ヤクルト・村上宗隆、プロ初打席本塁打デビューから “清宮世代”最速の先発4番へ
プロ2年目、19歳の若き大砲が東京ヤクルトスワローズの4番の座に就いた。熊本・九州学院出身の村上宗隆は、常に注目を集め続ける清宮幸太郎と同世代。いわゆる“清宮世代”の村上だが、今季すでに12本塁打を放つなどプロに入ってからの実績では清宮を上回っている。持ち前のパワーと、しなやかなバッティング技術で高卒2年目にしてチームの主砲として期待を集める村上のルーツとは?
(文=菊地高弘、写真=Getty Images)
“あの夏”ひっそりデビューを果たした「肥後のベーブ・ルース」
2015年夏の甲子園大会は、ある大物1年生に日本中の注目が集まっていた。
清宮幸太郎。リトルリーグ時代からずば抜けて大きな体躯を生かして、世界大会で特大弾を放ち「和製ベーブ・ルース」ともてはやされた。父がラグビー界の名将・清宮克幸氏という話題性もあり、早稲田実業入学直後に公式戦でヒットを打っただけでスポーツ紙の一面を飾ってしまう。前代未聞のスーパー1年生だった。
西東京大会では本塁打こそ出なかったものの、清宮は大事な場面でタイムリーヒットを放ち、チームに勢いをもたらした。その結果、下馬評は高くなかった早稲田実業は難敵を退けて甲子園出場を果たしたのだった。
8月8日の早稲田実業の初戦には、阪神電鉄の始発から車内がすし詰め状態になるほどの異常な大混雑ぶり。まさに「清宮フィーバー」だった。
そんな清宮の陰で「肥後のベーブ・ルース」と呼ばれた1年生がいた。それが熊本・九州学院の村上宗隆。東京ヤクルトスワローズで売り出し中のスラッガーである。
甲子園で2本塁打を放つなど、華々しく暴れ回った清宮に対し、村上の甲子園デビューはほろ苦いものだった。4番・ファーストで起用されたものの、打っては4打数0安打。守っては遊学館に逆転を許す2失策を犯してしまう。
当時から身長185cm、体重83kgの大きな体は目を引いたものの、やや鈍重な動きでインパクトを残すことはできなかった。打撃ではバットのヘッドが走らず、サードゴロが2つ。
とはいえ、1年生で強豪の4番打者として甲子園に出場するだけでも上出来である。その後も注目選手であり続けた村上だが、本人にとってこれが高校生活最初で最後の甲子園になった。
両親譲りの体躯と「柔らかな」バッティング
熊本で「村上3兄弟」は有名だという。父・公弥さんは180cm、母・文代さんは173cmという高身長夫婦。兄・友幸は東海大4年生で、身長193cmの超大型右腕。次男の宗隆は現在188cm。中学2年生の弟も成長途上ながら大柄だという。
高校卒業前に村上宗隆にインタビューした際、その驚異的な成長の一助になっていた飲み物があったと語っていた。
「家でヤクルトをとっていたので、小さい頃から兄弟そろってヤクルトをよく飲んでいました」
幼少期から積極的に乳酸菌を摂取し、腸内環境を整えた成果がその巨体につながったのだろうか。
怪童はすくすくと育ち、高校3年間で通算52本塁打を放つまでの大砲になった。同学年の清宮や安田尚憲(履正社→ロッテ)が大舞台で活躍し、スカウト陣の評価を上げていくなか、村上も負けてはいなかった。2年以降は甲子園から遠ざかったものの、その打撃力は高く評価された。
「バッティングは一番楽しいですし、自分の持ち味というか長所だと思っています。ホームランが打てるにこしたことはないですが、長打力がすべてとは思っていません。単打も長打もいろんなバッティングができるようにしたいです。負けている試合で打ってもうれしくないので、勝ちに貢献できるバッティングを目指しています」
村上の打撃の特徴は、並外れたパワーがありながら柔らかさもあること。その極意について、村上はこんなことを語っていた。
「バッティングには柔らかさがないとダメだと思うので。固いものと固いものがぶつかっても飛んでいかないけど、柔らかければしなって飛んでいくイメージを持っています。とくに木のバットは金属バットと違ってカチカチではないので、バットがしなったほうが飛ぶと思うんです」
その打撃の原型は幼少期から自然と育まれていった。ヘッドをしならせ、逆方向であるレフト方向にも大きな打球が打てる。それは村上の大きな武器になっていった。1年夏の甲子園では結果こそ出なかったものの、外角のボールを逆らわずに得意のレフト方向へ打ち返したいという意図があったのだろう。
世代、そして日本を代表するスラッガーになるために
2017年秋のドラフト会議では、目玉選手の清宮に7球団の指名が重なった。村上の名前はドラフト直前まで「上位候補のひとり」という位置づけで、スポーツ紙で大きく紙面を割かれる存在ではなかった。
ところが、清宮の交渉権をかけたくじを外したヤクルト、巨人、楽天の3球団が再入札で村上を指名。次々と村上の名前がコールされるたびに「村上って誰?」と戸惑うメディア関係者もいた。
再入札の末、交渉権を手にしたのはヤクルトだった。当時、村上のポジションは捕手だったが、打撃を評価していたヤクルト編成陣はいち早く「サードとしてプレーしてほしい」と要望を口にする。
村上にとっても、捕手への未練は「まったくない」と語るほどこだわりはなかった。その代わり、入団前からサード守備は「まだまだ下手くそです」と壁に当たっていることを打ち明けていた。
右投左打の打者として勝負する以上、どうしても同学年のスター候補である清宮と比較されることになる。それでも、村上は「清宮が全然上ですから」と口にした上で、こう続けた。
「いずれは超して、次は『村上世代』と言われるようになりたいです」
その口ぶりは去勢を張るでもなく、力みかえるわけでもなく、ごく自然体だった。それでいて、一本芯が通っている「肥後もっこす」の雰囲気。プロでまだ1試合も出ていないというのに、「この選手は大丈夫だろう」という不思議な安心感があった。
プロ入団1年目の2018年はイースタン・リーグで98試合に出場し、打率.288、17本塁打、70打点、16盗塁。高卒ルーキーとは思えない成績を残した。9月16日には1軍デビューを果たし、プロ初打席で神宮球場のライトスタンドにホームランを叩き込む離れ業。高卒新人の初打席初本塁打は史上7人目という快挙だった。
プロ1年目の安打はその1本だけだったが、2年目の今季はオープン戦から辛抱強く起用され、レギュラーに定着。サードとしては不安定さを露呈してエラーを重ねたものの、打撃は広角に本塁打を放つなど活躍している。5月25日現在、49試合に出場して打率.236、12本塁打、34打点。5月12日には19歳にして初めて4番打者になった。
一方、高校時代に話題を独占した清宮はプロ1年目こそ7本塁打を放ったが、今季オープン戦で右手有鈎(ゆうこう)骨を骨折し、大きく出遅れている。
この時点で安易に「村上が清宮を抜いた」などと言うつもりはない。プロの水に慣れた清宮も、体調が万全に戻ればその打棒を爆発させるに違いない。
清宮幸太郎と村上宗隆、独特の大物感を醸し出す二人が互いに意識し合い、高め合う関係になっていくのか。いつか侍ジャパンの中軸に二人が座る……、そんな日が来るのもそう遠くはなさそうだ。
<了>
[PROFILE]
村上宗隆(むらかみ・むねたか)
2000年生まれ、熊本県熊本市出身。中学時代は熊本東リトルシニアに所属。九州学院高校では入学直後から注目され、1年夏の甲子園に出場。高校通算52本塁打を放ち、「肥後のベーブ・ルース」の異名もついた。2017年秋のドラフト会議では1位再入札でヤクルト、巨人、楽天の3球団から指名され、ヤクルトに入団。2年目の今季にレギュラーに定着し、本塁打を量産している若きスラッガー。
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