広島、覇権奪還のキーマンは誰だ?②打撃編 自己最低の昨季から逆襲誓う新選手会長

Opinion
2020.02.22

キャンプも終盤を迎え、少しずつだが目指すラインナップが見え始めてきた広島カープの攻撃陣。2016~18年に3連覇を成し遂げた第2次黄金期の象徴はは自慢の打線だっただけに、覇権奪還に向けた攻撃陣の再構築は必要不可欠となってくるだろう。
ペナント奪還のキーマンを全3回にわたって探る連載の第2回では、その攻撃のカギと握るのは誰なのかを探ってみたい。

(文=小林雄二、写真=Getty Images)

打撃陣の充実ぶりは、“3連覇”時代にも張り合える?

キャンプも終盤に入り、練習試合はオープン戦など実戦が多くなったきた。目立つのが、打線の活発さだ。なかでも鈴木誠也はキャンプイン当初から快音を響かせ、「三冠王の期待すらできる仕上がりのよさ」(里崎智也氏)で、打線の中核を担う主砲に対する心配はもはやケガしかない。

昨季苦労した鈴木誠也の前後を打つ打者、ここも大きなキーになり得るポイントなのだが、このままいけば3番にすっぽりハマりそうなのが西川龍馬だ。

西川は昨年初めて規定打席に到達。わずかに3割には満たなかった(打率.297/リーグ6位)ものの、球団歴代2位の27試合連続安打をはじめ、球団新記録の月間4本の初回先頭打者本塁打、8月には球団タイ記録となる月間42安打を放つなど、かねてより定評のあった打撃が本格的に開花の気配で、球団OBからも「外野は誠也と西川の2枠は決まり」との声も多い。本人は「3番はまだ早い。丸(佳浩)さんのイメージが強い」と言うものの、キャンプ中盤に行われた対外試合ではさっそく2試合連続本塁打を放つなど、オフのトレーニングでパワーアップした打撃は、技術的には3番の前任者の背中を完全に捉えているといっていい状態だ。

5番候補・松山竜平が出遅れても、評価上々の2人がいる

誠也の後ろの5番には松山竜平の名が挙がる。昨年の松山は同じ役割を期待されながら、春先から絶不調。シーズンに入ってからも状態が上がらないところに2度の頭部死球の影響などもあって、“普通の松山”に戻り始めたのはペナントの行方も決まりかけた時期。それだけに今季にかける意気込みも強かったのだろう。オフには「長打力」をテーマに徹底した振りこみを行い、キャンプでは見違えるほどのスイングスピードを披露。このままいけば、こちらも順当に5番枠に収まりそうな状況だ……ったのだが、実はこの原稿を書き始めた矢先に腰痛が発覚してしまった。

ところが今季の広島は昨年とはちょっと様子が違う。松山が出遅れる、それをチャンスと捉えられる人材が左右に1枚ずついるのだ。一人は堂林翔太。鯉のプリンスも今季ではや11年目。背水の陣となる今シーズンに向け、オフには後輩の鈴木誠也に弟子入りし、キャンプから実戦形式に移行している今まで好調をキープ。どっしり感と力強さを身に付けた今季は首脳陣の評価も上々だ。

左の1枚は安部友裕。こちらは背番号6の前任者である梵英心氏がキャンプでの安部の打撃を絶賛。今季の打線のキーマンに挙げるほど状態は良。仮に松山が開幕に間に合わないにしても、堂林と安部の2人がこのままいけば……の期待は持てそうな雰囲気がある。

5番の後ろには新外国人のホセ・ピレラか長野久義か。ピレラは現在のところ、中距離打者タイプに見えるが、強く振ったときの打球には目を見張るものがあり、昨季不完全燃焼に終わった移籍2年目の長野も昨年の同時期と比べものにならないほどの身体のキレをみせている。さらには昨シーズンの得点圏打率リーグトップの會澤翼も打球の強さは昨年以上で、彼らが5番の後を打てば昨年より打線は厚くなる。3連覇中の“メンツ”にも十二分に張り合えるラインナップが組めそうだ。

“1番”の特筆すべき出塁率の高さが、3連覇時の得点力を生み出した

となると、問題は打線“最上位”の1・2番ということになるが、1番は順当であれば田中広輔か。そして、ズバリこの人が打線のキーマンになると考える。

ご存じの通り、昨季の田中は97試合の出場で打率は.193、3本塁打、27打点。その数字はいずれも自己最低。8月末には不振の大きな要因であった右膝を手術。この間、高卒ルーキーの小園海斗にポジションを奪われる格好になり、今季もその小園との一騎打ちを佐々岡真司監督から言い渡されているのだが、ここであっさりと小園にポジションを明け渡すようでは田中広輔の名がすたる。

2016年から3年連続フルイニング出場、圧倒的な攻撃力を誇った第2赤ヘル黄金期のトップバッターであり、正遊撃手である田中の特筆は1番打者として求められる出塁率の高さにあった。2016年は打率.265に対して出塁率は.367、17年は打率.290で出塁率はリーグトップの.398、そして18年は打率.262で出塁率.362と、いずれも「打率+1割超」の出塁率を記録し、“キクマル誠也”につなげたことで高い得点力を生み出した。

さらに盗塁数は2016年に28盗塁(リーグ2位)、17年は35盗塁で自身初となる盗塁王のタイトルを獲得、18年も2年連続で30超えの32盗塁(同2位)。くわえて四球の数も2016年が77(同5位)、17年が89(同3位)、18年が75(同7位)。これほどの打者が1番に座っているのだから、得点力が高くなるのも当然のこと。

年齢的にも今年で31歳と、老け込むには早すぎるどころか、野球人としては脂の乗りきる“年頃”だ。肝心の右膝の状態だが、キャンプ初日からフルメニューをこなし、守備でも軽快な動きを披露。田中の言葉を借りれば、「(膝の)軟骨にまったく影響(傷)がなかったから、回復が早かった」ようで、打撃に関しても「今のところ」という前置きはあるものの「(違和感は)ない」という。言葉通り、実戦でも下半身に力の入った打撃でバットも強い音を響かせているから、見通しは良好だ。

「広輔が変わらないと優勝できない」新選手会長への就任

しいて田中の懸念材料があるとすればメンタル面か。

自身のモチベーションの一つであったであろう連続フルイニングおよび連続試合出場はいずれも途切れ、小園という「将来チームを引っ張っていく選手になれる器」(佐々岡監督)も、今まさに伸び盛りで高い注目を浴びている。そういったシチュエーションから世代交代的なムードが漂えば、無意識のうちに田中のモチベーションも低下する……という図式になっても不思議ではないのだが、その田中を奮い立たすに十分な役割を果たしているのが「選手会長」への就任だ。

そもそも手術明けの選手が同職に就くのは異例のこと。一部スポーツ紙が「サプライズ人事」と表現したのもそのためで、チーム内にも他の選手を推す声も多かったという。そんな状況に“決着”をつけたのが前選手会長の會澤翼の一言だ。

「広輔が変わらないと、このチームは優勝できない」

こうまで言われた選手が意気に感じないのであれは、それこそレギュラー奪還などままならない。

「“1番・遊撃”で優勝を経験したし、やりがいも一番分かっている」という田中の発言は、選手会長というより一選手としての所信表明であろうが、田中が“そこ”を取り戻せれば、広島打線は間違いなく安定する。

田中広輔が「もう一度、二人でチームを引っ張りたい」と口にする相棒

その田中が「もう一度、二人でチームを引っ張っていきたい」というのが攻守の相棒・菊池涼介だ。

守備面……はいわずもがなだが、打撃面においても小技のうまさはNPB屈指。その代表的な指標の一つである犠打数は2013年に初めてリーグ1位を記録すると、1年おいて15年からは5年連続リーグ1位。2016年には最多安打と最多犠打を記録するという離れ業を演じているのだから、まさに、“日本の2番打者像”を体現できる選手なのだ。

あえて心配な部分をいえば、プルヒッティング(引っ張り)が大好きなところか。そもそも右打ちをさせてもお見事すぎる技術を持ちながらも、“引っ張りたい”という欲望が右への意識を上回ると、バットが遠くから出てしまう悪癖が顔を出す。ここ数年の菊池らしからぬ打率は、そこと直結しているといっていい。

今年はどうか。

「チームのためになにかしたいという思いが強い」という本人の言葉通りに中堅から右方向への打球が増えれば増えるほどいいのだが、「(今年は)誠也の前を打つ僕だったり広輔だったりが、重要なピースになります」と、自らキーマン宣言しているあたり、自覚は十分のようだ。そしてその言葉通り、第2期黄金期・最強の1・2番コンビが本来のらしさを発揮すれば、今季の広島打線は、再び他球団の脅威となるだろう。

<了>

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