箱根5強・國學院大を熱く支える「日本発ブランド」SVOLME社長のこだわりと挑戦
間もなく開幕する、第96回箱根駅伝。これまでに数々のドラマを生み出してきた日本の正月の風物詩は、令和初となる今大会でどんな結末が待っているのだろうか。
その中で、前回大会で7位と歴代最高位を記録し、今大会では「5強」の一つに挙げられているのが、國學院大學だ。前田康弘監督のもと「歴史を変える挑戦」を掲げ、今年の出雲駅伝で初優勝を飾っている。この2年間で見せている著しい躍進に注目が集まると同時に、もう一つ、同校が話題になっていることがある。ウェアだ。インターネット上でも「かわいい」「おしゃれ」と話題になったそのウェアを提供しているのは、『SVOLME』。サッカーやフットサルのファンやプレーヤーにはおなじみのブランドだ。
なぜ“サッカー・フットサル”のSVOLMEが、國學院大學陸上競技部とパートナー契約を結んだのか。その背景にある「日本発ブランド」ならではのこだわりと挑戦について、同社代表取締役の渡邉祐二氏に話を聞いた。
(インタビュー・構成=花田雪、撮影=軍記ひろし)
根源的にある理念は「作り手である自分たちがユーザーであるべき」
――SVOLMEはもともとサッカー、フットサルのカテゴリからスタートし、2016年にランニング業界に参入されました。その経緯を教えてください。
渡邉:我々のベースにあるのは「作り手である自分たちがユーザーであるべき」という理念です。サッカー、フットサルについては私自身が子どものころからプレーしてきて、「自分だったらこういうウェアが着たい」という思いが根底にありました。そんな中、2012年頃からサッカーになかなか時間を割けなくなってきて、そこで始めたのが「走る」こと。当時、シンガポールに店舗があったのですが、社員と一緒に地元のマラソン大会に出場したんです。自社のサッカーウェアを着て参加したのですが「パンツの丈がちょっと長いな」「ウェアが少し重いな」など、いろいろと感じることがあったんですね。であれば、自分たちで理想に近いウェアを作ってみようと。それが、そもそものきっかけです。
――実際に自分たちがユーザーとなり、そこで感じたことを製品に落とし込む。
渡邉:そこは常に意識しています。例えばよく「ゴルフウェアは作らないの?」と言われることがあるのですが、私自身、プレーはしますが、のめり込むほどではない。そうなるとどうしてもユーザー目線を持てないので。
――ランニングには「のめり込む」ことができた。
渡邉:そうですね。これまで、フルマラソンだけで20回くらいは走っていると思います。一度だけサブ4(4時間以内)を出すことができたのですが、そこからタイムが伸びないのが今の悩みですね。ただ、それも多くの市民ランナーが抱えている悩みじゃないですか。そういう感覚は、大切にしたいと思っています。
ウェアの提供だけではない、「熱くなる」サポート
――2019年5月からは國學院大學陸上競技部とオフィシャルパートナー契約を結びました。
渡邉:自分の出身大学であるという縁がまずあって、私自身も母校に何かしらの貢献をしたいという思いが強くありました。前田康弘監督とも面識はなかったのですが、たまたま同い年だという共通点もあってすぐに意気投合できました。
――具体的なサポート内容は?
渡邉:ウェアやアップシューズの提供などが主ですが、大会時にはいろいろとサポートさせていただくこともあります。國學院大學が初優勝を飾った今年度の出雲駅伝では、スタッフが少なかったこともあってアンカー区間でのタイム読み(編集部注:ランナーに通過タイムや前を走る選手とのタイム差を伝える役割)という大役を任せてもらいました。
――それはなかなかの重責ですね。
渡邉:通過時点では(アンカーの)土方英和選手は3位だったのですが、そこから逆転しての優勝。私も自転車でゴール地点まで向かって、ギリギリ間に合うことができました。ゴール直前、コーナーを曲がって土方選手がトップで現れたときには、本当に興奮しましたね。
――前田監督も「メーカーさんでこんなに熱くなってくれる人はいない」とおっしゃっていました。
渡邉:2019年の箱根駅伝も現地で応援させていただきました。5区でメガホンを持って選手に声援を送っていたのですが、あとで「テレビに映っていたよ」と知人からも言われました。今年も1区、5区で応援する予定なのですが、自社で応援Tシャツも作ったのでそれを着るつもりでいます。
――チームに提供するウェアなども、こだわりがあるのでしょうか。
渡邉:これはサッカー、フットサルも含めた我が社の商品すべてに言えることなのですが、いわゆる「機能性」も含めてすべてが「デザイン」だと考えています。ただ、競技に特化させるという意味では、例えば軽量化や着心地、素材なども含めて試行錯誤することは多いですね。「軽量化」だけを考えればある程度軽くすることは可能ですが、そうすると強度が落ちてしまったり、着心地も変わってくる。もちろん軽いに越したことはありませんが、そこはバランスを見る必要があります。夏用と冬用で違うウェアを提供するなど、少しでも選手たちのサポートができるように考えています。
――選手の要望はもちろん、トレンドなども取り入れる必要がある。
渡邉:例えば今は、タイツをはいて走る選手が多いのですが、チームから「こういうものが欲しい」という要望があったときにはなるべく柔軟に対応できるように心がけています。その上で、丈やサイズ感などはヒアリングして細部を詰めていくイメージです。
ビジネスを超えた気持ちで応援する気持ちが強い
――近年、長距離界ではナイキの厚底シューズ「ヴェイパーフライ」が大きな注目を集めています。SVOLMEも今後、シューズの開発には力を入れていくのでしょうか。
渡邉:もちろん、ウェアだけでなくシューズの開発も進めています。ただ、まだまだノウハウや技術面での課題も多いですし、焦る必要はないと考えています。出すからにはしっかりとしたものを出したい。インパクトのある商品、時期を考えながら進めていきたいですね。
――ランニング業界の技術革新は年々加速しています。そんな中でSVOLMEが持つ“強み”を教えてください。
渡邉:決裁までの時間があまりかからない、というのは大きいと思います。会社としての規模がそこまで大きくないので、例えば世界的な企業などと比べると、フットワーク軽く、製品の開発に取り組める。「こんな素材がある」「こんな機能がいいんじゃないか」というアイデアが、すぐに私のところに届く。大企業ではない分、そのスピード感はアドバンテージになるのかなと。
――逆に、ランニング業界での商品展開における今後の課題は。
渡邉:会社として取り組んでいるのは認知の拡大です。年間300日以上走っているような方でも、まだまだ「SVOLME」の名前を知らない方は大勢います。そのあたりは大会協賛なども含めて、地道にやっていく必要があるなと感じています。
――サッカー、フットサルと比較して、マーケティング面で難しい部分はあるのでしょうか。
渡邉:単純に、人数の差ですね。例えばサッカーの場合、チーム単位で商品を提供できた場合、その時点で最低でも11人に自社の存在を知っていただくことができます。当然、そこからの広がりも早い。ランニングは個人競技ですから1人に自社の商品を知ってもらえても、すぐには広まっていかないなと。國學院大學さんのようにチーム単位でのパートナーとなると少し変わってはきますが、エンドユーザーを対象として考えた場合、そこのスピード感はサッカーよりも遅い分、地道な認知拡大がより重要になってくると考えています。
――1月2、3日に行われる箱根駅伝では國學院大學が大きな注目を集めています。
渡邉:以前は箱根駅伝といえば「正月になんとなくテレビで見るもの」というイメージでした。國學院大學が強くなってからはテレビで応援するようになりましたが、実際にチームのサポートをさせてもらうようになってからは、付き合い方も大きく変わりましたね。ただ、ビジネスを超えてシンプルに応援したいという気持ちの方が強いかもしれません。
――今年は渡邉社長の母校・國學院久我山高校が全国高校サッカー選手権大会に出場します。年末年始は大忙しですね。
渡邉:國學院久我山は母校でもあり、もちろん開幕戦から応援に行く予定です。それ以外にもサポートしている学校もあるので、年末年始はサッカー、それに箱根駅伝と応援に飛び回る予定です。忙しいですけど、楽しいので苦にはならないですね(笑)。
――最後に、箱根駅伝を走る國學院大學の選手たち、そして前田監督へメッセージをお願いします。
渡邉:今回は大会前から注目されて、プレッシャーも大きいと思います。でも、だからこそいつも通りのスタイルで戦ってほしいですね。私も沿道から、精いっぱい応援します。
<了>
箱根駅伝、國學院大は歴史を変えるか? 前田監督が語る「往路優勝・総合3位」の戦略
箱根駅伝・総合優勝ランキング2位は青学、1位は…? 出身高校は兵庫の名門が最多、大河の舞台も!
サニブラウンが速くなったのは「急に」でも「驚き」でもない。9秒台連発の“走り”を紐解く
理系のお父さん・お母さんのためのかけっこ講座① “理系脳”でグングン足が速くなる3つのコツ
マラソン札幌開催は「当然」の決定だ。スポーツの本質を踏み躙る「商業主義」は終わりにしよう
池江璃花子を、聖火最終ランナーに!国民皆で応援重ねる、これほど相応しい人はいるか
[アスリート収入ランキング2019]日本人唯一のランクインは?
PROLILE
渡邉祐二(わたなべ・ゆうじ)
1977年7月21日生まれ。株式会社SVOLME代表取締役。幼少期からサッカーを始め、國學院久我山高校サッカー部、國學院大学サッカー部を卒業。その後文化服装学院・アパレル会社を経て、2006年に株式会社VOLUME(現・株式会社SVOLME)を設立。「スポーツを通じて健康と幸せを提供する」を理念に、「日本発」のスポーツブランドとしてサッカー、フットサル、ランニングを中心にウェア・シューズを展開している。
この記事をシェア
KEYWORD
#INTERVIEWRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
築地市場跡地の再開発、専門家はどう見た? 総事業費9000億円。「マルチスタジアム」で問われるスポーツの価値
2024.05.08Technology -
競技人口1億人、プロリーグも活性化。アームレスリング世界女王・竹中絢音が語る競技発展のヒント
2024.05.07Opinion -
世界最強アームレスラー・ 竹中絢音の強さのルーツとは?「休み時間にはいつも腕相撲」「部活の時間はずっと鉄棒で懸垂」
2024.05.02Training -
Wリーグ決勝残り5分44秒、内尾聡菜が見せた優勝へのスティール。スタメン辞退の過去も町田瑠唯から「必要なんだよ」
2024.05.02Career -
卓球・最強中国に勝つための“新機軸”。世界が注目する新星・張本美和が見せた「確率の高いパターンの選択」
2024.05.01Opinion -
世界一の剛腕女王・竹中絢音が語るアームレスリングの魅力。「目で喧嘩を売っていると思います、常に(笑)」
2024.04.30Career -
沖縄、金沢、広島…魅力的なスタジアム・アリーナが続々完成。新展開に専門家も目を見張る「民間活力導入」とは?
2024.04.26Technology -
なぜ横浜F・マリノスは「10人でも強い」のか? ACL決勝進出を手繰り寄せた、豊富な経験値と一体感
2024.04.26Opinion -
ラグビー姫野和樹が味わう苦境「各々違う方向へ努力してもチームは機能しない」。リーグワン4強の共通点とは?
2024.04.26Opinion -
バレー・髙橋藍が挑む世界最高峰での偉業。日本代表指揮官も最大級評価する、トップレベルでの経験と急成長
2024.04.25Career -
子供の野球チーム選びに「正解」はあるのか? メジャーリーガーの少年時代に見る“最適の環境”とは
2024.04.24Opinion -
子育て中に始めてラグビー歴20年。「50代、60代も参加し続けられるように」グラスルーツの“エンジョイラグビー”とは?
2024.04.23Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「学校教育にとどまらない、無限の可能性を」スポーツ庁・室伏長官がオープンイノベーションを推進する理由
2024.03.25Business -
なぜDAZNは当時、次なる市場に日本を選んだのか? 当事者が語るJリーグの「DAZN元年」
2024.03.15Business -
Jリーグ開幕から20年を経て泥沼に陥った混迷時代。ビジネスマン村井満が必要とされた理由
2024.03.01Business -
歴代Jチェアマンを振り返ると浮かび上がる村井満の異端。「伏線めいた」川淵三郎との出会い
2024.03.01Business -
アトレチコ鈴鹿クラブ誕生物語。元Jリーガー社長が主導し「地元に愛される育成型クラブ」へ
2024.01.12Business -
決勝はABEMAで生中継。本田圭佑が立ち上げた“何度でも挑戦できる”U-10サッカー大会「4v4」とは
2023.12.13Business -
アメリカで“女子スポーツ史上最大のメディア投資”が実現。米在住の元WEリーグチェアに聞く成功の裏側
2023.12.12Business -
1300人の社員を抱える企業が注目するパデルの可能性。日本代表・冨中隆史が実践するデュアルキャリアのススメ
2023.12.01Business -
東大出身・パデル日本代表の冨中隆史が語る文武両道とデュアルキャリア。「やり切った自信が生きてくる」
2023.11.30Business -
なぜ東京の会社がBリーグ・仙台89ERSのオーナーに? 「しゃしゃり出るつもりはない」M&A投資の理由とは
2023.11.28Business -
「プロチームを通じて地域を良くしてほしい」モンテディオ山形が取り組む、地域を活性化する“若者への投資”
2023.10.07Business -
学生×プロクラブが生み出す相乗効果。モンテディオ山形はなぜ「U-23マーケティング部」を発足させたのか?
2023.10.07Business