「風を読んで、あのスペースに」鈴木彩艶が明かす配球術。英名物番組が驚異的と評するプレミアでの進化

Career
2026.09.24

プレミアリーグで、鈴木彩艶のキックが注目を集めている。だが、その武器は単なる飛距離や正確さだけではない。風を読み、味方の特徴を見極め、相手の出方に応じて球質を変える。イングランドで評価を高める日本代表GKは、いま「ゴールを守る」だけではなく、最後尾から試合を動かそうとしている。

(文=田嶋コウスケ、写真=ZUMA Press/アフロ)

「ビラ版エデルソン」も納得。日本代表GKに集まる注目

英国を代表するサッカー番組『マッチ・オブ・ザ・デイ』が、アストン・ビラのGK鈴木彩艶の特集を組んだ。9月19日、アストン・ビラがトッテナムを3-2で下した一戦を受けてのことだ。

英BBCの名物番組で、解説を務める元イングランド代表のダニー・マーフィーが最初に取り上げたのは、鈴木のセービングだった。

「まずGKに求められるのはセーブだ。トッテナムが攻勢に出た時間帯に、鈴木はセーブでチームを救った。本当によくやった」

さらに、話は足元の技術へ及んだ。

「私は、鈴木のデビュー戦となったアーセナル戦も現地で見ていた。両足でのフィードが驚異的だ。簡単そうにやっているが、実は非常に難易度の高いプレーだ。両足で、短いボールも、長いボールも正確に蹴る。今日はトッテナムのハイプレスを踏まえ、より早いタイミングで長いボールを入れていた」

セーブとフィードの両面から鈴木のプレーを評価し、ビラの戦い方への貢献まで掘り下げた特集だった。

そのキックには、筆者も試合前から目を奪われていた。

トッテナム戦の1週間前、9月12日のノッティンガム・フォレスト戦。ウォーミングアップ中の鈴木は、敵陣に立つ控えGKに向かってフィードの練習を繰り返していた。蹴り方を変え、ボールの角度やスピードも次々に変える。多彩なキックを持っているのだなと感心していたが、それ以上に驚いたのがその正確さだった。球筋を変えても、受け手のもとにピタリと合わせた。

英紙『デーリー・テレグラフ』は、足元の技術に定評があるブラジル人GKエデルソンになぞらえ、鈴木を「ビラ版エデルソン」と評した。その比較もうなずける光景だった。

「風を読んで、あのスペースに…」鈴木彩艶が明かす配球の狙い

試合が始まると、目を奪われた一球があった。

前半9分、ジョン・マッギンへのロングフィード。ボールは途中で急激に勢いを落とし、スペースへ落下した。ゴールラインを割るものと思っていた相手GKが、慌ててゴールマウスに戻る。バックスピンをかけたのだろうか。後日、その場面を尋ねると、鈴木は「風」について説明した。

「風がなかったら、普通に(ゴールラインに)抜けるようなボールでしたけど、あの日は少し風が強かったので。少し低めの弾道を意識しながら、風を読んで、あのスペースに落とそうと意識して蹴りました。狙いどおりの結果だと思います」

あの弾道まで狙っていたと聞き、改めて驚かされた。遠くの味方へ届ける一本にも、風の影響を見込んで調整を加えていたのだ。

また、受け手のプレースタイルに応じた蹴り分けについても、細かな工夫をしていると明かした。

「受け手によって球質を変えています。足の速い選手には低めのボールを蹴ったり。逆に、1発目で取れなくても、セカンドボールで拾いたいときは、あえて距離を出すキックをしたり。選手によって、球質を変えていますね」

前線でボールを収められる187センチのセンターフォワード、ニコラス・ジャクソンには、長く、高いボール。快足のジョージ・ヘミングスには、相手DFラインの背後へ走り込めるボール。競り合いの後のこぼれ球を味方が拾うところまで考えて、球質を選ぶ。

特に、ヘミングスとの連係は目を引く。

鈴木が蹴るタイミングと、ヘミングスの裏へ抜ける動きがピタリと合う場面もある。「あらかじめ決めているのですか?」。そう聞いてみると、鈴木は「特に決め事はない」と言う。

「彼の特徴も理解しています。スピードがある選手というのもわかっている。試合を重ねていくごとに、選手の特徴を理解できている部分もあります。逆に、チームの選手も、僕の強みをわかってくれている。そこは融合しながら、良いプレーが増えてきていると思います」

「ピッチに立っているのは僕」GK自身の判断の重要性

味方も鈴木のキックを信じて走り、ボールを受ける位置を取る。その連係が得点につながったのが、トッテナム戦の後半22分だった。鈴木の長いゴールキックをジャクソンが収め、マンザンビとのパス交換からシュート。ビラの2点目が生まれた。

相手のトッテナムは、こうしたロングフィードを十分警戒していた。敵将ロベルト・デ・ゼルビは、ビラが今季、昨季より86%多くロングボールを使っていると事前に把握し、ミーティングでも注意点として「繰り返し取り上げた」と明かしている。鈴木のキックを生かす攻撃は、相手が事前に対策を講じるほどの武器になっている。

ビラを率いるウナイ・エメリ監督にとっても、鈴木のフィードは狙いにかなうものだ。鈴木の獲得理由には、セービングに加え、「自分たちが求める攻撃の組み立てができる」ことを挙げている。短いパスでつなぎ、相手が前から捕まえに来れば、長いボールでその守備を飛び越える。

その使い分けは、どこまでが監督の指示で、どこからが自分の判断なのか。尋ねると、鈴木はこう説明した。

「ピッチに立っているのは僕です。僕の判断もありますし、チーム全体の判断もあります。試合前に相手のやり方を聞いているところもある。『自分たちの選手がどこにいるか』というチーム全体の考え方もある。本当にミックスしながら、やっていますね」

実際、ノッティンガム・フォレスト戦では、相手が後方で引いて構えていた。すると鈴木は、ボールを長くキープし、相手の出方をうかがった。対して、GKにまで圧力をかけてきたトッテナムには、素早く味方に預けたり、長いボールで相手のプレスを飛び越えたりした。蹴る技術に加え、「いつ、どこへ出すか」の判断も問われている。

鈴木彩艶が見据えるゲームマネジメント

これほど配球が注目される一方で、本人が最も厳しく振り返っていたのは、GKの本業であるゴールを守る仕事だった。

例えば、フォレスト戦で決められたリアム・デラップの強烈なミドルシュート。プレミアリーグらしい「強さのあるシュート」だった。「これまでにない速さや威力を感じましたか?」と聞くと、自身の動きに改善点を挙げた。

「特段、経験したことがないシュートということはなかったです。ですが、あのシーンでも、最終的に視界を遮られた状態になってしまった。あそこで、いかにボールが見えるポジションを取るか。ステップのところも改善できる。日々学びですね」

位置取りや足の運びを変えれば、ボールが見えづらくなる状況を避けられなかったか。本人はそこを振り返っていた。

改善点を探りながら、セーブでチームを救う場面も重ねている。

9月8日のUEFAチャンピオンズリーグ、クラブ・ブルッヘ戦では、1点差に迫られた後半に相手のシュートを低い姿勢ではじき出した。続くコーナーキックからのヘディングもブロックし、ポストに当たったボールをセーブ。3-2の勝利につなげた。

プレミアリーグのトッテナム戦でも、前半の猛攻を無失点でしのいだ。ビラは鈴木のセーブで踏ん張り、前半終了間際に先制。後半には、自身のフィードから追加点を奪った。

ここまで、鈴木はプレミアリーグで4試合を戦ってきた。GKとしてイングランドでプレーする難しさについて尋ねると、鈴木の答えは試合全体の流れに及んだ。

「いろんな種類のゲームがあると思います。トッテナム戦は本当に行ったり来たりのゲームでした。僕たちがボールを持てる時間もあったり、逆に、前半は結構押し込まれるシーンもあった。そこでいかに落ち着かせるか。GKとしてリーダーシップを取ることも大事ですし、逆に相手の隙を突いて素早くプレーするところも大事になる。ゲームマネジメントの部分でも、もっと自分がリーダーシップを取っていけたらと思っています」

鈴木の関心は、一つのセーブやパスだけでなく、チーム全体の試合運びにまで及んでいる。対戦相手の出方を見ながら、いつボールを動かし、いつ長いボールを使うのか。そして、苦しい時間帯にどう試合を落ち着かせるのか。

プレミアリーグで4試合を終えた鈴木は、GKとして求められる仕事の幅をさらに広げようとしている。

<了>

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