中2日、五輪独占期間、12月開催、大会方式。Jリーグが強いられる「犠牲」の可能性とは?

Opinion
2020.03.15

Jリーグは3月12日、臨時理事会を開き、3月中に予定されていた公式戦の延期を決定した。今のところ4月3日からの再開を目指すとしているが、新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては、さらなる延期の可能性も取り沙汰されている。村井満チェアマンの「デッドラインは4月中旬やもう少し深いところ」という言葉には、どんな意味が込められているのか? 刻一刻と変化する「目に見えない脅威との戦い」に対し、Jリーグは具体的にどのようなプランで立ち向かっていこうとしているだろうか?

(文=藤江直人)

「無観客試合」には否定的な見解も…

28年目を迎えたJリーグが、初めてとなる緊急事態に直面している。3月に公式戦が開催されない状況は、1993シーズンに続いて2度目となる。しかし、日本サッカー界が待ち焦がれたプロリーグが産声をあげたJリーグ元年は、シーズン開幕そのものが5月15日だった。

ひるがえって今シーズンは拡大の一途をたどり、ついには世界保健機関(WHO)が世界的な大流行を意味する「パンデミック」になったと判断した新型コロナウイルスが猛威をふるっている。3月中に予定されていた、リーグ戦とカップ戦の計148試合すべてが開催延期となった。

2月に予定されていた15試合を含めて、現時点で163試合を数える延期分は4月以降の日程のなかに組み込まれていく。一度掲げていた今月18日の再開を断念したJリーグは、新たな再開目標として4月3日を設定した。Jリーグの村井満チェアマンがこう補足する。

「目指すところはお客さまと一緒に試合を運営することです。4月3日の再開であれば予定通りの日程を消化できると想定していますが、これがぎりぎりのタイムリミットとは考えていません。場合によっては大きな大会方式の変更もなく、日程調整で4月中旬やもう少し深いところまでいける可能性を残しています。なので、4月3日を過ぎたら無観客試合になる、というラインではないと考えています」

プロ野球のオープン戦や大相撲春場所、そして14日から再開されたバスケットボールのBリーグで実施されている無観客試合について、Jリーグは一貫して否定的な立場を示してきた。最初に公式戦の延期を決めた2月25日の理事会後の記者会見で、村井チェアマンは無観客試合を「最後の最後まで、ぎりぎりの手段として取るべきではない」と位置づけている。

「我々プロのスポーツ団体はある意味、ファン・サポーターの皆さまに支えられて運営しています。勝った、負けたという試合結果だけを競い合うのではなく、ファン・サポーターの皆さまにそれをお届けするために存在すると思っているので、試合日程を変更してでも、場合によっては大会方式をチューニングしてでも、ファン・サポーターの前で試合を行うべきだと考えています」

状況次第では「何らかの犠牲は払わないといけない」

ファン・サポーターの目の前でパフォーマンスを演じた上で、現状で定められている大会方式を変更することなくシーズンを終えられるデッドラインとして、村井チェアマンは「4月中旬やもう少し深いところ」と設定した。ここで言及された大会方式は、今シーズンは2つの柱で構成されている。

一つは日本代表が活動する、年に5度、それぞれ9日間ずつ設定されている国際Aマッチデー(IMD)にJ1リーグ戦を実施しないこと。国際サッカー連盟(FIFA)は3月、6月、9月、10月、11月にIMDを設定しているが、今年3月に関しては予定されていたFIFAワールドカップ カタール大会・アジア2次予選2試合の開催延期とともに、日本代表の活動が休止されることがすでに決まっている。

もう一つは東京五輪へ向けて設定された中断期間を守ること。J1のスケジュールを見れば、7月4日および5日の第21節から8月14日~16日の第22節まで、約1カ月半にわたって中断する。J2とJ3も同様に中断するが、従来通りIMD期間には中断されることなく実施される。

「最も日程がきつくなるJ1から考えると、今シーズンに関しては難易度が高くなる。というのも、東京五輪でホームスタジアムを使えなくなるクラブが複数あります。6月ぐらいから(東京五輪用の)独占使用期間になっているなかで、日程をずらしたところで、果たしてホームゲームができるのか、という問題が残る。それでも、4月3日の再開でも、あるいはその後の再開でも、カレンダー上で(代替日として)使える日を見ていくと、理論上はそのへんのパズルがはまるのかな、と考えています」

こう語るのは、村井チェアマンのもとで再開へ向けて立ち上げられた4つのプロジェクトのなかで、試合日程を調整するチームの責任者を務める黒田卓志フットボール本部長だ。ならば、同チェアマンが示したデッドラインを過ぎればどのような事態が生じるのか。黒田本部長はこんな言葉を紡いだ。

「そこから先は何を諦めていくのか、というところになっていくと思います。何らかの犠牲は払わないといけない、と」

犠牲とはYBCルヴァンカップの大会方式の変更や、村井チェアマンが「最後の手段」として位置づけたリーグ戦での無観客試合の実施となる。東日本大震災が発生した2011年は、ヤマザキナビスコカップの名称だった前者のグループステージが廃止され、すべてトーナメント方式に再編されている。

また、来年度の天皇杯に関しては、主催する日本サッカー協会(JFA)が14日の理事会で、J1クラブが登場するステージを2回戦から4回戦に変更する方針を固めた。これにより、2回戦および3回戦が予定されていた日に、リーグ戦の延期分を組み込むことが可能になる。

“競技の公平性”が保たれるか? 12月開催検討も容易ではない理由

日程問題を調整するプロジェクトチームでも、すでにさまざまな代替案が議論されている。例えば東京五輪開催に伴う中断期間のうち、実際に開幕する直前までの2週間ほどをリーグに充てるプランを具現化させるには、前述した東京五輪で使用されるスタジアムの独占使用期間が絡んでくる。

東京五輪のサッカー競技では札幌ドーム、東京スタジアム(味の素スタジアム)、県立カシマサッカースタジアム、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)、そして埼玉スタジアム2002が会場になっている。これらをホームとするクラブが、すべてアウェーでのカードを組み込められれば問題はない。

しかし、リーグ全体のカレンダーを見渡したときに、どうしてもホームでの試合を組まざるを得ないときにはどうすればいいのか。北海道コンサドーレ札幌なら札幌厚別公園競技場、横浜F・マリノスならニッパツ三ツ沢球技場、浦和レッズなら浦和駒場スタジアムなど、代替となるスタジアムの確保について黒田本部長は現状をこう語っている。

「各クラブに状況をヒアリングしていて、まだ詳しい情報は上がってきていません。そこに関しては4つのプロジェクトのなかで日程を調整する私のところと、競技の公平性をジャッジするところで同時に進めながら、議論していく問題になります」

競技の公平性とは、一部のクラブにホームあるいはアウェーの連戦が続いた場合に、昇降格を争っていく上でイコールコンディションが保てるのかどうかを指す。一方で日程調整プロジェクトのなかでは、J1最終節を現状の12月第1週から下旬にまでずらせるかどうかの可能性も検討している。

しかし、ここでクローズアップされてくるのが、12月9日から19日まで中東カタールで開催されるFIFAクラブワールドカップの存在だ。今シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場しているマリノス、FC東京、ヴィッセル神戸のいずれかが頂点に立てば、クラブワールドカップにアジア代表として出場する。

Jクラブがクラブワールドカップの舞台で戦うのは喜ばしい状況となるが、その場合は大会期間中に延期されたJ1を組み込むことが難しくなる。JFAとともにアジアを制してほしいとエールを送り、サポートも施している立場として、最終節の変更は非常に頭を悩ませる問題となる。

選手に負担も…、中2日も考えざるを得なくなる

延期された試合は原則として、水曜日のナイトゲームとして組み込まれていく。東京五輪以降のスケジュールを見ると水曜日が空いているケースが多いが、だからといって安易に後半戦に組み込んでいくことも、別の次元でリスクを生じさせかねないと黒田本部長は明かす。

「通常のシーズンでも7月ぐらいからゲリラ雷雨であるとか、あるいは8月や9月以降は台風などのリスクも考えながら、そういう時のために平日を使っています。ただ、延期された試合が後半戦にずれてくると、何かがあった場合の予備日もなくなる、かなりカツカツの状態になってくるので」

黒田本部長が言及した「そういう時のため」とは、ここ数年で急増している自然災害による試合延期を指す。新型コロナウイルスによる中止・延期は自然災害以外では初めてのケースとなり、終息せずにデッドラインを過ぎてしまえば、さらなる犠牲を覚悟することもありうると黒田本部長は続ける。

「選手たちにかかる負担を考えれば極力避けたいことですが、中2日のスケジュールを組まざるを得ない可能性も出てくるかもしれません」

4つのプロジェクトチームがフル稼働し、緊密に連携を取りながら、今後は19日に中間ミーティングを開催。目標に据えた4月3日から逆算して、試合開催に求められる環境整備の進捗状況を確認。新たに出される政府見解などを踏まえながら、予定通りに再開できるかどうかの判断を25日にも下す。

JリーグおよびJクラブとして実践できるのは、選手や関係者に感染者が出ないように啓発していくことと、実際に再開されたときに濃厚接触とならない応援スタイルをファン・サポーターとともに考えていくこと。何よりも重要なのがすべてのスタジアムで発熱を検出するサーモメーターや消毒薬、マスクなどの資機材を確保するなど、安全な環境を整備していくこととなる。

同時に1カ月以上も公式戦がない、先が見えない状況のなかで、日々練習を積み重ねている約1500人のJリーガーの心中をおもんばかるビデオメッセージを配信する考えを村井チェアマンは明かしている。

「ピークを開幕へ向けて準備してきたなかで延期、延期と続き、フィジカルコンディションを維持するのもメンタルを維持するのも大変な状況が続いているので。再開されたとしても土曜日、水曜日、土曜日と例年にない過密日程になることが想定されるので、ここでしっかりと身体をつくっておいてください、そして家族を含めて新型コロナウイルスに向き合ってください、と伝えるつもりです」

感染拡大が終息した、といった状況を告げる臨床データなどが示されたときに、すぐにでもアクションを起こせるように。刻一刻と減っていくデッドラインまでの時間をにらみながら、ウイルスという目に見えない脅威と戦っていく未知のステージを、サッカー界はJリーグを中心として突き進んでいく。

<了>

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