進化を止めない早田ひなの現在地。“女王だからこそ逃げない”新しいエース像

Career
2026.07.01

「来年、再来年、この場にいるかわからない」。5月の世界卓球前、そう口にした早田ひなには、日本女子卓球の熾烈な代表争いへの危機感がにじんでいた。だからこそ彼女は、世界ランキングに頼らず日本代表選手選考会へ出場し、自らの現在地を確かめる道を選んだ。その後、WTTスターコンテンダー・リュブリャナで張本美和との直接対決を制し、朱雨玲との激闘も制して優勝。現在開催中のWTT USスマッシュでもここまで順調に勝ち上がっている。そんな彼女が見せてくれているのは“女王”であり続けようとする姿ではなく、一人の競技者として自分自身と向き合い続ける覚悟だった。

(文=本島修司、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)

女王が逃げなかった「今の実力」と向き合う覚悟

6月に開催されたWTTスターコンテンダー・リュブリャナ。早田ひながシングルスとダブルスで優勝。2冠を達成した。5月開催の世界卓球前には、同学年の伊藤美誠や平野美宇が選出されなったことを受けて、「私も来年、再来年この場にいるかわからない」という言葉で、今の熾烈な日本代表争いの厳しさを語っていたが、改めてその強さを示す結果となった。

早田ひなは張本美和と並ぶ、現在の日本女子卓球界をけん引する存在。2人の女王というイメージがある。しかし、この大会の前にはあえて日本代表選手選考会に出場して後輩たちが急成長を遂げる中で、さまざまなタイプの選手たちと対峙し、今の自分の実力を直視することから逃げない姿勢も見せていた。

彼女が才能あふれる後進と真正面からぶつかり、女王自らも進化し続けようとするその姿から見える日本卓球界の明るい未来。そして卓球選手の本当の選手寿命とは。

張本美和戦で見えた、新しい早田ひな

6月21日に行われたWTTスターコンテンダー・リュブリャナ、女子シングルス準決勝。早田の相手はライバルであり、ダブルスパートナーでもある張本美和。

第1ゲーム。序盤から早田は代名詞のチキータで張本に攻め込んでいく。張本も切れている下回転を台から出るか出ないかの長さで出しながら、早田のミスを誘い2-4と張本にリードを許してこの試合が始まった。バックの打ち合いで5-5に追いつくと、早田はこれまでに見せていなかったコース、ラリーからフォアのストレートを打ち抜いた。そのまま、長い順切りのサーブを張本のミドルに食い込ませていく早田。11-9でこのゲームを勝ち切る。

第2ゲーム。ここも0-2と張本にリードされて開始。早田はバックドライブをストレートに打ち込み、続いてバックミートをクロスに打ち込むパターンを駆使。パリ五輪での左腕の負傷後、世界卓球・団体戦決勝の舞台でも振り切れなかったバックハンドを今回は振れている。

中盤の7-7の場面では、フォアハンドから一瞬で体を切り返しての一発をバックミートで決めた。ここでもバックを振ることを躊躇している様子はなく、ここ数試合の早田のプレーを見ていると痛みの影響が以前より小さくなっているようにも見える。

9-8ではフォア側に移動してサーブを出し、これがサービエースになるなど工夫も重ねていく。10-10とジュースになるとここで早田が今までにない姿を見せた。YGサーブだ。11-11からももう一度YGサーブを使った。

この試合、大事な場面でYGサーブを連発している。場面によっては張本にしっかりと見切られてフォアの強打も打たれてしまったが、これは今までにない戦い方。明らかに新しいスタイルを模索しているのがわかる。15-13。この試合の山場となった第2ゲームも早田が取り切る。

パリ五輪以降、最も勝負強さを感じさせた一戦

迎えた第3ゲーム。ここも序盤はサーブを左右に出し分けながら2-0と張本がリード。張本も簡単には引き下がるわけにはいかない。このゲームは張本のプレー全体の粘りも増しており、張本はドライブを連発して6-8と引き離す。

早田はここでは、巻き込みサーブの横回転でサービスエースを取る。そして、フォア側に移動して出す位置を変えてここでまたYGサーブを出す。これも縦横回転系で、張本のラケットが弾かれたかと思うほどボールが上に跳ねてレシーブミス。早田が8-8と追いつく。

試合の中でYGサーブが進化していく様子がうかがえる。そのまま両ハンドのラリーにも耐えきった早田。9-9からは再びYGサーブで今度はネットミスを誘う下回転系も見せ11-9で勝利。終わってみればこの試合を3-0で決めた。

準決勝で実現した張本美和との日本人女子最高峰の直接対決。そこを逃げずに真正面から戦って勝った早田。続く決勝戦では強豪、朱雨玲(マカオ)と激突し4―3で勝利。

この朱雨玲戦は、悲願のメダル獲得を決めたパリ五輪以降では、最も勝負強さを感じさせた試合の一つだった。張本との準決勝を乗り切った後の早田は、より一層輝きを増していた。

強さの源は「強気さ」だけではない「素直さ」

この日から、約1カ月前の5月27日。早田は埼玉の所沢体育館にいた。アジア選手権、ならびに2027年の世界選手権アジア大陸予選会への出場権を懸けた「日本代表選考会」に出場していたのだ。

アジア選手権には、世界ランキング日本人上位3選手に入れば出場権が得られるが、それでも早田があえて代表選考会に出場した理由として「自分が何か新しい自分として発見できたら」と語っている。結果は、予選リーグは2戦2勝で突破しながらも、翌日、決勝トーナメントの準決勝で赤江夏星に敗れた。

さらに遡ること数週間、5月10日に行われた世界卓球・団体戦決勝の中国戦では孫穎莎、王曼昱の“世界トップ2”に2敗を喫した。この出来事を「自分の卓球人生のなかでもけっこう引きずっている部分」であり、大会後しばらく卓球ができない状態であったと涙ながらに語っている。

世界では日本のエースとして中国に挑む立場だ。一方で国内では「次々と台頭してくる若手」たちから向かってこられる存在であり、そのすべてと真っ向から向き合う姿勢を見せているのが、今の早田ひなだ。

早田は以前にも国内大会をスキップせず、おろそかにしない自身の姿勢について「強くなるために試合がしたい」「常にチャレンジャーの気持ちで頑張りたい」と語っている。

そして張本と試合で見せたYGサーブの連発。試合に挑む姿勢の面でも、技術の面でも、常に「新たな自分」を模索していることがわかる。

もっと選手寿命が長くなる、日本女子選手の未来

近年、卓球界のトップ選手は入れ替わりが激しい。

20代中盤でベテランのように扱われる風潮もある。だが、好調不調の波はどの競技でも仕方がないこととはいえ、本来ならばフィジカル面が20代中盤で衰え始めるということはないはずだ。

それでも世代交代が進む。その要因は日本の卓球選手の層の厚さ、幼少期から鍛え込むという世界と戦うための育成システムの成功が影響している。次々に下の世代から新星が出現することは良いことでもある。

ただ、その時。それまで日本の卓球界を引っ張ってきた、まだ第一線で十分に戦える20代中盤~後半の選手はどうするべきか。今回の早田ひなの「姿勢」と「行動」はその指針の一つになるのではないか。

一度でもオリンピックでメダルを獲得したような選手は、ひとたび国内で負ければ「格下に負けた」などと言われることもあるだろう。国内の選手も十人十色。相性の良し悪しもあるし、コンディションの違いもあるし、なにより皆十分すぎるほど強いのだが、そうした風潮はある。

それでも早田ひなは逃げない。そして勝っても負けても常に自身に矢印を向けて進化し続ける。実績や世界ランキングではなく、あくまで「いち選手同士の今の実力」を直視して、現実から逃げない。

代表選考会は赤江夏星の思い切りのいいプレーが光った。そしてリュブリャナでは、張本美和との激闘を制した。満点の輝きを放つ本来の早田ひなが、少しずつ戻ってきた。

死闘となった決勝戦、朱雨玲を捻じ伏せた瞬間に大きく手を挙げた早田の笑顔は、これから多くの女子卓球選手が直面するであろう、「女王として、どんな姿勢で挑むべきか」。その指針となるはずだ。

早田ひなの笑顔は、これからすぐに同じ壁にぶつかるであろう後輩たちに、そのことを教えてくれているかのようだ。

<了>

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