
FacebookからTikTokまで! 最新デジタル戦略で描く、NFL「3兆円」時代へのシナリオ
リーグ全体の総売上高は1兆5000億円、平均観客動員数は6万7000人と、ともに圧倒的な1位に輝いているNFL。名実ともに“世界一”のプロスポーツリーグとして栄華を極めているが、さらなる人気拡大に向けて動いている。その中でも特に今、注力しているのがデジタル戦略だ。
日本のスポーツ界は周回遅れともいわれるこの分野において、NFLはいったいどのような狙いをもって成果をあげているのだろうか?
(文=川内イオ、写真=Getty Images)
NFLがソーシャルメディアとコラボする狙い
リーグ開幕から100周年を迎えるアメリカのプロアメリカンフットボールリーグ、ナショナルフットボールリーグ(NFL)が、ソーシャルメディアとのコラボに力を注いでいる。その内容を見ると、モバイル時代のデジタル戦略がうかがえる。
『ウォールストリートジャーナル』によると、2017-18シーズンのリーグ総収入は推定150億ドルで、2027年までに収入を270億ドルにまで増やす目標を掲げている。そのカギを握るのは放映権だ。
NFLはテレビ放映権だけで年間推定55億ドルを得ているが、2016-17、2017-18シーズンの2年間で平均18%も視聴率を落とした。2018-19シーズンは平均視聴率が5%アップして盛り返しているものの、視聴率の低迷は放映権料に大きく響く。そこで、急伸するネットメディアにコンテンツを提供することで、収益の多角化とファン層の拡大を目指しているのだ。
Facebookのダイジェスト視聴者数は2200万人以上
例えば今年9月12日、パートナーシップ契約を2年延長し、契約内容を拡大すると発表したFacebookは、ユーザーとの相性をフル活用しようという戦略が透けて見える。両者の契約は2017年にスタートしたもので、レギュラーシーズンの全256試合、プレーオフ、スーパーボウルのハイライトが、Facebook内の動画チャネル、Facebook Watchに掲載されてきた。
これに加えて、9月5日に開幕した2019-20シーズンは、ニュースやNFL Filmsのクラシックゲームアーカイブ、NFLシーズン100周年に特化した特別映像などがFacebook Watchで視聴可能になった。
さらに、リーグで起こっている特定のトレンドを中心にグループを作成し、関連する動画コンテンツを共有したり、複数のユーザーが同時に動画コンテンツを視聴しながらリアルタイムでコメントを投稿できるFacebook Watchの機能「ウォッチパーティー」を活用して、毎週、リーグがホストとしてNFLハイライトの「ウォッチパーティー」を開催する。
この契約拡大の背景にあるのは、FacebookユーザーとNFLの親和性が高いことが明らかになったから。NFLのFacebookページには1700万人以上のファンがおり、2017年と2018年には、2200万人以上がFacebook Watchで少なくとも1分間、NFLのダイジェストを視聴した。2017年から18年にかけて、このダイジェストの視聴者数は32%増加している。
注目すべきは、視聴者の28%がアメリカ以外の国からのアクセスだったことだろう。NFLはアメリカ独自のプロスポーツで、NBAやMLBと比べても、世界的には認知度が低い。だからこそ、ロンドンやメキシコでリーグ戦を開催するなど海外でのマーケティングに力を入れている。
海外のファンにもアクセスできるFacebookは、NFLにとって重要なマーケティングツール。そこで、コンテンツを拡充してユーザーとの接点をさらに増やそうという戦略だ。NFLのデジタルメディアビジネス開発担当副社長であるブレイク・スタチン氏はこうコメントしている。
「Facebookは世界中の何百万人もの熱心なファンにアクセスするための重要なパートナーであり続けます」
スナップチャットの「ARフィルター」活用でZ世代にリーチ
NFLが、アメリカで「Generation Z」(Z世代)と呼ばれる1990年代半ばから2000年代前半生まれの若いファンの開拓に活用しているのは、世界で1億9000万人のユーザーを持つ写真・動画共有アプリ、スナップチャットだ。両者は2015年にパートナーシップ契約を結び、昨年、2年間延長している。
2017-18シーズン、アメリカ国内で4200万人、グローバルで5200万人のユーザーが、スナップチャット上でNFLのコンテンツにアクセスした。そのうち、アメリカ国内でNFLコンテンツを視聴したユーザーの70%は25歳未満という結果が出ている。
昨シーズンには、若いファンとの関係を強化するために、新しい動画コンテンツ「Sunday Publisher Story」をスタート。これは、シーズン中の毎週日曜日、試合の結果やハイライトを1時間に1回更新するというものだ。それまでは日曜日に通常のハイライト動画を1本、流していたが、「Sunday Publisher Story」によって、視聴者数が毎週100万人から200万人に倍増し、動画の再生回数は1日で400万回に達した。これは、視聴者が日曜日に平均2回、アクセスしたことになる。
NFLはスナップチャットの「ARフィルター」(※AR技術を利用したユニークなエフェクトが楽しめる機能)でも、若者の好奇心をうまく刺激している。今年2月に開催されたスーパーボウルでは、期間限定プロモーションとして出場する2チームのARフィルターを作成。このARフィルターは3億300万回以上視聴された。
この成功から、2019-20シーズンの開幕戦となったシカゴ・ベアーズ対グリーンベイ・パッカーズ戦では、キックオフと同時にスナップチャットのARフィルターを使ったキャンペーンを開催。NFL100周年オリジナルロゴをスキャンすると、シカゴ・ベアーズとグリーンベイ・パッカーズの過去のハイライト映像を視聴できるようにした。
前出のブレイク・スタチン氏は、スナップチャットについて「若い視聴者を引き付けることに対する私たちの継続的な関心とマッチしています」と語っている。
TikTokとの新契約、YouTubeでの新番組の狙いは?
NFLは、グローバルで若いファン層をさらに拡大するために、今シーズン開幕前、中国のメディア企業ByteDanceが2016年9月にリリースした15秒の動画共有アプリのTikTokと複数年のパートナーシップ契約を結んだ。
さまざまな動画コンテンツが配信されるNFL公式アカウントが開設されたほか、開幕戦に向けて、TikTokの人気ユーザーとNFLのクラブも参加した「#WeReady」のハッシュタグキャンペーン、開幕戦当日の応援動画投稿キャンペーンなどが開催された。
世界150カ国75言語で利用されているTikTokの総ダウンロード数は10億回、月間のアクティブユーザーは、2019年2月の時点で2650万人とされている。Facebookやスナップチャットの規模には及ばないが、特にアジア地域で人気を博しているのが特徴だ。NFLがリーチできていない地域で、認知を広げようという試みだろう。
そして、NFLに興味を持ったライトなファン層を含めて、より深くNFLの世界に浸ってもらうために活用しているのが、YouTube。NFLは2015年からYouTubeチャンネルを開設しており、現在約500万人の登録者を抱える。
今年9月から、このチャネルでの独占配信を始めたのが、「NFL Game Day All Access」というドキュメンタリーシリーズ。選手とコーチに焦点を当てた20分の番組で、スタジアムへの移動から試合前のウォーミングアップ、試合中から試合後の様子、そして帰宅までをドキュメンタリー形式で紹介。全22のエピソードが、毎週水曜日に公開される。
親和性の高いFacebookユーザーには、ファンのコミュニティを盛り上げるコンテンツを。若いユーザーが多いスナップチャットやTikTokには、気軽に楽しめるコンテンツを。そして、もっとNFLを知りたくなったらYouTubeでドキュメンタリーを。ターゲットと目的を明確にしたNFLのデジタル戦略は、日本のスポーツ界でも参考になるものだろう。
<了>
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