コロナ禍のドラフトに提言! 予想される指名減少、「第二の吉田輝星」の未来と夢を守れ
プロ野球の開幕はいまだそのめどが立たず、高校野球も春のセンバツが中止になり、夏の甲子園開催も危ぶまれている。大学、社会人も先行きが見えないままで、新型コロナウイルスの影響は、野球界に大きな影を落としている。11月に開催される予定のドラフト会議にはいったいどんな影響が出ると考えられるだろうか? このコロナ禍の中にあっても、未来ある若者たちの夢が潰えることのないようなルールづくりを考えたい。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
次々と中止・延期が決まり、実戦の場を失うアマチュア野球界
新型コロナウイルスの影響で日本から「スポーツ」が消えて、数カ月がたった。
日本全国を対象とした緊急事態宣言は現在、5月6日までと期限が区切られているとはいえ、収束のめどがいまだに立っていないことを考えると期間の延長も十分考えられる。
もし予定通り5月6日に解除されたとしても、すぐにスポーツを再開できるわけでもない。
プロ野球でも交流戦の中止がすでに決まり、レギュラーシーズンは最大でも125試合、6月以降の開幕で無観客試合での開催も検討されている。
そんな中、大きな影響を受けているのがアマチュア野球界だ。
高校野球では春の甲子園(センバツ)に続き、各地方で行われる予定だった春季大会がすべて中止(沖縄は準々決勝まで開催)。大学野球も各連盟の春のリーグ戦は軒並み中止・延期となり、6月に予定されていた全日本大学選手権も8月に延期となった。社会人野球も7月に京セラドーム大阪、ほっともっとフィールド神戸で開催予定だった日本選手権の中止が発表されている。
延期となったリーグや大会についても、今後の動向次第で中止となる可能性は非常に高い。
アマチュア野球の選手にとって「実戦の場」が奪われるということは、チームの成績はもちろん本人たちの「進路」にも大きな影響を及ぼす。
今年の11月5日にはプロ野球ドラフト会議が行われる予定だが、現時点でほぼプレーすることができていないドラフト対象選手を各球団はどう評価するのか――。
予定通り秋にドラフトが開催されたと仮定した場合、恐らく今年の指名人数は例年に比べてかなり減少するだろう。
理由は大きく分けて2つある。
「好投手の一人」だった吉田輝星は、夏の甲子園の活躍で「ドラフト1位」に
一つは前述のとおり、対象選手の実戦の場が失われていること。プロ野球のスカウトは各担当地域の学校やチームに足しげく通い、選手の実力を見極める。全国大会になれば各球団のスカウトたちが一堂に集結し、自チームに必要な素材を文字通り「スカウティング」する。
しかし、事実上昨年の秋からその「実戦の場」が失われており、春以降は練習すら自粛しているチームがほとんどだ。能力を見極める機会がない以上、選手を評価したくてもできないのが現状だ。
万が一、ドラフト会議が行われる秋まですべての公式戦が中止されたとしたら、各球団は実質、「昨年の秋」までの評価をもとに選手を獲得しなければいけない。
野球に限らず、アスリートにとって「1年間の空白」はあまりに大きい。特に高校生などは1年間でまったく別の選手へと変貌する。春先まではそこまで注目されていなかった選手が、最後の夏で「大化け」してドラフト指名を受けるといったケースは、毎年のように起こっている。その逆もしかりだ。
近年の代表例でいえば、吉田輝星(金足農/当時)がそうだろう。2018年ドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団した同年の甲子園準優勝投手だが、春先までは「地方の好投手の一人」という評価だった。事実、夏前の時点では卒業後の進路は大学進学が既定路線。それが夏の甲子園での活躍で、「ドラフト1位」の評価を得るほどになった。
1年間で大きく成長する選手がいる一方で、当然ながら思うように成長しない選手もいる。各球団ともに「1年間実戦を経験していない」選手を指名することは大きなリスクを伴う。
予想される戦力外の減少、新人選手を入団させる枠が無くなる
指名選手が減少する理由のもう一つは、シーズン短縮によって起こるであろう「戦力外選手の減少」だ。プロ野球は現時点でもレギュラーシーズン125試合の確保に向けて全力を注いでいるが、現実問題、それが可能かははっきりいって疑わしい。シーズンがさらに短縮されて例えば100試合以下、もっといえば「シーズン中止」などという事態が起これば、例年行われる選手への戦力外通告にも大きな影響が出る。
当たり前のことだが、試合がなければ選手を評価することはできない。シーズンが無事に開幕され、短縮とはいえ試合が行われたとしても、春先から開幕までほとんど実戦を積むことができていない現状や、各球団の練習環境を考えると、例年通りの基準で選手のクビを切るのはさすがに無理がある。
当然ながら、オフに行われる戦力外通告は例年よりも減少することが想定される。
プロ野球には1球団70人という支配下登録枠が存在し、育成選手を除いてそれを超える人数を所属させることはできない。
ドラフトで選手を入団させるためにはそのぶん、支配下登録枠に「空き」をつくる必要がある。その作業が、例年行われている戦力外通告だ。
戦力外選手が減少し、ドラフト対象選手の評価が事実上できなくなっている現状を考えると、結果的にドラフトで指名される選手の数は少なくなるはずだ。
その一方、「育成指名」の選手は例年より増えることが予想される。70人枠に縛られない育成選手の獲得には空きをつくる必要もない。選手の実力を測りかねるのであれば、「まずは育成で指名」と考える球団が増えることは容易に想像できる。
支配下選手登録枠の拡大/撤廃を! 育成の在り方をあらためて考えるべき時
しかし、である。
果たしてそれはドラフト本来の姿なのか。
有事の今、ある程度の「特例」は仕方がない。しかし、例年であれば本指名を獲得できる実力を持つ選手が「育成」で指名されかねない現状には、何らかの措置も必要になってくるのではないか。
そこで提案したいのが、支配下選手登録枠の拡大、もしくは撤廃だ。一時的な措置なのか、今後継続的にするのかは別として、来季以降のことを考えれば、まずは70人という枠は取っ払うのが最善の策だ。
枠が増えれば、ドラフトで指名できる選手を確保しながら、選手のクビを切る必要もなくなる。
もちろん、一時的に枠を拡大して再来年以降、再び70人に戻した場合は、その時点で大量の戦力外通告選手が生まれることにはなる。
ただそれでも、選手にとっては1年間の猶予が与えられる。新型コロナウイルスの影響で試合が行えるかもわからない今季、この1年を「現役最後の1年」としてしまうのは、あまりに残酷だ。
ドラフト対象選手にとってもそうだ。
本来であればプロに入れたかもしれない選手が、「枠」の都合でプロ入りできない。
もちろん、プロ野球が競争社会であることを考えれば、一定の枠は必要だし、それに漏れてしまうということは実力がなかったということでもある。
「育成選手を多めに取れば、変わらないじゃないか」という意見もあるかもしれないが、やはり支配下登録選手と育成選手の間には大きな壁がある。年俸を含めた条件面も、「3年間」という期限もそうだ。
例えば支配下登録人数を75人に増やすだけでも、数字の上では各球団は一人のクビも切ることなく、ドラフトで5人の選手を指名できることになる。
選手の年俸や施設面など、クリアすべき問題は山ほどあるが、少なくとも「金銭的負担」についていえば新人選手を多く獲得することは、そこまで大きくはない。
最高年俸が1600万円までと設定されている新人選手の獲得数を削ったところで、球団経営にはそこまで大きな影響はないはずだ。
今、アマチュア球界では実戦の場を奪われた多くの選手、チームに対する「救済措置」の是非が議論されている。
であれば、プロ野球やドラフト会議においてもなんらかの「救済措置」があってもいいはずだ。
支配下登録枠をめぐっては、そもそも育成制度の在り方も含め、まだまだ議論の余地が残されている。
11月にドラフトが無事に行われるかもまだわからないが、もし予定通り開催できるのであれば、今年起きた「未曽有の事態」を糧に、現役選手、さらにはドラフト対象選手が最大限、納得できる形をつくってほしい。
<了>
夏の甲子園「延期・中止」を早く決めよ! 球児の心に最も残酷な「決まらない」現状
泣き崩れる球児を美化する愚。センバツ中止で顕在化した高校野球「最大の間違い」
高校野球に巣食う時代遅れの「食トレ」。「とにかく食べろ」間違いだらけの現実と変化
中止センバツ出場校「救済措置」5案を提言! 実現可能性・障害を比較する
ダルビッシュ有が否定する日本の根性論。「根性論のないアメリカで、なぜ優秀な人材が生まれるのか」
この記事をシェア
KEYWORD
#COLUMNRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
なぜ大谷翔平はDH専念でもMVP満票選出を果たせたのか? ハードヒット率、バレル率が示す「結果」と「クオリティ」
2024.11.22Opinion -
大谷翔平のリーグMVP受賞は確実? 「史上初」「○年ぶり」金字塔多数の異次元のシーズンを振り返る
2024.11.21Opinion -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career -
J2最年長、GK本間幸司が水戸と歩んだ唯一無二のプロ人生。縁がなかったJ1への思い。伝え続けた歴史とクラブ愛
2024.11.08Career -
なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
2024.11.08Opinion -
海外での成功はそんなに甘くない。岡崎慎司がプロ目指す若者達に伝える処世術「トップレベルとの距離がわかってない」
2024.11.06Career -
なぜイングランド女子サッカーは観客が増えているのか? スタジアム、ファン、グルメ…フットボール熱の舞台裏
2024.11.05Business -
「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
2024.11.05Career -
WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
2024.11.01Career -
女子サッカー過去最高額を牽引するWSL。長谷川、宮澤、山下、清家…市場価値高める日本人選手の現在地
2024.11.01Opinion -
日本女子テニス界のエース候補、石井さやかと齋藤咲良が繰り広げた激闘。「目指すのは富士山ではなくエベレスト」
2024.10.28Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
10代で結婚が唯一の幸せ? インド最貧州のサッカー少女ギタが、日本人指導者と出会い見る夢
2024.08.19Education -
レスリング女王・須﨑優衣「一番へのこだわり」と勝負強さの原点。家族とともに乗り越えた“最大の逆境”と五輪連覇への道
2024.08.06Education -
須﨑優衣、レスリング世界女王の強さを築いた家族との原体験。「子供達との時間を一番大事にした」父の記憶
2024.08.06Education -
サッカーを楽しむための公立中という選択肢。部活動はJ下部、街クラブに入れなかった子が行く場所なのか?
2024.07.16Education -
14歳から本場ヨーロッパを転戦。女性初のフォーミュラカーレーサー、野田Jujuの急成長を支えた家族の絆
2024.04.15Education -
モータースポーツ界の革命児、野田樹潤の才能を伸ばした子育てとは? 「教えたわけではなく“経験”させた」
2024.04.08Education -
スーパーフォーミュラに史上最年少・初の日本人女性レーサーが誕生。野田Jujuが初レースで残したインパクト
2024.04.01Education -
「全力疾走は誰にでもできる」「人前で注意するのは3回目」日本野球界の変革目指す阪長友仁の育成哲学
2024.03.22Education -
レスリング・パリ五輪選手輩出の育英大学はなぜ強い? 「勝手に底上げされて全体が伸びる」集団のつくり方
2024.03.04Education -
読書家ランナー・田中希実の思考力とケニア合宿で見つけた原点。父・健智さんが期待する「想像もつかない結末」
2024.02.08Education -
田中希実がトラック種目の先に見据えるマラソン出場。父と積み上げた逆算の発想「まだマラソンをやるのは早い」
2024.02.01Education -
女子陸上界のエース・田中希実を支えたランナー一家の絆。娘の才能を見守った父と歩んだ独自路線
2024.01.25Education