中村憲剛×常田真太郎が語る“コパの見どころ” 観たいのは「ワンプレーで人生が変わるという覚悟」
20年ぶりに日本代表が参加することでも注目のコパ・アメリカ2019が6月14日より開幕。DAZNの独占配信となるこの大会について、日本屈指の司令塔である中村憲剛と、音楽業界屈指のサッカーファンで知られるスキマスイッチ・常田真太郎の対談が実現。プライベートでも家族ぐるみの付き合いだという2人が語る、コパ・アメリカの魅力、そして日本代表の注目点とは?
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介)
コパアメリカを観るにあたっての“プロ目線”のアドバイス
今回はコパ・アメリカとそこに臨む日本代表についてお話を伺えればと思います。よろしくお願いします。
中村&常田:よろしくお願いします。
今日は常田さんから憲剛選手に聞きたいこともまとめてきてくれていると聞いていますが?
常田:なんとなくですけど。どうなのかなという(聞きたい)ところを。
それはどういう感じのテーマですか?常田:観るにあたってのポイントだとか。よく(中村選手と)サッカーの話になるとどこのポイントを見たら面白いかという、なんとなくいつもそう思って聞いているところもあるので。よくLINEとかで「先生お願いします」というのをやってるので。
中村:やってる。ほんとにやってるやつだ、それ(笑)。
それ先生がめちゃくちゃ豪華ですよね(笑)。
常田:そうなんですよ。毎回ちょっとずつ払ってるんですけど。
中村:払ってない! 払ってない! やめてやめて(笑)。
サッカーを言葉にするプロですからね。常田:そうなんですよ。そう思っていろいろと話していると自分の(音楽)分野でも勉強になる。イメージとかなんとなく大体でやっていては良いものが作れない。なんであのときの曲はこうなったのか、どういうふうに受け止めてもらったのかを言語化しないといけない。次につなげるために。そういうのはきっと今の子どもたちも、サッカー始めたばかりの子たちにとっても大事なのかなと思うんですよ。そういうところは毎回聞いて、(中村選手からは)ちゃんと返ってくるんで。
具体的に話せる範囲で、いつもどんな感じのことを聞くんですか? Jリーグを観てても、ヨーロッパサッカーを観てても?常田:そうですね。「あの選手はなんであそこに立っていたんだと思う?」とか。「なんであのときフォーメーションはあそこから変わったんだろう?」とか。自分が思うところをぶつけて。ね?
中村:もう生々しく返しますよ。
互いにサッカーを教わっている存在
今回の対談ですが、そもそも2人がすごく仲が良いってことを知らない人もたくさんいると思うんですよ。(出会いの)きっかけは? 最初は何年くらい前ですか?
中村:2005年ですね。
常田:僕がお世話になってる大先輩がいまして。その先輩のアシスタントの若い子が僕に話しかけてきて、「兄貴がすごくスキマスイッチが好き」だと。「なるほど、うれしいねぇ」と言ってたら、それが中村憲剛で。要は(中村選手の)身内に音楽業界の人がいたっていうつながりなんですけど。そこから時間的に2日後くらい?
中村:(笑)。
常田:じゃあちょっとご飯食べに行こうかという話になって。僕も当時Jリーガーの知り合いは初めてだったので、これはいろいろ聞きたいことがあるなと。
今でこそ、たくさんのサッカー選手とつながっている印象がありますが。
常田:最初は全てここなんですよ。憲剛からの紹介で全部つながっていくんです。2005年に中村憲剛に出会ったのが最初で、「あ! プロのサッカー選手だ!」と思って。で、一緒にご飯食べて、で、ちょっとウイニングイレブンして。
中村:(笑)。
常田:いろいろ話していたら面白いなぁと。やっぱりプロはいろいろ考えてるんだなぁと思いました。
憲剛選手もまさか紹介されてそんなにすぐに会うとは思わなかったですか?
中村:そういうのって社交辞令で延びるわけですよ。大体メシ食えなかったりもするので。それがすぐ行こう、そういうのは先延ばししないからという感じで。
常田:「明日は?」「明日はちょっと」「明後日は?」「行ける」「よし行こう!」という。
中村:マジで! スキマスイッチの常田真太郎とメシ食うのか!という。オレも業界の人と会ったのはシンタ(常田)さんが初めてだったので。緊張しまくりでしたけどね。最初のメシのときは何の話したらいいかわからないし。
常田:ずっと汗かいてたもんね(笑)。
中村:今でこそ笑えますけど。当時は緊張しすぎて笑えなかったですからね、マジで。
それでそこから川崎フロンターレの試合も観に行くようになったんですか?
常田:そうですね。当時3トップでとにかく攻撃的なサッカーをやってたんで「あぁ楽しいなぁ!」と思って。
あの縦の速いところに中村憲剛がボールを出すという。
常田:すごい面白かったですね。
そのときからもう今のように家に行って一緒にサッカー観たりという感じですか?常田:はい。もう家族ぐるみで。ですね?
中村:はい(笑)。
常田:あと一緒に試合を観るのも面白いんですけど、やっぱり出た試合の「どうして?」という話をするととても面白いので。それこそ僕が出した曲も「あれどうしてこのようにしたの?」というふうに聞いてくれるので、お互いにそういうことを。
純粋な質問というか。常田:そうですね。玄人的な感じで聞いてくれないというか、良い意味で。おそらくですけど僕が思うにリリースした曲のリスナーさんの代表的な感じの言葉なのかなと。感想としてダイレクトに聞けるのはすごくうれしいですね。
そう考えると憲剛選手は音楽的な部分では言ってしまえば素人なわけじゃないですか?中村:はい。
逆に言うと常田さんはそこの部分、普通じゃないくらいサッカー詳しいですよね? 思いも強いし。はっきり言って半分素人じゃないみたいな感じになりますよね(笑)。中村:そうですね。もう副業に近いですよね。サッカーの仕事が(笑)。それくらいの知識。ただサッカーの同業者と話すのとはちょっと違うんですよ。観てる角度が少し違うのでオレもすごく刺激になってます。最初の頃はアドバイスというか、オレも駆け出しに近かったので、2005年なんかは。そういう意味ではサッカーを教わっているところも多少はあって……。
常田:やめてやめて。
中村:2人で褒め合ってるみたいな感じでちょっと気持ち悪いんですど(笑)。あとね、スキマスイッチに負けたくないというのは自分の中でちょっとあって。
常田:いやぁ、それはあるなぁ。憲剛にも負けたくない。
中村:いやもうスキマスイッチがバァーといってたから。オレもそこは負けたくないなと。知り合いになって身近になるわけじゃないですか。オレも(フロンターレが)J1に上がった年だったんですごく励みになりました。今でもライバル意識は結構バリバリにあって。ライブとかもよく観に行かしてもらうんですけど、毎回悔しい思いして帰ってますからね(笑)。
けどそこから十数年経って、中村憲剛選手が恐ろしい勢いで追ってきて……。
常田:そうなんですよ。「そこに来ての(Jリーグ)MVPとか取っちゃって、も~!」とかいうのは。ファンとしてはすごくうれしいじゃないですか? でも同時に身近な存在なのでとにかく「いーなー、くそぅ!」っていう。「悔しいなぁ」って。こっちの世界にはMVPというものがないんで。
でもJ1に上がってきてからずっと間近に見てるってめちゃくちゃ贅沢ですよね?
常田:そうですね。本当に一緒に夢を見させてもらってるとこはあります。僕もやっぱり昔はプロサッカー選手になりたいと思った時期もあったんで。子どもの夢でしたけど。そういう意味では全てのJリーガーがそういうことだと思うんですけどね。身近な人たちの夢を背負ってっていう。それは本当に一緒に見させてもらってるなというのはあります。
南米は“人対人”。そしてそれをかいくぐる“個”
では良いコメントももらったところでコパ・アメリカの話へ(笑)。
中村&常田:(笑)。
コパ・アメリカというテーマで“インタビュアー常田真太郎”が考えてきたこと。そこからいきましょうか?
常田:はい。もう単純にざっくり見どころというのは? というのも、ヨーロッパを主流として日本でも放送されてるし、世界的に見てもおそらくそうだと思うんだけど、その中でコパ・アメリカをどう観るかというのはすごく気になってて。特にプロの目から観るのが。
中村:ワールドカップとも違うし、EURO(UEFA欧州選手権)ともまた微妙に違うんですよ。本当はEUROと並列なはずなんですけどね。なんとなく認知度がEUROのほうがすごく(高い)。コパの場合は時間もちょっとずれるんで。
常田:そうね。朝になっちゃうとかね。EUROの歴代の優勝国よりも(コパ・アメリカは)名前が挙がらなかったり。「前回どこが優勝したんだっけ?」とかね。
中村:そういうのも含めみんな関心が薄いのかなというのは正直あって。いろんな理由だとは思うんですけど。はっきり言って大会としてはEUROと双璧であるべきだと思います。そういう意味ではサッカースタイルは全然違うんですけど、見どころはかなりあるなというのは毎回コパを観ながら楽しみにしていて。
常田:それは戦術的な楽しみなのか個の楽しみなのか。
中村:戦術的なトレンドっていうのがあるのかどうかは探しますけど、どちらかというと個の戦いのほうがすごくフォーカスされる。南米自体が“人対人”みたいな大陸なんでしょうね。ヨーロッパは人対人ももちろんありますけど、どちらかというと戦術ベースというか、ユニットベースというところがあるので。そういうところで(南米の)本気度のバチバチ具合が単純に観ていて面白い。1対1のスリルというか。「そこで行くの?」っていうくらい行くので。
常田:それはやっぱりEUROとか(UEFA)チャンピオンズリーグではあまりない?
中村:そうですね。球際の汚さとか、激しさとか、というのは。そしてそれをかいくぐって決める“個”。だからたぶん大陸によって選手の育ち方がすごく変わるんだろうなとすごく感じていて。
常田:そこで目立った“個”がそこからまたチャンピオンズリーグに出るようなチームに取られていくという。
中村:トップ・オブ・トップはヨーロッパが主流だと思うので。市場というか、選手が一番集まるところはヨーロッパ。そこに(選手を)輩出している側の南米のナンバーワンを決める大会。だから新星が結構出ることも多い。「え? こんないい選手がいたの?」っていう。結構平気で出るじゃないですか。そこはすごく面白い。あとはヨーロッパでやってる選手たちが南米に帰ってきてやる大会というのもオレはすごく面白くて。クラブではチームでの決め事や規律を守りながら個を出すという選手たちが、個を全開に出すみたいな。それでオッケーな大会。そういう意味では面白いなと毎大会思っています。
日本代表にとってものすごい経験値になる
常田:そこに日本代表が。今回は来年の(東京)オリンピックにつながるように人選もしてるわけだから。前回参加したのが1999年? そのときとはまったく違った意義としてきっと今回は捉えていると思うんだけど。そこはどうなんですか?
中村:ワールドカップっていろんな大陸が交じってやる大会じゃないですか? だからスタイルみたいなのもごちゃ混ぜに近くなる。ヨーロッパはヨーロッパ、アフリカはアフリカ、アジアはアジア。だけど今回は南米のみの大会だから。個のつばぜり合いがよりフォーカスされる大会。そこに日本が入る。カタールもそうですけど。これがすごく興味深いです。
常田:それは“個”ということですか?
中村:そうですね。もちろん組織がないわけじゃないし、むしろしっかりしている国が大半ですが、そこの1対1の戦いというのはまたワールドカップとは全然別の意味合いがあると思う。
常田:そこに若手中心で臨むという。
中村:ものすごい経験値になるんじゃないかなと思います。
常田:そういう意味では19、20歳の選手たちが多く行くということで、例えば中村憲剛が19、20歳だったら絶対意味があるなって思えるなっていうくらい?
中村:自分だったらどう思っていたかなぁ。
常田:ワールドカップに行くぞって思っている選手はたくさんいると思うんだけど、コパ・アメリカに出たいって思っている選手はそんなにね(笑)。
中村:もともとコパって出れないですからね(笑)。そもそも頭に入ってないわけじゃないですか。
常田:自分が南米で戦うっていうイメージを(メンバー入りが)決まってからするレベル。
中村:今やっとメンバーが決まって、「オレ行くんだ」っていう選手もいただろうし、前々から言われていた選手ももちろんいただろうし。
常田:コパ経由、東京五輪となっているとこで、アジャストって?
中村:簡単じゃないと思いますよ、正直。言ったらお客さん的なところもあると思うんです。招待チームなんで。
常田:ちなみに今、三浦泰年さんが現地に行っていて、ちょっとやり取りをしていて、「どんな感じですか?」と聞いてるんだけど、やっぱりブラジルはものすごい盛り上がってるけど、日本代表についての会話はほぼないと言っていて。
中村:それはまぁ実際そうでしょうね。
常田:そういう意味では日本人として悔しいなと思う部分もある。逆にU-20(日本代表)とか、アンダーのほうが話題になっていて、「日本のアンダー面白いね」みたいに。
中村:けどそれがリアルな評価だと思う。
あと日本って南米が苦手じゃないですか?
中村:はい、そうですね。
ワールドカップでもこの前(2018年ロシア大会のコロンビア戦で)初めて勝ったぐらいで、前回のコパ・アメリカでも勝てなかったわけですし。今回若いメンバーで臨むというとことで、不安はありますよね。
中村:不安は、本人たちにはもちろんあると思いますよ。けどもう行くのも決まっているし、メンバーも決まったので、もうどこかで腹はくくると思います。そこは森保(一・日本代表監督)さんがマネジメントするとは思うんですけど。入りが大事だなと。初戦でまずい戦い方をするとそのままズルズル行きかねない大会でもあると思うので。逆に若い選手からするとこれ以上ないモチベーションだと思うんですよ。ここでしっかり活躍できれば、誰が観てるかわかりませんし。
常田:それはすごく感じていて。東京五輪世代には、そのままコパを経由してヨーロッパのチームにっていうのもあるんじゃないかなって思って。
中村:全然考えられますよね。
注目度はすごく高いと思うので、すごいチャンスと考えられるかどうか。
中村:そうですね。そこがほんとマネジメントというか。みんながバラバラなベクトルを向いてるとまずいと思います。そういう意味では、そこの集まったときの最初の声かけがすごく大事になってくる。ここできゅっと同じ方向をみんなが向けるかどうか。それぞれ立ち位置や年齢もさまざまですし、そういう中でどう向かっていくか。やっぱり足並みが揃わないとチームがバラバラになっちゃう。即席に近いところはあるので。
常田:即席だからというところで“個”は大事にされるかもしれない?
中村:逆に生きるかもしれない。
常田:なるほどね。こないだ宮市(亮)くんと話しているときに「若手で日本と海外で何が違うの?」と聞いたら、「一番違うのは、このワンプレーで自分の人生が変わるという覚悟」って。そこがヨーロッパではすごいみたいで。今回のコパも(そういうプレーが)観たいと思って。けど例えばそれはJリーグでもあると思うんだよね。
中村:それはもちろん。
常田:そのたった1つのプレーに対しての責任感がやっぱりヨーロッパはすごいという話が印象的で。宮市くんもそういうふうに思ってるみたいだし。たぶんコパの場合でも、例えば有名国じゃない代表の国内組も思ってるだろうなと。「ヨーロッパに行きたい!」という気持ちとして。それはそこに若手中心で臨める日本はすごく面白そうだなぁと。他の国同士の戦いももちろんそうだけど。
<了>
第2回 「“背負う”アウヴェスと“王様すぎない”メッシ」に期待 中村憲剛×常田真太郎、“コパ ・アメリカ”対談
第3回 久保建英は“もう完成されている” 中村憲剛×常田真太郎 “コパ” 注目は「チリ戦最初の5分」
PROFILE
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年生まれ、東京都出身。川崎フロンターレ所属。ポジションはミッドフィルダー。久留米高校、中央大学を経て、2003年に川崎フロンターレに入団。2006年から5年連続でJリーグベストイレブン受賞。2006年に日本代表にも選出され、2010年ワールドカップに出場。2016年にJ1史上最年長のMVPを獲得。2017年、2018年のJリーグ2連覇に中心選手として貢献。
PROFILE
常田真太郎(ときた・しんたろう)
1978年生まれ、愛知県出身。1999年に大橋卓弥とスキマスイッチを結成。スキマスイッチのピアノやオルガンなどの演奏の他、アレンジやプロデュースなどを担当している。並行して自身のレーベル“doppietta”での活動や他のアーティストの楽曲アレンジ、プロデュースなども行なっている。
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