県4部だった豊川高校が、なぜ4年で全国大会へ? 山梨学院を日本一に導いた監督の挑戦
県4部リーグ所属だったチームが、わずか4年で全国の舞台へ――。同校初のプロ内定選手も輩出し、愛知県の豊川高校が今、急速に力をつけている。山梨学院を日本一に導いた長谷川大監督のもと、チームはいかにして変わったのか。その歩みを追った。
(インタビュー・文・撮影=松尾祐希)
県4部から4年でインターハイ出場、躍進続ける豊川高校
日本サッカー界には様々なパスウェイがある。プロサッカー選手になるための道は世界でも稀を見るほど多彩で、Jクラブの育成組織だけではなく、街クラブや高体連からプロの世界に飛び込む選手は少なくない。それでもキャッチされなかった選手は大学経由という選択肢もある。明治大に進学した長友佑都を筆頭に、法政大で1年次から活躍した上田綺世や筑波大から川崎に加入した三笘薫らが世界に羽ばたいた。そうしたパスウェイの多様性が強みになりつつある日本サッカー界で、人材供給で欠かせない役割を担っているのが高体連だ。
青森山田や大津といった長きに渡って高校サッカー界を牽引してきたチームに加え、昌平や神村学園といった2020年以降に急激に力を伸ばしてきたチームもある。一方で、ここから頂点を目指して強化に力を入れる高校も少なくない。
その筆頭格が愛知県の豊川だ。
男女ともに駅伝の強豪校として名を馳せ、野球部も2014年度に春の甲子園でベスト4入りを果たすなど、運動部の活動が盛んなことで知られる。サッカー部も強化を進め、4年前の2022年は愛知県4部リーグに所属していたチームは1年ごとに昇格。今季は県1部リーグを戦い、今夏には初めてインターハイに出場した。8月半ばにはスピードが特長のサイドアタッカー・大下蒼生が同校史上初のプロサッカー選手として、来年1月から湘南ベルマーレでプレーすることが内定。目覚ましいスピードで強化を進めていくチームは、いかにして一から作り上げられたのか。2020年度に山梨学院を全国高校サッカー選手権優勝へ導き、2022年からチームに携わる長谷川大監督に話を聞いた。
無名高として挑んだ初の全国。それでも「もったいなかった」
「もったいなかったなぁ」
7月25日のインターハイ初戦を終えた後、長谷川大監督は苦笑いを浮かべながらもその目には本気の悔しさを感じさせた。
誤解を恐れずに言えば、無名高で初出場。プレッシャーはなく、チャレンジャーとして初の全国舞台に乗り込んだ。相手は宮城の聖和学園。何度も対戦をしている相手であり、自身が指導者として最も長く過ごした秋田商業時代からよく知るチームだ。加見成司監督とも付き合いは長く、デビュー戦の相手としては何か運命めいたものを感じられずにはいられなかった。試合は前半のうちに2失点。前線からの守備がハマらず、高い位置から攻守でアグレッシブに戦うスタイルを見せられなかった。それでも、後半は怒涛のラッシュで追いつき、残り時間を考えれば十分に逆転もある展開。しかし、最後の最後に失点を喫し、帰路につくこととなった。
初勝利は冬に持ち越しとなったが、誰もが驚くようなスピードでチームは力をつけたのは事実。2022年にダイレクターとしてチームに関わり、正式に長谷川監督が指揮を執り始めた23年の時点では県4部リーグにいたチームとは誰も思わないだろう。では、いかにして長谷川監督は一からチームを鍛え上げたのだろうか。
俺たちが練習しているトラックの中に、なんでサッカー部が?
秋田商で18年間指揮をとった長谷川監督は神奈川大などで監督を務めたのちに、2020年度から山梨学院の指揮官を務めた。山梨学院史上2度目の日本一を成し遂げた翌年までチームを預かると、退任後はJFA公認S級コーチライセンス(現JFA PROライセンス)の取得を決断。さらなる高みを目指して様々な指導現場に顔を出すなかで、一つのオファーが舞い込む。豊川高校サッカー部からのオファーだった。当時の豊川は県4部リーグ。駅伝部や野球部のように強化をしておらず、ここから本格的な強化に力を入れていくタイミング。指揮官を探すなかで、白羽の矢が立ったのが、長谷川監督だった。
人工芝のグラウンドはもともとあり、サッカー部専用の寮も新設されている。一からチームを強化していくにあたって、この上ない環境だったのは間違いない。だが、ここからが本当の苦しみだった。
2022年度はテクニカルアドバイザーとしてチームに関わったのだが、いざグラウンドに顔を出してみると、難しい問題がいくつもあった。長谷川監督は当時を懐かしそうに振り返りつつ、こう話した。
「人工芝のグラウンドを持っていたし、ここからやるぞっていう本気度もあった。ハード面も有効に使えるし。でも、いざ練習に来てみると、最初は本当に大変だった。駅伝部を筆頭に陸上部がトラックを使っている。そのトラックの内側のサッカーグラウンドを使うことになるんだけど、練習中に駅伝とか陸上の部員がサッカーが練習しているそのグラウンドの中を普通に横切っていくんだよね。
それでめちゃくちゃ俺も他の部活動に対して最初に伝えたんですよ。『自分の家の庭にそうやって勝手に入っていく人はいないだろ。俺たちが練習している時になんで入ってくるんだ』。今までそんなことを言われたこともなかったんでしょうね。もっと言えば、『俺たちが練習しているトラックの中に、自分の家の庭に、なんで志の低いサッカー部が偉そうに入ってるんだよ』って思っていたんだと思います。
私も、今までの豊川の部活動の背景をまったく考えずに、自分だけの視点で『使用の平等性』を訴えてしまっていました。駅伝や陸上と同じように『日本一』を目指すことで、まずは他部からその志を認めてもらえるようにならなければ、ここでは何も始まらないと思ったんです」
テクニカルダイレクターとして学校にやってきた1年目。このエピソードからもわかるように、決してサッカー部のプライオリティーは高くなかった。監督となった2年目も問題は山積み。長谷川監督のもとでサッカーをやりたいという決意で入学してきた新入生が大勢いた一方で、2、3年生はもともといた選手。決してレベルが高いとはいえず、保護者からも「うちの子は豊川だったら試合に出られるかもしれないと思ってきたのに、そうなったらもう試合に出られないじゃないですか」という声が上がったという。だが、長谷川監督はここで見事な手腕を発揮する。保護者の前でこう宣言した。

既存選手を鍛え、地元の選手が通いやすい環境も創出
「何を言っているんですか。あなたたちの子どもも絶対できますから」
自身がスカウトしてきた1年生ではなく、今までいた選手たちを徹底的に鍛え上げたのだ。すると、冬の高校サッカー選手権予選ではベスト8入り。「どんな子でもできる」。そこからスタートして、結果を残すと、1年ごとにリーグのカテゴリーを上げていく。翌年は3部、2025年度は2部を戦い、迎えた今季はついに県1部リーグに参戦するまでになった。
一方でサッカー面だけを鍛えて、今の力を備えたわけではない。地域との連携があったからこそ、わずか数年で全国大会出場に手が届くチームになった。菅原由勢らを輩出したASラランジャ豊川とタッグを組み、同クラブで監督を務めている宮澤淳氏をヘッドコーチに招聘。地元の選手が通いやすい環境を整えた。「チームを勝たせて全国へ連れて行く」と自ら立てた目標を3年次に達成した大下蒼生も、ラランジャ豊川から加入し、1年次からチームを牽引してきた。
さらに地域に根差したチームを目指すべく、人間教育の一環としてボランティア活動にも力を入れたという。その意図について、長谷川監督はこう話す。
「山梨学院の時もそうだったけど、サッカーだけではなく、真の日本一を目指したい。サッカー以外の部分でも、勉強だって、生活だって、チームワークだって、いろんなところで日本一の取り組みをしていきたい。競技力向上だけで日本一を目指すわけではないんです。地域貢献だったり、生活面も含めて日本一になりたいと言う気持ちを持ってやっているから、本当に優勝を勝ち取れたりするんです」
「豊川で監督をやりたいと思ってくれる子が…」
実際に月1回、地域貢献という名称で豊川市の各所をクリーンアップする活動をしたり、地元の企業とタイアップも積極的に実施。これまでは豊川高校と言えば、水泳、野球、駅伝のイメージが強かった。サッカーで全国を目指しているというイメージを誰も持っていなかっただけに、そうした取り組みを通じて自分たちを知ってもらう機会の創出にもなった。卒業後に社会人として生きていく上で、選手たちにとっては大事なことを学ぶ場として貴重な体験となっている。
「プロを目指すのはもちろんだけど、子どもたちにはいろんな場所で頑張ってもらいたい。先生になって指導者としてサッカーを教えたいという生徒も出てきてほしいし、豊川で将来監督をやりたいと思ってくれる子が出てきたらうれしい。サッカーを取り巻く環境が変わっていく中で、真剣に生き方を考えていくチームにしたいんです。サッカーを大学で続ける子も少なくて、プロになりたいと思う子もこれまであまりいなかった。でも、プロサッカー選手を育てたいし、日本代表に選ばれるようなプレーヤーも出てきてほしい。そして、ビジネスマンとしてのプロも出てきてほしいし、全員がそれぞれ生きていく場所で主役になれるような人間になってもらいたいんです」
そうした地道な取り組みを経て、チームは徐々に変わり始めている。全国大会出場という結果も出し、大下蒼生は来年1月から湘南でプロのキャリアをスタートさせる。だが、夢や志はまだ道半ば。
「学校創立100周年まであと3年。少しずつ芽が出てきたと思っているので、ここからの3年がまた大事ですね」
笑顔を見せた長谷川監督の挑戦はまだ始まったばかり。地元と共に歩む、豊川高校でどんな物語を紡いでいくのか注目したい。
<了>
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[PROFILE]
長谷川大(はせがわ・だい)
1973年生まれ、秋田県出身。豊川高校サッカー部監督。中央大学を卒業後、秋田商業高校に赴任し、サッカー部のコーチ・監督を務める。2004年から監督として6度選手権に出場。その後は仙台育英高校、丸岡高校などで臨時コーチを務めたのち、2014年より神奈川大学の監督、2018年より山梨学院大学のヘッドコーチなどを経て、2019年より山梨学院高校の監督に就任。2年目となる2020年度の全国高校サッカー選手権大会で同校を11年ぶり2度目の優勝に導く。その後、国際基督教大学サッカー部スポーツダイレクター、仙台大学サッカー部テクニカルアドバイザーを歴任。2022年度のテクニカルアドバイザー就任を経て、2023年4月に豊川高校サッカー部監督に就任。神奈川大監督時代には伊東純也や金子大毅らを輩出した。
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