なぜ「くら寿司」がスポーツ支援を続けるのか? 子どもたちに野球ができる環境を提供する決意
新型コロナウイルスの影響によりさまざまなスポーツイベント、大会が中止となっている中、「第1回くら寿司・トーナメント 2020(第14回学童軟式野球全国大会ポップアスリート星野仙一杯)」が開幕した。
大会特別協賛のくら寿司株式会社は、緊急事態宣言は解除となったが収束していない状況でなぜ大会を開催することを決めたのか? くら寿司がスポーツ支援に力を入れるきっかけと共に緊急事態宣言発令時、社内はどのような雰囲気だったのか――。その背景に迫った。
(インタビュー・構成=浜田加奈子[REAL SPORTS編集部]、写真提供=くら寿司)
スポーツ支援のきっかけは創業の地に完成した野球場
4月1日にオープンした「堺市原池公園野球場」のネーミングライツをくら寿司株式会社が取得し、呼称「くら寿司スタジアム堺」とすることが昨年11月20日に発表された。ネーミングライツ取得とあわせ、スポーツ支援活動の一環として学童軟式野球大会「ポップアスリート星野仙一杯」に特別協賛を行い、スポーツ支援にも力を入れていくという。
新型コロナウイルス感染症の影響によりさまざまなスポーツイベントが中止、延期となる中「第1回くら寿司・トーナメント 2020(第14回学童軟式野球全国大会ポップアスリート星野仙一杯)」(以下、くら寿司・トーナメント)も延期となっていたが、6月20日に「くら寿司・トーナメント」開幕記念試合を開催した。スポーツイベントなどの中止が相次ぐ中、なぜ開催を決めたのか? 飲食業のくら寿司がなぜ、ネーミングライツを取得し、スポーツ支援を行うことを決めたのか、くら寿司 広報宣伝IR本部 小山祐一郎氏に話を聞いた。
――これまでもさまざまなCSR活動に積極的に取り組んでいますが、今回なぜ新たにスポーツ支援を行うことを決めたのでしょうか?
小山:スポーツ支援は、今年大阪府堺市に新しくできた野球場(堺市原池公園野球場)のネーミングライツを昨年取得したことが最初の起点になりました。
当社は飲食を扱う事業で、四大添加物無添加という形で行っております。これはお客さまの健康を第一に考えて取り組んでいる当社のポリシーになります。また子どもたちの健康的な成長、発育のためには食と運動、スポーツが密接に関わると思い、以前から取り組んでいた食育とあわせてスポーツ支援を行っていこうと考えました。
――新型コロナウイルスによってさまざまな業界に影響が出ていますが、スポーツ支援についての考え、方針など変更はありましたか?
小山:本来であれば、今年が東京五輪イヤーでもあったので、スポーツに関心、注目が集まるタイミングでスポーツ支援を始めていきたいという狙いもありましたが、スポーツ支援を行うことに変更はないですね。ただ、緊急事態宣言も解除になったとはいえ新型コロナウイルスは収束していないので、その時々の状況を見極め、判断しながらスポーツ支援活動を行うことになります。
――スポーツ支援として数あるスポーツの中からどのような理由で野球を選んだのでしょうか。
小山:当社の経営陣、現場どちらも野球好きが多いこともありまして、スポーツ支援の入口として野球になったというところがありますね。
あとはやっぱり、野球場のネーミングライツ取得が大きいですね。当社の創業の地でもあり、本社がある大阪府堺市に野球場が新しくできる、しかも、本社の近くにできて、ネーミングライツを募集しているということだったので、これはぜひとも取りに行きたいなと。スポーツ支援と、地元の皆さんとのつながりを深めていきたい、この2つの軸でネーミングライツを取得させていただいたという形です。
大会中止の考えはなく前向きに検討
――新型コロナウイルスの影響により延期となっていたオープニングイベントを「くら寿司・トーナメント」開幕記念試合として、緊急事態宣言が解除になってから約1カ月後、6月20日に開催しました。さまざまなイベントが中止となっている中での開催の決断は、なかなかの判断だったと思います。
小山:まだ新型コロナウイルスは収束していないですが、気を付けながら生活をしていかないといけない、いわゆる「ニューノーマル」や「アフターコロナ」、「ウィズコロナ」などと言われていますけれども、新型コロナウイルスとどう向き合っていくか、その中でスポーツは行ってはいけないのか、できないのかというのは少しネガティブだと思います。プロ野球も何とか開幕できたわけですから、子どもたちに野球ができる環境、機会を私たちとしては与えることができないかと考えていました。そういった考えを持ちながら、開催するにあたって感染対策をきっちりと行い、万が一再発した場合に大会をどのように運営するのかを決め、「くら寿司・トーナメント」開幕記念イベントと7月1日から本大会の開幕に何とかたどり着けました。
新型コロナウイルスの影響で、全国を目指せる大規模な少年野球大会が今年に関してはこれが唯一の大会になってしまうので、大会実施についてしっかりと感染防止対策に取り組みながら子どもたちの夢と希望を応援したい、青少年にスポーツができる環境を提供したいと思っています。
――感染防止対策をしっかりと取り組んでいるとしても大会開催はクラスターを発生させてしまうリスクなどもあると思いますが、社内で大会中止、協賛をやめるなどの意見もあったのでしょうか?
小山:どちらかと言うと、緊急事態宣言が解除となったら子どもたちのためにも何とか大会を開催できないか、その方法を検討すべきという雰囲気でした。なので、開催するにはどういうふうにできるのかなど、開催すること前提でずっと話が進んでいました。
――大会に対するポジティブな考えは、本業である飲食もアニメとのコラボや持ち帰りメニューの好調といった、新型コロナウイルスの影響によるネガティブな話題よりポジティブな話題があったため、社内も全てをポジティブに考える雰囲気なのでしょうか。
小山:売上に関しては4月、5月は中食需要の高まりを受け、持ち帰り商品の販売は好調だったものの、全体としては厳しかったですが、6月に関しては、人気アニメとのコラボや、緊急事態宣言の解除を受けて、ある程度お客さまも外食を久しぶりにしたいという思いもあって、お店のほうに戻ってきていただきつつあるということもあり、だいぶ持ち直してきているかなという印象ではあります。
そういった状況ではありますが、この苦しい状況をいかに乗り越えていくか。少しおこがましい言い方かもしれませんが、やはり日本の皆さまを少しでも元気付け、勇気付けられるような取り組みをしていけないかということは、社内的に普段から考えていますね。
――この苦しい状況なので事業に力を入れるためにスポーツ支援を一旦ストップさせることもできたと思いますが、その選択がそもそもなかったことがすごいなと思います。
小山:ありがとうございます。やはりどうしても緊急事態宣言が発令されている自粛期間中は、私どもとしても「お店に来てください」と言えませんし、イベントも当然できない。対外的に大きなことはなかなかしにくい状態ではありましたが、それでも社内的には、「この状況が徐々に収まってきたタイミングでどんなことができるだろう」というのを常に考えておりました。なので、緊急事態宣言が解除されれば、OKというわけではないとは思いますが、ある程度、外出ができるようになって、学校も徐々に始まり、環境が整いつつある中で、もう一歩前に踏み込んだことができるんじゃないかと、私どもは考えながら充電していたような感じですね。
くら寿司だからできることで貢献していく
――今年唯一の全国規模の少年野球大会となったことによって、自分たちがやらないといけないという使命感もあったのでは?
小山:そうですね。大会事務局のほうにも「何とか開催してほしい」という声が各チームから上がっていたと聞いていました。我々は大会主催者ではなく、一協賛スポンサーという立場ですが、そういった声に応えるため開催できる方法を主催者側と一緒に検討しました。
――6月20日の「くら寿司・トーナメント」開幕前イベントは新型コロナウイルス拡大防止に関するガイドラインに沿った大会はこれまでのスポーツ大会とは異なった雰囲気でしたか?
小山:これまでの前例がないことでしたので、いろいろな準備の大変さや、とまどいもありました。とはいえ、「大会をやるとなればきっちりとやらないといけない」というところは大会主催者と当社の中で共通していました。
開催準備も緊急事態宣言が解除になった5月下旬から感染防止について模索したり球場の日程調整などを行い、6月20日に開催することが決定しました。なので、準備期間が短い中で進めていった大変さもありましたね。
当日は大人数を集めたりすることはできないので、選手、指導者と保護者の方といった関係者のみ100人ぐらいでしたが、来場者全てに検温と消毒をお願いしたり、客席は間隔を取って座ってもらう、選手たちにはベンチにいる時はマスク着用などのアナウンスも行ったり、複数人が触るボールをイニングごとに消毒したりと、今までにない経験で非常に苦労しました。
――くら寿司は食品を扱っている企業なので、消毒、衛生面には日ごろから気を付けているかと思いますが、そういった点では今回役に立った部分はありますか?
小山:当社の加工センターで、除菌効果のある微酸性電解水を製造しております。これは通常、調理器具や調理台の消毒に使用していますが、それを当日球場で手指や用具の消毒などに活用したりしました。食品を扱っている会社なので、衛生管理を徹底しているのでそういったノウハウ、インフラを生かすことができたのかなと思っています。
――これまでとは違う特殊な大会になりましたけど、参加された子どもたち、保護者の方はどのような反応でしたか?
小山:「2カ月ぶりぐらいに試合ができた」といった喜びの声をいただき、本当にみんな元気よくプレーをしていたなという印象ですね。あと大会主催者側からも「ようやく開催できて良かった」という声もいただいて、大会が開催できて良かったと思います。
――「くら寿司・トーナメント」はプロ野球やJリーグといったプロスポーツではない、スポーツの大会運営のいい事例になりそうですね。
小山:全国を目指せる唯一の少年野球大会なので、かなり注目はされているのかなとは思っています。だからこそ、新型コロナウイルスとも向き合いながらしっかりと取り組んでいかないといけない責任があり、身の引き締まる思いですね。
クラスター発生などの問題が起きないように大会を進めていくことについては参加チームの方にも理解は得られているのかなと、6月20日の試合を見ていて感じました。各都道府県の野球連盟、少年野球団体のほうからも、各チームに感染防止対策をしっかりした上で試合運営をしていきましょうという案内を行っているようなので、今回の大会を通じてそれぞれ各チームにもしっかりと感染防止に取り組めば野球ができることが全国に広がればいいなと思います。
――以前から行われていた食育も、ゆくゆくはスポーツ支援と合わせて行えるといいですね。
小山:新型コロナウイルスによる社会情勢の変化なども合わせて検討していかないといけないですが、例えば「くら寿司スタジアム堺」で野球教室とあわせて「当社の提供する商品のこの組み合わせで食べると、体にいい効果がありますよ」とか「この食材にはこういった栄養があります」といったことを啓蒙する活動もできるかと思います。
――魚が苦手な子どもも多いと思うので、体を作るためにはバランスよく食べる、魚も食べることの大切さなどが野球教室とあわせて学べるのはいいですね。社会情勢の変化などによりさまざまなことが変化していくかと思いますが、今後行っていきたいスポーツ支援や目標などはありますか?
小山:「くら寿司スタジアム堺」のネーミングライツから始まり、「くら寿司・トーナメント」の協賛をスタートさせたこの取り組みを一過性の動きというわけではなく、徐々に、今やっている取り組みも深めていきながら、ほかの競技に関しても支援を広げていくべく検討をしている段階です。まずは今年に関しては「くら寿司・トーナメント」をしっかりと運営できるように大会関係者の方々と協力をして社会貢献ができればと思います。
<了>
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PROFILE
小山祐一郎(こやま・ゆういちろう)
くら寿司株式会社 広報宣伝IR本部 広報部。
2019年6月くら寿司株式会社に入社。メディアの取材対応など広報業務のほか、スポーツ支援事業の企画、運営にも取り組む。
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