水谷・丹羽以来の快挙! 全日本2冠王者、20歳・戸上隼輔を覚醒させた“5人”の存在[卓球]

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2022.02.03

卓球の日本一を決める、全日本選手権。2022年の男子シングルス王者に輝いたのは、20歳の戸上隼輔だ。宇田幸矢とのダブルスでも優勝を果たし、2冠達成。2003年から20年間で単複2冠を奪取したのは水谷隼と丹羽孝希のみだ。超速スイングから放たれる両ハンドで相手をなぎ倒し、初挑戦の世界選手権で銅メダル、アジア選手権では2つの金メダルを獲得した男は、世界ランキングも75位(2月1日時点)と急上昇し、さらなる大躍進が期待される。日本卓球界の新星は、なぜ覚醒できたのか? その陰には、戸上のキャリアに大きな影響を与えた5人の存在があった――。

(文=辰井裕紀、写真=Getty Images)

水谷・丹羽以来の全日本2冠王者、超攻撃的スタイルの土台をつくった存在

2001年に三重県津市で生まれ、3歳から卓球を始めた戸上隼輔。父親はインターハイダブルス王者の経験を持つが、なぜかまったく隼輔と卓球をせず、教えるのはもっぱら母親だった。

母の厳しい練習で毎日のように泣いていたが、卓球を嫌いにはならなかった。父譲りの才能はメキメキと育ち、2008年の全日本選手権バンビの部3位をもって開花。その後、同ホープスの部で準優勝にも輝くが、中学は地元の公立に入り伸び悩む。

そこで中学を転校。今の戸上を形づくったのが野田学園中学・高校だ。名将・橋津文彦監督が指導する超攻撃スタイルで、戸上の攻める卓球がさらに研ぎ澄まされる。インターハイを2連覇し、全日本ジュニアを優勝するなど、世代トップクラスの実力を身に付けた。

そして明治大学に進学。アジア選手権の混合ダブルスでは早田ひなと、男子ダブルスでは宇田幸矢と組んでともに金メダル、シングルスも銅を獲得。世界選手権でも宇田とのダブルスで銅メダルを取り、全日本選手権ではシングルスとダブルスで2冠を達成した。

そんな戸上の強さとは――。

まずは、速いスイングスピードでボールに猛烈な勢いを伝える両ハンドドライブだ。それは相手選手が「見えない」と語るほど。

もともとフォアの強打には定評があるが、最近はバックハンドも進化。特にストレート攻撃は、全日本5度優勝の平野早矢香氏も「世界に通用する質の高さ」と話す。現代卓球の代表的技術である、チキータの弾道も鋭い。

さらにはネットミスを誘う強い下回転サービスと、オーバーミスを狙うナックル性サービスは、どっちを出しているのか分かりづらいモーションから出す。相手はレシーブミスがポロポロと出てしまう、必殺サービスだ。

「ずっと背中を見ていた」。戸上が追い続け、互いを高め合う同世代の存在

 戸上には、実力を伸ばすための「劇薬」となったライバルがいた。同じ2001年8月生まれの宇田幸矢だ。

宇田が「戸上と共に同世代を引っ張ってきた」と語る中で、戸上の認識は「ずっと宇田の背中を見ていた」。

高校時代まで、宇田は常に戸上の一歩先を走ってきた。2009年全日本選手権バンビの部で宇田が優勝、戸上が準優勝となってから、2018年の世界ジュニア選手権準優勝まで。もっぱら宇田の戦績が戸上を上回ってきた。

戸上は「追い越したいという思いで頑張った」。その反転攻勢を見られたのが2019年の全日本ジュニアだ。決勝戦で戸上と宇田が激突し、2ゲーム終了時点でゲームカウント0-2。だが「振り切れ」との野田学園・橋津監督の激励に応え、豪打で押した戸上が逆転優勝を飾ったのだ。

2年前は、全日本王者になった宇田幸矢にまた突き放される。しかし2年後、今度は戸上が全日本王者に。その他、最近の戦績では、戸上が宇田を上回ろうとしている。今度は宇田が負けん気を出してくる番だろう。

抜きつ抜かれつのライバル関係は、ダブルスを結成してからパートナーとして発展する。2019年はアジアジュニア選手権優勝。2021年にはアジア選手権で金メダル、世界選手権では銅メダルに輝いた。

そして互いに明治大学へ進学し、お互いの技術も教え合って高め合う仲だ。全日本選手権優勝後のインタビューでも、張本とともに宇田の名前を挙げている。

「絶望的」。初めて挑んだ世界選手権で立ちはだかった巨大な存在

戸上にとって躍進の年になった2021年。Tリーグでは琉球アスティーダの優勝に貢献し、アジア選手権で金を含む複数メダルを獲得した。

迎えた世界選手権。シングルス初戦敗退が続出する中、唯一の3回戦進出を果たしたのが戸上だった。しかし、その前に立ちはだかったのが中国の王楚欽だ。年齢は戸上より1つ上、21歳のサウスポー。

さながら中国最強者決定戦のような様相を呈していた今年1月のWTTマカオでは、オリンピックシングルス2連覇中の馬龍やオリンピック代表の許昕をも下し優勝するほどの選手だ。

この試合、戸上はバックへのロングサービスでレシーブを封じられ、さらにバックドライブで畳み掛けられてストレート負けを喫した。

「悔しいし絶望的。今以上に2倍、3倍の努力をしないと埋められない」と、敗戦後に語った戸上。そして2022年全日本卓球選手権。「優勝を目標に2倍、3倍努力してきたので、今回見てもらいたい」と、有言実行の卓球を見せた。

猛烈な下回転のかかったサービスで何度もネットミスを誘い、パワーボールで相手のディフェンスに風穴を開けた。機を見ての剛球チキータに加え、ストップでも相手の待ちを外させる。そして優勝を決めた最後の1点は、ブロックのうまい松平健太をすさまじい連続攻撃で突き破った。

全日本優勝で、すでに今年の世界選手権の出場権も獲得した戸上。狙うは中国のトップへと上り詰めようとしている王楚欽からの初勝利だ。

「金メダルの取り方を見せた」。日本初の五輪金メダリストの存在

戸上がターニングポイントと語るのが2019年2月のTリーグ、水谷隼戦だ。今や東京五輪・混合ダブルス金メダリストとなった“キング”に最終ゲーム14-12の僅差で勝利。「あの試合に勝って人生が変わった」と語るほどの大きな自信を得た。

その後の1年は大躍進。クロアチアオープンのダブルス優勝に始まり、世界ジュニアと全日本選手権では3位まで食い込んだ。

そんな戸上は、水谷にとって明治大学の後輩であり、若手で最も評価する選手の一人。くしくも「隼」の字を名前に持つ12歳年下の戸上に対し、こう太鼓判を押す。

「東京五輪で一番、一緒に練習したのが戸上。混合ダブルス決勝の前も一緒に練習して、チャンピオンになる前の僕の姿を見ている。こうしたら金メダルが取れると、じかに彼へ見せられた」

一線を退いた水谷に対しては「1つ枠が空いたとプラスに捉えています」と戸上流のエールを送り、「日本を背負う覚悟を持っている」と水谷の穴を埋める心意気だ。

母親、橋津監督、宇田幸矢、王楚欽、そして水谷隼が強くした戸上隼輔。

全日本の優勝後、新日本プロレスファンの戸上はエース棚橋弘至の決めゼリフのままに「僕も“100年に1人の逸材”戸上隼輔です」と語った。

日本で卓球がスタートしたのは1902年とされる。100年、いや120年分の歴史を背負って、戸上隼輔の豪打がパリ五輪へと突き抜ける。

<了>

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