「バックスイングがない」18歳・面手凛は現代卓球を変えるか。新世代に起きている新たな現象
「まるでバックスイングがない」――。2026年春、高校卓球の現場でそんな声が上がっていた。台に張りつき、超高速で打点を奪い合う現代女子卓球。その進化の最前線にいるのが、世界卓球団体戦で初の日本代表入りを果たした18歳・面手凛だ。前陣から離れず、異様なテンポで打ち続けるプレースタイル。フランス戦で味わった苦戦。そしてクロアチア戦で見せた“世界基準”。面手凛は突然現れた異才なのか。それとも、日本女子卓球が辿り着いた「必然」なのか。
(文=本島修司、写真=ロイター/アフロ)
今後の“キーマン”となる面手凛の選出
4月28日~5月10日。世界卓球2026団体戦がロンドンで開催された。
今大会は日本代表選手発表の段階から女子に大きな注目が集まった。長く日本女子卓球の「顔」となってきた伊藤美誠と平野美宇がいないのだ。これを受けて早田ひなが「来年、再来年は私もいないかも」と発言。大きな話題となった。
女子の代表選手は、橋本帆乃香、早田ひな、長﨑美柚、張本美和、そして面手凛というメンバー。中でも異彩を放ったのは18歳、初の代表入りとなった面手凛だろう。
現在の好調さ。国際試合での経験。若返り。さまざまな選考要素があったと考えられ、どれを加味しても、興味深いメンバーで挑むことになった今回の世界卓球。
その中で今後の“キーマン”となる面手凛が見せた可能性とは。打倒中国への新たな起爆剤となりうる、世界卓球の水面下ですでに起きていた高校生世代を中心とした日本女子卓球の変化に迫る。
「バックスイングがない」。時代の流れが生んだ“必然”
面手凛。この春に山陽学園高校を卒業し、日本生命に入社した18歳だ。しかし、大舞台での経験値は幼少期から豊富な選手でもある。
小学生時代には、2017年全日本選手権カブの部で優勝。ここから中学時代、高校時代と、全国大会の上位の常連となる。そして集大成といえる高校最後の2025年インターハイの女子シングルスで優勝。名実ともに同世代のナンバーワンの座についている。
注目すべきは、その独特なプレースタイル。台にビッシリと張りついて、両ハンドの切り返しが速い。絶対に後ろに離れないような意志を感じられるピッチの速さだ。
ピッチが速い卓球は女子卓球における世界的な傾向と特徴でもあるが、ここまで異様にピッチが速いと、前陣速攻型のペンホルダーと見間違うほどだ。
それだけではない。その特徴はさらに際立っている。近年の女子卓球はピッチの速さを突き詰めるがゆえに、バックスイングがどんどん小さくなっている傾向が見て取れるのだ。
重要な一例がある。2026年の高校選抜全国大会。5番手までもつれ込んだ女子団体の決勝戦。優勝した四天王寺高校と星槎横浜の一戦は、その会場にいた全国大会の常連である他高校の監督が「まるでバックスイングがない」と評していた。それほどまで圧倒的な“ピッチの速さ”に特化されていたのだ。
この傾向は男子卓球にも現れてきているというが、特に女子卓球ではわかりやすく顕著に見て取れる。面手の一見独特なスタイルは、こうした近年の女子卓球から生まれた「必然的なスタイル」とも言えそうだ。
世界卓球団体戦の代表選考会。面手は準決勝で、同じく代表入りする長﨑美柚に3-1で完勝。決勝戦では木原美悠を負かして勝ち上がってきた四天王寺高校が誇るエース髙森愛央にも完勝。代表選考会を優勝で決めて今回の代表入りを果たした。
ベールを脱いだ面手凛の「可能性」と「課題」
世界卓球・予選リーグ、第2戦。フランス戦の3番手で面手は初めて日本代表としての試合に挑んだ。相手はユエン・ジアナン。
しかし、そこには緊張を感じさせる固い動きで、いつもの強さとはまるで違う面手がいた。
第1ゲーム。7-3とリードするも、得意の前陣でも相手の返球の多さに四苦八苦。相手が駆使する、投げ上げサーブにも翻弄されて9-11と落としてしまう。
第2ゲーム。少し力んでいるのか、面手はフォアハンドを強く振ってミスが多く出る展開に。3-4と序盤からリードを許す展開。得意とするバックミートの打ち合いでも先に根負けしてしまい、6-9。そのまま最後もフォアに来たサーブを思い切り強打してしまいネットへ。6-11で取られる。
第3ゲーム。バックミートがストレートに入るボールが走り出す。本来は裏面打法のこれが決まるのが持ち味だ。11-8と取り返す。
第4ゲーム。ユエンにエンジンがかかる。両サイドにしっかり打ち分けられて1-2。それでも、このゲームは面手もリードされても粘り強さは見せた。しかし、レシーブミスが出て4-9。そのまま6-11で押し切られてしまう。
特に最後の一本は、面手のいつもの立ち位置よりずっと後ろに「下げられて」の攻防。相手のプレーも素晴らしい安定感があったが、面手は本来の実力が出せなかった印象だ。
しかし、そんな面手凛にもう一度チャンスは訪れる。
試合後に「もう一度使っていただけた」と本人が話したように、日本代表の中澤鋭監督も、このままでは面手は持ち味をまったく出せなかった印象だけで終わってしまうことを考慮し、再びチャンスを与える判断をしたのではないか。
クロアチア戦で見せた“本当のデビュー”
ノックアウトステージ1回戦、クロアチア戦。3番手のパブロビッチ戦で、ついに面手凛が「本当の意味での世界卓球デビュー」を果たす。面手はここで圧巻の結果を出した。
当然のことながら、張本や早田を有する日本女子にとって、今大会、決してエース格というわけではない。それが面手の立場だ。それを加味すれば大会終盤での出番はおそらくないだろう。つまり、ここで勝つか負けるかで今後の「面手は世界で通用するか」を占う一戦となった。
そしてこの試合の結果は3ー0という“圧勝劇”に終わる。
第1ゲームは、巻き込みサーブが効いた。そこに精度が上がった独特のバックフリックを混ぜる。立ち位置は台に“ベタづけ”だ。隙なしの9連続ポイントから、11-2で決める。
第2ゲームも、前半から大量リードで8-2。パブロビッチも投げ上げサーブの使い手だが、面手はどんな揺さぶりにも動じず、前陣で“こらえ切る”本来のプレーを見せた。11-2。
第3ゲーム。パブロビッチもバックミートで粘りを見せてくる。しかし面手の前陣バックフリックから、バックスイングがないフォアミートはまったく乱れなかった。11-9で、この試合を決めた。
フランス戦とは違い、いつもの前陣にがっちりと張りつき、普段の日本での戦い方と変わらぬ戦い方を披露できれば面手の力は世界でも十分通用することを見せた瞬間だった。
この試合ぶりには「最近まで高校生だったとは……」という解説とともに、誰もが「これならやれる」という手応えをつかめたのではないか。
もちろん、世界ランキング23位のフランスも34位のクロアチアも、近年目覚ましい活躍を見せ、ランク1位・中国の背中を追っている2位の日本女子にとっては強敵というわけではない。それでも、「いつもの力を出せれば面手は世界でも戦える」というシーンを見せたことは新世代の扉が開いたことを意味する。
この「バックスイングがない」とすら思えるほど小さい、面手を筆頭とした「新世代女子スタイル」。さらに強敵を相手に勝ち始めれば、最強中国はどんな対策をしてくるのか、対策をしてきた中国ともやり合える卓球なのか。このあたりも興味深い。
張本も面手と同世代だが、戻りの速さを極めながら、バックスイングがどんどん小さくなっている張本とはまたひと味違う面手のスタイルが、これから世界で注目を浴びそうだ。
世代交代。その前に、絶対に忘れたくない2人
近年、日本の女子卓球を牽引してきたのは間違いなく伊藤美誠と平野美宇だった。
パリ五輪で躍動を見せた平野美宇。完全復活すれば中国が最も恐れているはずの伊藤美誠。この2人もまだまだ健在だ。彼女たちはこれまで休む間もなく走り続けてきた。一度外れたことで、「もう一度」と奮起するタイミングが必ず訪れるはず。
そしてこの2人の気持ちを誰よりも噛みしめて背負うのが、同期の早田ひなだろう。今では張本美和とのダブルエースという存在だが、彼女の世界戦での経験値は誰よりも秀でている。
世界卓球で中国からワンポイント起用で勝利を挙げた橋本帆乃香の華麗なカットマンの存在感も際立った。
もちろん、打倒中国の要となるのは張本美和。そこに面手凛という起爆剤が、これから日本の女子卓球に新たな“スパイス”として加わる。日本国内だけでも群雄割拠だ。
面手凛は、突然現れた異端ではない。女子卓球が“超高速化”の先にたどり着こうとしている、新時代の象徴なのかもしれない。
18歳の挑戦は、ここからが本番だ。
<了>
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