ラグビー界の意外なリクルート事情。学生選手は何を基準にチームを選んでいるのか?

Career
2023.03.28

社員選手、プロ選手が混在するラグビー・リーグワン。チーム側が新加入選手を獲得する方法もさまざまだ。東京サントリーサンゴリアスは若者のハングリー精神を刺激し、クボタスピアーズ船橋・東京ベイは若者の共感を呼ぶ。では、いまの学生はいったい何を基準に行きたいチームを選択しているのだろう?

(文=向風見也、写真=Getty Images)

スティーラーズの一員として戦う大学生ティエナン・コストリー

岡山県の私立大学に通うニュージーランド人留学生が、日本ラグビー界有数の古豪で試合をしている。

ティエナン・コストリー。環太平洋大学の4年生選手ながら、コベルコ神戸スティーラーズの一員として国内リーグワンで第10節から2戦連続で先発した。

全国大学選手権への出場は、主将を務めた最終学年時のみ。いわば無名の存在だが、日本最高峰の舞台で持ち前の伸びやかな走りを披露した。流ちょうな日本語で所感を述べる。

「大学のラグビーとの一番の違いは、フィジカルの部分です。自分も身体を大きくして、このレベルに慣れないといけないと思います」

リーグワンでは、昨年12月開幕の今季からアーリーエントリーが用いられる。若手を伸ばすための制度だ。大卒予定の内定選手は、所定の手続きを踏めば卒業年度の選手権が終わってからすぐに公式戦へ出られる。コストリーが機会を得たのもそのためだ。

学生のリーグワンデビューは各地で発生した。

昨季に法人化したばかりの静岡ブルーレヴズは、京都産業大学の家村健太を正司令塔に据える。

日本代表の姫野和樹擁するトヨタヴェルブリッツは、慶応義塾大学初の留学生選手だったアイザイア・マプスアを起用。今季初昇格の三菱重工相模原ダイナボアーズでも、立正大学4年目まで進路の決まらなかった中森隆太が初陣を飾っている。

最上位層のディビジョン1では他に、NECグリーンロケッツ東葛が早稲田大学の吉村紘を抜擢。開幕12連敗を喫した花園近鉄ライナーズは、第13節までに2023年度組の全5選手を試合登録メンバーに加えた。

それぞれ早くからハイレベルの舞台に触れ、刺激を受ける。ある若手選手は言う。

「僕の時代からこの制度があってほしかったです」

「なぜ、同じチームにたくさんの選手が集まるのだ」の疑問

アーリーエントリーは総じて若手の選手層の拡大、中位勢脱却を狙うクラブで多用される。かたや優勝争いの主役となっている強豪では、おのずと既存選手が軸をなしている。

もっともリーグワンでの選手獲得は、あくまで自由競争のもと行われる。社員選手、プロ選手が混在するため、プロ野球界のドラフトのような仕組みはなじまない。

その結果、学生ラグビー界有数の注目株は、戦力の潤沢な上位チームへの加入を目指しがちだ。帝京大学のゲームメーカーとして選手権2連覇を果たした高本幹也も、名手ひしめく東京サントリーサンゴリアスでタフな競争に挑んでいる。

アーリーエントリーの発足に伴い、さまざまな背景の学生選手が早期デビューを果たしているいま、上位チームを選んだ選手はこんな趣旨で語られがちだ。

「なぜ、同じチームにたくさんの選手が集まるのだ」
「ほかに試合に出られそうなチームがあるじゃないか」

しかしラグビーの学生選手は、自身が誘われた、もしくは練習に志願参加できたチームのうち、もっとも行きたい場所を、自分で、選んでいる。

また試合の出場メンバーを選ぶのは、各クラブのヘッドコーチだ。各ヘッドコーチの選手の選考基準、外国人枠の活用方法、日本のアマチュアシーンへの造詣は千差万別。そのヘッドコーチとて、当該のチームでいつまで指揮を執るかはわからない。

「出られる」「出られない」で新天地を決めることも、選手層の厚いチームへ覚悟して入ることも、その後の運命が未知数である点では同じだ。

とにかく、人の数だけある決断の結果が、各クラブの公式発表に昇華される。

またレベルの高い選手を続々と集められるクラブは、そうするだけの資質を有する。

築き上げたクラブ文化で人を惹きつけるサンゴリアス

ではいまの学生は、何を基準に行きたいクラブを選んでいるのだろうか?

まず、毎年、きら星のごとき選手たちの加入でファンを驚かせるサンゴリアスでは、「子どもの頃からサンゴリアスのファンだった」という選手がいる。

雲山弘貴である。2021年度まで明治大学で躍動した雲山は、自身が務めるフルバックの位置で競争が激しいのを知ったうえで門をたたいている。

ちなみに雲山がいた頃の明大で指揮を執っていたのは、サンゴリアスOBで現監督の田中澄憲だ。それでも田中が雲山のサンゴリアス入りを後押しした事実は、決してない。田中はサンゴリアスの採用をしていた経験を踏まえ、大学の指導者が学生の進路選択に携わるのは得策でないと考えていた。

サンゴリアスは知名度とともに、築き上げたクラブ文化でも人を惹きつける。

現主将で日本代表の齋藤直人は、早稲田大学の3年となる2018年の春頃にサンゴリアスの練習へ参加した。その頃はちょうど、元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介氏が指揮を取っていた。

ある日のセッションの最中にエラーがかさんだのを受け、沢木氏は選手を集めて「ミスが多いから気をつけよう」と確認。その直後につい、齋藤は手元で球を滑らせてしまった。

大声で注意された。

たとえ練習生であっても、サンゴリアスの醸す「チャンピオンチームの厳しさというか、練習のきびきびしている、シビアな感じ」に触れることができた。

「いまになってみると、あの経験は大きかったです。それに練習の1時間前から準備(ストレッチなど)をする選手もいて、ウェイトの強度も高く、たまにわざと滑りやすいボールを使うなどすべてが新鮮でした」

「決して青田買いをしているわけではない魅力、中身のある組織」

選手の成長意欲に応えられる組織であれば、きっと選手が集まりやすい。

帝京大学の高本と選手権決勝を戦った早大主将の相良昌彦は、多くのクラブから「来てください」と請われるなか、声のかからなかったサンゴリアスへ入るべく自らクラブへ接触した。

「自分は、自分に甘いタイプだと思うので、一番、厳しい環境に行こうかなと」

その際の首脳陣は獲得に消極的だったようだが、当時ゼネラルマネージャーだった田中は本人の意欲を買った。現場を統括する自らの権限を生かし、練習に参加させた。

本人には「試合には出られないかもしれない。それでもいいのか」と何度も念を押し、「来てもいい」と告げたのである。監督となった田中は言う。

「入りたいという選手が来て、一生懸命やり、ゲームに出ていくのがベストです。それができなかったとしても、サンゴリアスや仕事で何かしら貢献していく……というのがうちのいいところです。決して青田買いをしているわけではない。(学生が入りたがる)魅力、中身のある組織だと、僕らは思っている」

スピアーズのコーチ陣があらかじめ練習参加選手の映像をチェック

若者のハングリー精神を刺激するクラブがある一方、若者の共感を呼ぶクラブもある。

2季連続国内4強入りと躍進するクボタスピアーズ船橋・東京ベイは、練習に加わる学生を温かく歓迎することで知られる。

2022年度加入の押川敦治は、帝京大の選手だった頃に船橋市内のグラウンドへ訪れた際の思い出を語る。

「『攻撃のラインを前に出すのが持ち味だと思う。それをさらによくするにはこういうスキルを練習したほうがいいよ』という風にアドバイスしていただきました」

南アフリカで指導経験の豊富なフラン・ルディケ ヘッドコーチ、元日本代表スタッフの田邉淳アシスタントコーチが、あらかじめ自身の映像をチェックしていたと知る。プレースタイルを把握してもらったうえで、強みを生かすためのアドバイスをもらえたのだ。

いざ正式に加入すれば、オーストラリア代表76キャップ(代表戦出場数)のバーナード・フォーリーら希代の名手が、親身に関わってくれた。ただリーグワンの選手になっただけでなく、リーグワンで持ち味を発揮する選手になれそうな感覚を得られる。

足しげく明治大学の早朝練習へ通った熱心なスカウトの存在

スピアーズでいえば、熱心なリクルーター陣の存在も忘れられない。

前川泰慶・採用兼チームマネージャーは、今季のリーグワンでトライランク上位の木田晴斗を立命館大学1年目の春に見つけている。

大阪府予選1回戦敗退の関西大倉高校出身という無印の星は、そのシーズンから関西大学Aリーグで活躍。間もなく複数クラブから注目されたが、選んだのは「最初に声をかけてくれた」という現所属先だった。

前川は普段から自軍の練習を視察し、その時々のスピアーズにどんなタイプの選手が必要なのかを随時、アップデート。タレントを見抜く眼力との合わせ技で、逸材を招き入れる。旧トップリーグ時代から昨季まで、2シーズン連続で新人賞選手を輩出する。

そう。優秀な選手を集めるには、熱心なスカウトの存在も不可欠だ。リコーブラックラムズ東京に2019年の明大主将、副将の武井日向、山村知也が入った裏には、当時採用になって間もなかった小浜和己が足しげく早朝練習へ通った日々がある。

学生のベストなクラブ選び、クラブのベストな学生探しは、いまなお続く。豊饒(ほうじょう)な物語の源泉だ。

<了>

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