名門クラブの「セカンドチーム」という幻想。欧州サッカー、成功の登竜門ではない“U23の壁”の現実
欧州でプレーする若手選手にとって、セカンドチーム(U23)は希望の場所なのか、それとも足踏みの舞台なのか。セカンドチームに限らず、6部から一気にトップクラブへ駆け上がる成功例がある一方で、多くの選手が「結果を出しても上がれない」現実に直面している。具体的な事例とクラブ関係者の言葉を通して、セカンドチームの本当の役割を検証する。
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
6部からCLへ。確かに存在する“奇跡のステップアップ”
サッカー界にはいつも誰もが驚くステップアップストーリーがある。ヨーロッパサッカー界のスカウトネットワークは各地に広がっており、4部でも5部でも無視できないほど優れたプレーと圧倒的な結果を残せば、その実力に見合ったオファーは間違いなく届く。
今冬フランクフルトは負傷離脱しているドイツ代表FWヨナタン・ブルカルトの代役にユネス・エプヌタリプを獲得したが、昨季はまだ4部リーグのギーセンでプレーする選手だった。4部で得点を量産しただけではなく、相手DFがその動きを止めることができないほどの強靭かつしなやかなフィジカルを有するパフォーマンスが評価され、半年後には2部エルフェアスベルクへ移籍。今季17試合で12得点の活躍を見せたことで、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)に参戦する強豪クラブへの移籍が決まった。
あるいは、今季マインツでデビューを果たしたFWファビオ・モレノの例はさらにセンセーショナルだ。
2024-25シーズンに6部クラブのガウ・オデルンハイムでシーズン50ゴールという特大の活躍で注目を集め、4部でプレーするU23への補強選手としてマインツへ迎え入れられた。2つ上のリーグでも第3節からスタメンのポジションを確保したモレノは、トップチームの練習にも招待されるようになる。
ボー・ヘンリクソン監督が更迭され、暫定で指揮を執ったU23監督ベンニ・ホフマンは第13節ボルシアMG戦でモレノをスタメン起用。さらにミュンヘンでの第14節バイエルン戦でもメンバー入りを果たした。2025年5月まで6部でプレーしていた選手が、アリアンツアレーナのトンネルで世界的スターのハリー・ケインやヨシュア・キミッヒ、マイケル・オリーセらと同じ空間にいる。おとぎ話にしか聞こえないが、これは実話なのだ。
極端な例ではあるが、こうした実例があるから、選手なら誰だって夢を見る。夢を見ることは力になる。もちろん、夢を持つことと、移籍判断を夢だけで決めることは別だ。その上で、キャリアプランが現実的過ぎるとコンフォートゾーンから抜け出せず、なかなか右肩上がりの成長曲線を描くステップアップは実現できない。
「選手育成よりチームの都合」選手とクラブの認識のズレ
選手は経験を積んで、ポテンシャルを引き出す機会をつかんでステップアップをと願っていても、クラブサイドは「何よりもチームの結果」を重要視していたらそこで認識にズレが生じる。そしてそうした話は現実としてかなり多い。
「まずコンスタントにプレーをして、同国内で注目を集めることができなければ、ステップアップは生まれません。トップチームに上がれるチャンスがあるからといって有名クラブのセカンドチームへ行くのが、必ずしも次につながるわけではない事実を知ることも大切です。実際にトップチームへ上がった選手の比率やどんな選手が昇格を果たしたのかはしっかりと調べて判断したほうがいいと思います。
そもそも移籍するタイミングや移籍先のスタイルや思考をちゃんと考えての移籍なのか。移籍先がステップアップしやすいリーグなのか、クラブなのかというのもその後に大きく関わってきます」
これはオーストリア2部ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U18監督を兼任するモラス雅輝の言葉だ。日欧サッカー事情に精通する彼の指摘は、非常にポイントをとらえている。
自前のセカンドチームに一人でも多く優秀な若手選手が欲しいのは、どのクラブも同じだ。ただ、獲得した選手がトップチームで活躍できるようになるまでに要する時間や労力、そして回収率によるコストパフォーマンスは、極めてシビアに判断される。
なぜ出番は回ってこないのか? 佐藤恵允と福田師王のケース
現在FC東京でプレーをするFW佐藤恵允は2023-24シーズンにブンデスリーガのブレーメンへ移籍。セカンドチームのU23で経験を積み、5部優勝で4部昇格を果たし、U-23日本代表としてパリ五輪でも活躍をした。しかしブレーメンのトップチームでは何度かベンチ入りをしながらも、出場機会は得られなかった。当時クレメンス・フリッツSDがこう話していたのが気になる。
「チームのためにとても戦える選手。プロチームへのステップを果たせると信じている。ただ、一歩一歩進まなければ。まずは4部リーグでその実力を証明しなければならない」
同様のコメントはおそらくセカンドチームに所属するほぼすべての選手に対して口にする表現だろう。獲得時点でトップチームで戦力として活躍できるだけの資質がある選手だと考えているのであれば、もう少し早く、積極的にトップ起用へ動くはずだ。
ブンデスリーガ4部のボルシアMGのU23で経験を積み、結果を残していた福田師王(現在は2部カールスルーエへレンタル移籍中)の例も似ている。トップチームメンバー入りを果たし、ゴールも決めた。それでも継続的に出場機会が増えなかった。
ブンデスリーガ1部でコンスタントにプレーするためには、オフザボールでの連続性あるプレー、守備戦術での秩序立った取り組み、190センチ・90キロ級の選手相手に競り合っても負けないフィジカルがないと、信頼を勝ち取るのは難しい。あるいはそうしたことに目を瞑ってでも起用したいと思わせるだけの特別な何かがあるか。大学4年時に海を渡った佐藤にしても、高卒の福田にしても、その点でまだ成長過程な部分もあり、限られた期間の中で首脳陣の信頼を継続的な起用につなげるには至らなかった。
佐藤のいたブレーメンで、今季トップチームで出場した下部組織育ちの選手となると、今季正GKとなった2004年生まれ(21歳)の長田澪(ミオ・バックハウス)とFWケケ・トップのセカンドチーム上がりの2人と、2007年生まれ(18歳)のDFカリム・クリバリとMFパトリツェ・チョビッチのユース上がりの2人の4人しかいない。それほど狭き門なのだ。
CL出場クラブのU23という過酷な現実――フランクフルトの例
高校生Jリーガー・神代慶人が今年移籍したフランクフルトではさらに厳しい現実がある。
獲得時に「まずはセカンドチームでプレー」とリリースには書かれていたが、フランクフルト育成出身全選手で今季トップチームで出場を果たしたのは2005年生まれ(20歳)のエリアス・バウムただ一人。当然CL出場クラブでは、選手育成より即戦力が優先される。求められるクオリティはさらに数段階アップする。
現在フランクフルトU23が所属しているのは5部リーグ。経験を積む場所としてそこからCL出場権を争うブンデスリーガ1部のトップチームまでの距離は、あまりに遠すぎる。U23選手を育てるよりも、資質がある若手選手を外から獲得できるならそちらへ動くことは大いに考えられる。
神代は加入後トップチームで練習に参加している点はクラブからの評価の高さを感じさせる。「いずれトップチームで」という期待がかけられていることもわかる。だが、プレーする舞台が上であればあるほど、成長を待ってはくれないのもまた事実だ。
前述のバウム、そして今季はまだ出場機会はないものの在籍12年目のベテランDFティモシー・チャンドラーもフランクフルトのセカンドチーム出身だ。冒頭のエプヌタリプのようなステップアップもある。あるいは日本人選手でも、一度はフランクフルトで構想外となり、レンタル移籍したベルギー1部シントトロイデンでゴールを量産し、その後フランクフルトに帰還して主力選手にまで成長した鎌田大地という例もある。ただそういった成功例も確率的には決して高くはない。
成長に必要なのは“肩書”ではない。最適な出場環境とは?
その点で日本代表MF中村敬斗のキャリアプランは興味深い。出場機会に恵まれなかったオランダ、ベルギーから、オーストリア1部LASKリンツのセカンドチームにあたる2部FCジュニアーズへの移籍を決意。リンツはヨーロッパのカップ戦にも出場するクラブだ。セカンドチームでの出場機会の確保とそこからの着実なステップアップ(リンツ→スタッド・ランス[フランス1部])がかみ合い、その後の飛躍へと結びついた。
ブンデスリーガ2部ハノーファーでプレーする松田隼人も面白い。3部に所属するU23でレギュラーとして活躍し、今季から本格的にトップ昇格すると、新監督クリスティアン・ティッツのもと、そこでもレギュラーポジションを獲得している。試合を重ねるごとの成長ぶりには、若手選手が身を置く環境のあるべき姿を考えさせられる。3部→2部という現実的なステップアップのあり方がいい。
決してヨーロッパに行きさえすればなんとかなるわけではない。名門クラブのセカンドチームに入ったからといって将来が約束されるわけでもない。トップチームとセカンドチームの所属リーグのレベルの差が大きい場合、さらに状況は厳しいものとなる。その上で、セカンドチームで突出した活躍を見せれば、それがトップチームデビューに直結することは間違いない。多くの名門クラブにおいて、セカンドチームは“育てる場所”というより、“通用するかを見極める場所”として機能している。
選手の成長は出場機会とセットだ。出場するリーグレベルは低すぎても高すぎてもよくない。そしてクラブが考えるキャリアプランと選手が考えるそれが合致しないと、願うような成長へとつながらない。明晰な自己分析とともにプランAだけではなく、プランB、プランCまで考えていられるか。それが将来的なステップアップのためにとても大事になる。
<了>
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