのではないかと思います。本来、そんなに明確に優位な差が出るのはおかしな話。「4月生まれは才能がある」というような発想になってしまいます。
これだけ誕生月が顕著に表れるのは日本だけで、ヨーロッパなどのデータではそこまで差がないようですね。
坪田:日本人には才能信仰みたいなものがあるし、目の前の結果だけを見ていて、ある意味即物的だと思うんですよね。統計やデータを見て判断するようなことができない。ちょっとでも平均よりも遅れていたらダメ、せめて平均点でも取りなさいとみんな言うんですよ。「少なくとも平均点は取れないと世の中生きていけないよ」と。「何なの平均点って?」と思うわけですよ。
個人的な考えでは、むしろ平均点よりも“中央値”の方が大事だと思っています。例えば、年収1000万円の人と200万円の人がいたら、その2人の平均年収は600万円になりますよね。そういう意味だと、結局「人の言うことは気にするな」という考え方ができるかどうかなのかなという気がしますね。
どのようなことを指標として意識していけばいいと思いますか?
坪田:シンプルに、10分前の自分、1時間前の自分、1日前の自分と比べられるかどうかだと思います。比較するなと言われても、どうしてもしちゃうじゃないですか。ならば、何と比べたらいいのか。「自分に負けるな」という表現をよくしますよね。その時何と比べるべきかといったら、1時間前くらいの自分になるはず。1時間前の自分はこうだったけれど今はこう、みたいな。そこでの微妙な差に目を向けられるかどうかだと思いますね。
例えばスポーツなら、「好きかどうか」と「できるかどうか」って変わってきます。でも、「できるか」という感覚で人と比べてしまうと、テニスを3歳から始めて10歳でウィンブルドンのジュニア大会に出ています、みたいな人と比べたら、自分は才能ないって思ってしまうのは当たり前ですよね。それだと何の意味もないので。
では、どうしたら良いのでしょうか?
坪田:例えばラケットを振ればボールがどこかへ飛んでいってしまったり、走り始めたら転んで血まみれになる……みたいな、いわゆる運動神経がめちゃくちゃ悪い子がいるとします。まず、その子はラケットの握り方や力を入れるタイミングがおかしいなど、絶対に何か原因があるはずです。そこを指摘しながら指導してあげて、10回中9回ボールが飛んだならば成長しているはずなんですよ、確実に。それを10回中8回飛ばないようにしようとアドバイスして、それができたら「すごく成長しているね」となります。走ると転びやすいのなら、足の運び方を教えて、転ばないようになったらその成長をいかに喜べるか。次はボールにラケットを当てるのを、10回中0だったのが3回当たるようになり、ネットの向こうに飛ぶのが10回中1本飛ぶようになって、そこで「すごいじゃん!」と言ってあげられるかだと思っていて。
でも、みんな言えないんですよ。なぜなら、隣では同い年でバシバシサーブを打っている子がいるから。でも、他人と比べたらダメなのです。本当はいかに自分と比べて、少しでも成長しているかどうかが大事。「やればできる」ってよく言いますけれど、この言葉が一番人間をダメにする言葉だと思うのです。なぜかというと「嘘だから」。やってもできないことなんて、世の中にいっぱいあります。
「やればできる」ではなく「やれば伸びる」
坪田:例えば、NBA選手になりたかったから、そのために金にモノを言わせて世界中から一流のコーチを集めて、良いコートも作って、すべて最高のトレーニングと環境を用意して3年間やったとしても、絶対になれないですよね。ただ、メチャクチャバスケがうまくなるとは思うんです。やれば“できる”というのを、NBA選手に“なる”ことを価値としてやっていたとしたら、途中で「これ、なれないな」って気づいてしまう。そしてその瞬間にやめてしまうんです。つまり、価値として高いのは“できる”ということなのに、“なれない”とわかったらやめてしまう。つまり、成功を求めると、失敗するかもしれないと思った瞬間にやらなくなる。
正しくは、「やれば伸びる」なんです。できないかもしれないけど、やれば成長するのです。技術的には成長しなくても、メンタル的には成長するかもしれない。つまり、“成功”ではなく“成長”や“成熟”というものに目を向けたら良いんです。そこに目を向けてみると、他人ってどうでもよくなるものです。自分自身の成長にはあまり関係がないから。もちろん、良い影響を及ぼしてくれる人もいるので、そういう人たちとは一緒にやればいいけれど、ダメ出しをひたすら言ってくるような人といたら、たぶんその人は成功という観点で物事を言ってきますから、自分の成長においては良い影響とは言えません。
「やればできる」ではなく「やれば伸びる」という感覚でいると、成長するようになる。その成長を積み重ねていくと、複利効果で圧倒的に伸びていきます。
ある人から、大人が子どもに「どんな大人になりたい?」と聞く時に求める答えって、日本だと、職業などで「何になりたいか」だけれど、海外だと「どんな生き方がしたいか」というニュアンスになると聞いたことがあります。
坪田:日本人は、結果の部分だけで才能って言いがちですよね。おっしゃるとおりで、WHAT=何になるか、WHY=なぜそれができたのかって、だいたい血や環境なんですよ。そういう意味では、HOWが重要だと思っています。
今年の春、小学3年生のある女の子が絵本を出して、最初6000部の予定が1万4000部の大重版を予約段階で出して、発売前で2万部、まだ予約段階だったのに、なぜかアマゾンのページが完売欠品となっているんですよ。なぜそうなったのかというと、実はもともと彼女の家族とは家族づき合いをしていたんです。当時僕は名古屋に住んでいて、その家族は岐阜に住んでいて。お父さんは超優秀で、正直僕より断然頭が良いなと思う人なのですが、社会的には知名度はないし、裕福な暮らしをしていたわけでもなかったのです。当時「僕は日本一のワーキングプアを目指します」と言っていたくらい。ふつうに広告代理店とか行けば余裕で稼げるじゃないですか、みたいなことを言っていたんですけれど、なぜか町おこしのようなことをやっていて、ひたすら貧乏だと言っていました。
なぜお嬢さんが本を出すことになったんですか?
坪田:僕がビリギャルで話題になった時に、そのお父さん(秋元さん)に「秋元さんも本を書いたほうがいいですよ」と勧めて、佐々木圭一さんのベストセラー本『伝え方が9割』というビジネス本などを作った、ダイヤモンド社の土江さんという有名編集者の方を紹介したら、「この人すごい人ですね」と気に入られて、『20代に伝えたい50のこと』(秋元 祥治/ダイヤモンド社)という本を書いたんです。それが売れて反響になり、新聞や雑誌、テレビで取り上げられているのを、当時小学1年生だった長女のういさんが「私もこうなりたい!そのために本を書く。私は小学1年生だから『保育園児に伝えたい50のこと』っていう本を書こうかな」となって。iPadを渡して書かせてみたら、50だと多いので結局8つくらいに絞って、半年ほどかけて遂行していって自主出版することになったんです。せっかくだから100部印刷することになったんですけれど、坪田さんと対談したいって言ってくれて。その時自分は東京に住んでいたので、「ギャラだけはくれ」って言って(笑)。 もちろん、人に時間を取ってもらうということはコストが発生するわけだから、ということをわかってもらいたくて、あえて言ったんですが。で、ギャラとして500円もらいました。新幹線で往復で行ったんですけど(笑)。
面白いです(笑)。
坪田:その自費出版本がけっこう良い話になって、地元の新聞で取り上げられたところからネットニュースになり、それがバズって話題に。自主出版で増刷されたから、自分たちで全部配送までやっていて、ひたすら大変らしいですよ(笑)。結局、学研さんからちゃんとした出版物の絵本として出すことになって、僕の対談も付録としてつけることになって。そのことをリリースしたら『スッキリ』(日本テレビ系列)と『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系列)で紹介されて、その瞬間にアマゾン総合1位になって大重版が決定して。もう絶対ベストセラーの道、間違いなしじゃないですか。
面白いのが、彼女のお父さんは優秀なコンサルタントで、お母さんも働く女性として町おこしの事業で内閣総理大臣賞をとったりしているので、「両親がすごいから、マーケティングなどもしっかりしていて売れているんだ」と言い出す人なども出てきて。もしそうなら、お父さんの本ももっと売れているだろう!と(笑)。
ビリギャルのさやかちゃんが慶応を目指すって言った時って、誰もがバカじゃないの?って思っていたし、さやかちゃんのお父さんなんて「そもそも大学に行くことすら無理だから、金を出すなんて溝に捨てるようなもんだから絶対出さない」みたいなことを言っていて。学校の先生にも「絶対無理だから、受かったら裸で校庭10周まわってやる」とか言われていましたし。友だちからは「あいつバカだったけど、ついに頭が狂ったらしい」とまで言われて、それでも無視してガリ勉していたら「バカなくせにガリ勉始めた」と、ついたあだ名が「ガリ勉バカ」と呼ばれるようになったとか。
そこまで言われてたんですね……。
坪田:そんな状態だったのに、いざ慶応に受かったら「もともと自頭が良かった」「才能があった」「高校が進学校だった」とか、わけのわからないことを言われるようになって。事実を言うと、その高校で慶応に合格したのは、同学年で彼女だけだったのです。学年ビリだった彼女が1人だけ受かって、それが進学校だというのなら、150人くらい受かっていないとおかしいだろうって話になるわけですよ。でも、結果だけを見ればそうなるじゃないですか。
最高に面白かった後日談があって。お父さんも結局、手のひらを返して「すごいな!」となっていたのですが、あとでご一緒に食事をした際に「先生、ちょっと腹に据えかねることがあって。さやかが通っていた高校が、今入試説明会でなんて言っていると思います?『うちの学校はビリでも慶応に受かるんです』って言っているらしいんです。本当に腹立ちません?」とおっしゃっていて。「お父さん、あなたも人のこと言えないですよ、同じことおっしゃってましたよ」って言っときました(笑)。
(笑)。
坪田:実は今、その学校の進学実績がすごく上がっているようです。とても良いことなのですが、さやかちゃんが受かった翌年、その学校からビリ周辺の子たちの多くが塾に通うようになったのです。これってすごく面白い効果だなと思っていて。つまり、「あの子ができたのなら、自分でもできるんじゃないか」とみんな思ったわけですよ。
それは面白い効果ですね。
坪田:この現象の極みが、2014年に『情熱大陸』(TBS系列)に出演させていただいた時、多くの人が観てくれたのですが、今までの教え子たちからも600件くらい連絡がきて。そのうち500件くらいは「夢ができました」「僕も情熱大陸に出たいと思いました」と。冷静に考えたら、この番組は年間で50回くらい放送されていて、一年に日本人の人口1億2000万人のうちの50人程しか出演できないとなると99.9996%くらい無理なのに、僕の教え子たちがそこに出るのを夢として語るようになるってすごくないですか?(笑) でも、これも、身近な人ができたから、という話なんです。
このことを踏まえると、シンプルに、スポーツ選手を親に持つお子さんがスポーツ選手になりやすいのも、親が無理だと言わないからだと思います。勉強に置き換えると、今成績がすごく悪いお子さんがいて、特に志望校や留学願望もないと言うので、「(志望校)東大とかにする?」と言うと、お母さんは「そんなの無理に決まってる」と言ってしまう。ちなみに、お子さんがハーバード大学に行きたいって言ってきたらどうですか?
今までだったら「絶対無理」と言っていたでしょうし、それこそ、平均を求めちゃってたかもしれません。でも、今回の先生のお話を伺って考え方を学びましたから、ハーバードに行きたいって言われたら、「おーいいね!」って言うようにしようと思います!
坪田:ありがとうございます(笑)。 本当にそれは大事で、親御さんたちに「東大」って言うと絶対無理だってほぼ100%言うんですよ。ただ、ある例外があるのですが。東大は無理だと言うお母さんに、「お母さんは東大卒なのですか? 東大の入試を受けたことあります? 赤本(過去問集)を見たことはあります? 解いたことは?」などと聞いても、「ない」って言うんです。行ったことも、問題を解いたことも見たこともないのに、なぜ明確に「NO」と言えるのか。おかしくないですか? プロとして、少なくとも合格最低点くらいは余裕で取れている僕が「行ける」と言っているのに、なぜ何も見たことがないのにNOと言えるのかと聞くと、「確かに。でも……」って(笑)。
そのような中で、例外はというと?
坪田:「行けるんじゃないんですか」と唯一言えるのが、ご両親またはどちらかが東大卒の方なんですよ。なるほどなって。人間って、未知のものに対する恐怖や偏見がひどすぎるんです。同じように、プロスポーツ選手ならば絶対できるって言うだろうし、本田圭佑選手みたいな人だったら「今才能がないという人だって、ちゃんとやれば世界トップクラスになれるよ」って言うはず。自分が経験した人は言えるんですよ。
なるほど。
坪田:これも実際にあった話で、全然勉強ができない子がいたのですが、結論から言うと、東大の理三、すなわち医学部に合格したんです。もちろんその途中過程は壮絶でしたし、メチャメチャ勉強も大変で、お母さんも最初は無理だと言っていました。ただ、お父さんが東大卒で「いや行ける」と。でも、理三は難しいんじゃ……とは言っていましたが。その後、実際に合格して行くことになったのですが、3年生くらいまでは勉強も日常生活も忙しく過ごしていたので、3年ぶりに地元に帰ったら、お母さんは赤飯を炊いて待っているし、近所の人たちの話題にもなっていて。「あの家の息子さん、東大の医学部に通っているらしいよ」、「でも、あの高校でビリくらいだったみたいよ」、「何言ってるの、お父さんは東大卒でしょう? もともと頭が良かったに決まっているじゃない」みたいな。
これってすごく象徴的な現象だと思うのです。身近にいる人たちは、この子がどれだけ死ぬほど大変な思いをして、東大医学部合格という結果を出したのかをよくわかっているから、血筋だなんて思ったことがないわけですよ、関係ないから。この理屈なら、僕が誰かに輸血したら頭が良くなるとか、本田圭佑選手の血を輸血したらサッカーがうまくなると言っているのと同じじゃないですか。
確かにそうなりますね。
坪田:脳科学の権威の久保田(競)先生によると、「認知能力は遺伝しない」とおっしゃるんですよ。もちろん筋肉や身長などは遺伝するとしても、認知能力などは遺伝しないと。言われてみれば当たり前の話で。これってある意味スピリチュアルな発想というか。結果までの過程を見ていないから、短絡的に見て「それは血に違いない、何かズルをしたに違いない、〇〇に違いない」と言っているだけ。
自分を正当化したいという感じですよね。
坪田:そうそう。なぜなら、それを認めてしまうと「自分は努力不足だ」と言っているようなものだから。それを明確に思わされたのが、ちょうど羽生結弦選手がオリンピックで金メダルを取った時に定食屋にいたら、60代ぐらいの女性2人がテレビを観ていて、「あの子って本当にセンスあるわよね」「そうよねー」って話していて。絶対フィギュアのセンスなんてわかっていないだろうし、スケート靴を履いたこともないだろうって思いながら聞いていて。伊藤みどりさんが言っているのなら、彼女から見てもそうなのか……となりますが、羽生選手に会ったことも見たことも、フィギュアスケートをやったこともないのに、“才能センサー”を持っているかのように言いがち。これって、メチャメチャ上から目線ですよね。下なのに上から目線で物事を言えるのが、「才能がある」という言葉なんだなって。
日本の場合、そのような指導者が多いですよね。「才能がある」というレッテルを貼ることによって、自分自身をごまかすんでしょうね。
坪田:そう。「あいつは才能がある」と言えば自分が上の立場からものを言っているかのようになれるし、教え子がうまくいけば、自分がそれを見出したかのように言えますし。逆に「才能がない」と言えば、自分の指導力がないということを否定できる。なぜなら、自分の指導力の問題ではなく、才能がないからできないということにできる。完全なる保険をかけた上で、自分のマウントをとれる言葉なんですよね。こんなこと書いて大丈夫ですか?(笑)。
でも、日本人ってやっぱり、同じような能力をもった平均的な選手を育てたがりますよね。野球もサッカーも、どのメジャースポーツもそうだと思うのですが。陸上はまた少し違うと思うんですけれど。でもサッカーなんて、本当に同じような選手を育てがちだと思います。
坪田:そうですよね。最低限の基礎体力のようなものは、大事なことだとは思います。でも、(リオネル)メッシとかも全然走らないじゃないですか。メッシが本当に基礎体力があるのかどうかは知らないですけれど、ずば抜けた瞬発力があれば、そのスキルの使いようによってはトップレベルになれるのではないかと。才能というより、個性。日本では、個性を消そうとしますよね。
極論、指導は“フィードバックだけ”でいい
坪田:本当はみんな、言語化できていないコツというのがあるんですよ。それをそれぞれ反復練習で身につけていくんですけれど、コーチがそれを伝えられたらいいですよね。あとは「メタ認知」。自分の身体や位置がどのポジションにあるのかって、自分では見れないじゃないですか。錦織圭選手が通っていた有名なテニススクール(島根県松江市にある『グリーンテニススクール』)がありますよね。あのスクールでは、すべて録画されていて、あとで練習を見返してコーチが指摘できるようになっているんです。究極それだけでいいぐらいなんですよ。例えば、鏡って光速でフィードバックしてくれるのですが、鏡を見て寝ぐせがついていたら直すじゃないですか。でも鏡がないと気づかない。とてもシンプルな話です。要は、フィードバックさえすれば、人って自分の価値観に応じて良くなろうとするんですよ。
また面白いのが、授業中に子どもが屈んだ姿勢で勉強していて、「背筋曲がっているね」と声をかけると、「すみません」と言って正す子もいれば、「ありがとうございます!」って言う子もいるんですよ。あとで後者の子に聞いたら、ちゃんと見てくれているんだって、声をかけられたこと自体がうれしかったと(笑)。そのどちらも、良い悪いではなくて、その子の価値観によっては、説教をされるみたいに捉えられるということ。
わかりやすく言うと、どういうことなのでしょうか?
坪田:この客観的なフィードバックを常にしているのが、お医者さんなんですよ。お医者さんは、「今こういう状態で、この数値が上がっているから薬を飲みましょう」と伝えてくれますが、そういう時に、「暴飲暴食しているでしょ? そんな生活をしているから、このような状態になるんですよ」って説教をされたとしたら、その病院に行きたくなくなりますよね。
そうですね、行くのが憂鬱になりますね。
坪田:実は本当は、客観的なフィードバックだけでいいのです。逆に言えば、みんなそれが自分自身で見えていないからできてないというだけで。
日本一の美容師といわれている山本真由美さんという方がいて、すごくアーティスト気質な人なんですけれど、その人が言っていて「なるほど」と思ったことがあって。サービス業において、お客様へのサービスがどこからスタートするのかというと、出会った瞬間からだとおっしゃっていて。「いらっしゃいませ」のひと言というのは、音速で飛んでいきます。でも、笑顔というのは光だから、光速で飛んでいく。どちらが早いかといったら笑顔のほうがスタートとして早いわけですよ。
その時、山本さんが誰かに「自分の笑顔を見たことある? 汚いわよー」って言っていたんです(笑)。「ちゃんと笑顔を家で練習してる?」って。その方が、していないと答えたら、「プロの音楽家はコンサートの前に必ずリハーサルするじゃない。なぜしないの?」と。続けて、「あなたが思う満面の笑みで写真を撮ってみたら、いかにひきつっているかわかるわよ」とおっしゃっていました。それを聞いて、なるほどなと思って。自分自身がそれを実感したのは、ビリギャルで注目されるようになって写真を撮られる機会が多かった時に、もっと笑顔でって言われるんですよ。「いや、めっちゃ笑顔なんだけど!」みたいな。でもその写真を見ると、確かに不自然で。自分は自分を見れていないからなんだなと実感しました。
スポーツの観点だといかがでしょう?
坪田:スポーツの観点でいうと、ビデオは、自分のイメージしているプレーと映像が違えば、それをチェックして修正するということができるから良いなと。そういう意味だとコーチって、サッカーに例えれば、トラップが浅いor深いとか、もっと足をこうしようとか、選手が思い浮かべている映像と、コーチが指示したイメージと、実際の動きの映像ってそれぞれズレていると思います。コーチは実際の映像を見て指示しているつもりでも、選手にはそのイメージが伝わらないから、心の中で浮かぶ映像がおそらく違うはずなんです。本人が認識している自分の動きも違うから、3重のズレが起きてうまくいかないわけで。そこで、適切なフィードバックを映像でおこなうだけで全然違ってくると思います。自分の身体を思いどおりに動かすことができれば、基本的にはどのスポーツでもいけるようになると思いますね。
<了>
【後編はこちら】トップアスリートになる秘訣は『わらしべ長者』にあり⁉ ビリギャル著者・坪田信貴が教える「才能」の秘密
PROFILE
坪田信貴(つぼた・のぶたか)
処女作『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)がベストセラーとなり、第49回新風賞受賞。これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習法によって、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。教育者でありながら、起業家・経営者としての顔も持つ。テレビ・ラジオ等でも活躍中。新著に『才能の正体』(幻冬舎)がある。坪田塾 塾長。起業家・経営者・作家・教育者。
18歳サター自殺は他人事ではない アスリートの人生狂わす過剰な報道と期待
「親が頑張らないと子どもがかわいそう」の呪縛 子供の重荷にも繋がる“一流”子育て話を考える
部活動も「量から質」の時代へ “社会で生き抜く土台”を作る短時間練習の極意とは?
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