
なぜコンパニ、シャビ・アロンソは監督として成功できたのか? 「元名選手だから」だけではない名将への道を歩む条件
佳境を迎えている今季のドイツ・ブンデスリーガ。首位バイエルンは、残り4試合で2位レバークーゼンと8ポイント差。そんな2シーズンぶりの覇権奪還を目前に控えたバイエルンを率いるヴァンサン・コンパニと、昨季ブンデスリーガ初の無敗優勝を成し遂げたシャビ・アロンソと、2年連続で新進気鋭の若き指揮官が結果を残している。では彼らは単に名選手であったからこれだけ早く成功にたどり着けたのだろうか?
(文=中野吉之伴、写真=ロイター/アフロ)
コンパニとシャビ・アロンソ成功の背景
ブンデスリーガでは2024年5月にバイエルン監督に就任したばかりのヴァンサン・コンパニが、さらに2022年10月にシーズン途中でレバークーゼン監督となったシャビ・アロンソが、将来有望な若手監督として名門クラブに抜擢されただけではなく、確かな結果を出したことで世間を驚かせている。昨季のレバークーゼンはリーグとカップ戦を制し、UEFAヨーロッパリーグでも決勝に進出。バイエルンも今シーズン4節を残し、ほぼリーグ優勝を手中に収めたといっても過言ではない。
監督就任時38歳のコンパニと、当時41歳のシャビ・アロンソ。監督としての経験がまだ豊富ではない彼らがこれだけ短い期間でチームにフィットし、成功を果たした背景にはどんな要因があるのだろう?
両者とも選手時代のキャリアに申し分がないのは誰もが認めるところだが、指導者としてはまだ新参者。ブンデスリーガやUEFAチャンピオンズリーグで優勝を争うようなクラブでの指導経験は皆無だっただけに、懐疑的な見解を口にする識者も少なくはなかった。
ではなぜレバークーゼンやバイエルンはそれでも彼らの獲得に動いたのか。
欧州サッカーに精通するモラス雅輝(オーストリア2部ザンクトペルテンテクニカルダイレクター/育成ダイレクター/U18監督)が、過去にさまざまな常識を壊すチャレンジがあった背景について話してくれた。
「一昔前になりますが、ドイツだとクリストフ・ダウムやラルフ・ラングニック、フォルカー・フィンケといった指導者が、それまでになかったマネジメントや戦術を持ち込んで革命を起こしてきました。スポーツ科学へのアプローチを積極的に行い、年間の練習プランニングでビリオダイゼーションを初めて取り入れたのもダウムでした。元プロ選手としての実績がない彼らでしたが、それでも彼らを指揮官に据えたのは、指導力やコミュニケーション能力がいかに大切かをわかっている上層部の決断が光るところですね」
他にもマインツでユルゲン・クロップやトーマス・トゥヘルが頭角を現し、ホッフェンハイムではユリアン・ナーゲルスマンが相当に早い段階からその指導者としての資質に最大級の評価がなされた。プロクラブで成功する監督としてどんな能力を持っていなければならないかという明確な下地をブンデスリーガのクラブは持ち合わせている。元プロ選手であってもそこがなければリストアップもされない。
なぜ優れた指揮官であるはずのマルコ・ローゼは解任された?
もちろんクラブ規模の大きさで監督に求められることは変わってくる。小・中規模クラブだとより地域密着を感じられ、地元クラブの伝統と同じアイデンティティを持てる人が監督として愛されるし、ビッククラブになればなるほど、クラブ哲学をピッチで体現するのはもちろん、チームに関わる人数が増えてさまざまな軋轢(あつれき)が生まれる中、それをうまくコントロールしながら、チームを勝利へ導く手腕が求められる。モラスは先月RBライプツィヒを解任された指揮官マルコ・ローゼを例に挙げて解説する。
「ライプツィヒではローゼが解任されました。現場での指導能力は非常に高く、選手やコーチングスタッフからは厚く信頼されている監督であるにもかかわらず、結果が思うように出ないとパッと解任されてしまう。コンパニはそのあたりのマネジメントがとてもうまい。この間、バイエルンのコーチの代理人とご飯を食べたんですよ。コンパニ体制の話もいろいろ聞けたのですが、スタッフ、監督、上層部との関係性ですべてのコミュニケーションがとてもうまくいっていると。そうしたクラブ全体の雰囲気がいいことは選手にもすぐ伝わる。だから日常のトレーニングでもいい雰囲気の中でスタートできる。
コンパニはコミュニケーションとマネジメント能力、バランス感覚が非常に高い。バイエルンほどのビッククラブになるとスタッフは全部で40人近くにもなる。気をつけないとすぐにグループができちゃったりするんですけど、そこを丁寧にうまくマネジメントして、みんなが同じ方向を向き、常にチーム全体のモチベーションを上げている。そこがやっぱり成功している一番のポイントだと思うんです」
コンパニはトゥヘルやナーゲルスマン、あるいはロベルト・デ・ゼルビのようにそれまで見たことのない戦術を取り入れる革命家ではないかもしれない。だが、バイエルンのように大きなクラブでは、さまざまな人が絡み、そこにはポジティブなだけではなく、ネガティブな感情もうねりだす。それぞれが力を発揮できる土台作りをする能力がなければ、どんな理論も役には立たないのだ。
「そうなんです。例えば、かつてバイエルンを指揮したオットマー・ヒッツフェルトはそうした人を導く能力が極めて高い人でした。トルステン・フィンク、カルステン・ヤンカー、アレクサンダー・ツィックラーといった彼のもとでプレーした選手から話を聞くと、一人一人とコミュニケーションをとる能力、そしてそれぞれに対するマネジメント能力は本当に素晴らしかったと絶賛しています。ユップ・ハインケスやカルロ・アンチェロッティも似たタイプだと思います。僕もいろんなクラブでさまざまな経験をしてきましたけれど、やっぱり選手だけを見ている監督はダメですよね。2019シーズンにヴィッセル神戸に天皇杯優勝というクラブ史上初タイトルをもたらしたフィンクもそういったマネジメント面で素晴らしい仕事をタイプの監督だと思います」
「元プロ選手だから、ノンプロ選手だから」ではなく…
シャビ・アロンソに関してはドイツ人スポーツ心理学士のローター・リンツが興味深い話をしていた。ドイツのオリンピック強化指定選手のサポートをはじめ、ドイツサッカー連盟でも指導者育成や選手育成に長く関わっている第一人者は、資質を生かした取り組みの重要性を指摘していた。
「ブンデスリーガでレバークーゼンを昨季リーグ優勝に導いたことからもわかりますが、シャビ・アロンソは疑いの余地なく超一流の指導者です。ただ彼のようなカリスマ性や他人との円滑な関わり方を自然と持ち合わせている人は極めて少なく、そのため彼のプロセスは誰もがまねできるものではありません。その上で、彼にもその資質を生かすための指導者としての学びや経験が必要で、レアル・マドリードU-14やレアル・ソシエダBでの監督経験でその点において真剣に取り組んだからこそいまの仕事ぶりが生まれています」
人心掌握に関するアプローチやマネジメント能力には先見的なものもあるだろう。生まれついてのリーダー気質というのもある。キャプテンとして選手時代に培った経験は間違いなくプラスになる。それでも指導者としての“それ”はまた別だ。モラスがその点を補足する。
「シャビ・アロンソに関しては、レバークーゼンに来る前にソシエダのセカンドチームで監督をやっている。チームを3部から2部に上げ、再び3部降格を経験している。こういうところがすごく重要だと思うんですよね。コンパニもアンデルレヒトとバーンビーで監督をやって、昇格して、降格してと、いい時も良くない時も経験をしているのが素晴らしいと思います。監督として必要な経験は、実際に監督をすることでしか身につかない。いい経験もあれば苦い経験もあって、いろんなことを学べる。
例えばどのコーチにどの仕事を与えて、そのコーチが輝ける場をどこまで生み出せるかという配慮やコントロールもすごく大事なんですよね。選手たちが『コーチもちゃんと認められている存在なんだ』と感じ取ってくれるようなマネジメントをやらないといけない。みんなが監督の方向だけを見てしまって、コーチの言うことをあんまり聞いてくれないみたいな雰囲気になるとよくない。そうならないためのマネジメントも、やっぱり現場に立ってさまざまな経験をしないと身にはつかないんです」
生まれ持ったカリスマ性も元プロサッカー選手としての経験も持ち合わせた監督が、自身の能力を誇示するだけで、コーチやスタッフをないがしろにしていてはチームの歯車はなかなかうまく噛み合わない。こと指導者に関しては、「元プロ選手だから、ノンプロ選手だから」ではなく、どのように自分の特長と長所を生かし、足りない部分を補うためにどんな経験を積み重ねてきたかが重要となる。指導者ライセンス所得や言語能力はあくまでもスタート地点。ひたむきな努力や的確な取り組みを経ていなければ、監督として現場に立ち続けること以前に、クラブから声がかかることもない。あらゆる資質に恵まれたコンパニやシャビ・アロンソが日々の取り組みをどれほど大切にして、たゆまぬ研鑽を重ねているか。そこから学ぶべきことはたくさんあるのではないだろうか。
【連載前編】日本人監督が欧州トップリーグで指揮する日はくるのか? 長谷部誠が第二のコンパニとなるため必要な条件
<了>
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