浦和が再び黄金期を取り戻すため…。クラブが示す“3つの本気”と、17年前に重なる情景

Opinion
2021.06.17

直近10試合で公式戦負けなしと波に乗る浦和レッズ。今季就任したリカルド・ロドリゲス新監督の手腕と選手の奮起、そして強化・広報を含めたクラブ全体の目指す方向性がうまくかみ合い始めた。2004年当時を彷彿(ほうふつ)とさせる存在となりつつある新生・浦和レッズは、果たして一度スタジアムから離れたファン・サポーターの心をつかむことができるのか?

(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)

スタジアムにサポーターが戻ってきた理由

「ここ数年、スタジアムから足が遠のいていたサポーターが、最近スタジアムに戻ってきている」

今年5月下旬ごろ、家族総出で浦和レッズを応援する長年のサポーターからそんな話を耳にした。聞けば、入場制限がかけられている中、浦和レッズメンバーシップ・REX CLUBの会員でもなかなかチケットが取りづらいと嘆いていた。

浦和レッズのサポーターは土地柄、サッカーに詳しく、一家言(いっかげん)ある人たちが多い。そうした目の肥えたサポーターたちを再びスタジアムに向かわせる理由、それは「今年就任したリカルド・ロドリゲス監督のサッカーが面白いから」だそうだ。

2017年AFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝を手にした堀孝史監督が翌年4月に契約解除となったあと、大槻毅代行監督を経て、オズワルド・オリヴェイラ監督が就任。就任初年度に天皇杯で優勝したものの、翌年5月で契約解除。同月、大槻監督が再登板。チームの再構築がなされ、ACL準優勝をおさめた。

その一方で2019年11月、2020シーズンからの強化部刷新を発表。フットボール本部にはOBである土田尚史スポーツダイレクター(SD)と西野努テクニカルダイレクター(TD)が就任。常勝チームを目指すべく「3年計画」を掲げ、再出発。その後、昨季は新型コロナウイルス感染症拡大による変則的な日程を強いられる中、リーグは2桁順位に終わっている。

ここ数年の度重なる監督交代。それに伴う戦術の変更。そして編成された選手と戦術との不具合など、一貫性のなさは明らかだった。さらに長年の懸案だった世代交代は、常にタイトルを求められるというクラブ事情もあり急激なテコ入れができずにいた。強化部が推し進めようとすることと、チームができることに大きな齟齬(そご)があるため、チームの頑張りが結果につながらない状態がしばらく続いていた。

迎えた今季、ロドリゲス監督招聘(しょうへい)をキッカケにそれらの問題を解消しようとするフットボール本部の本気度が徐々に形になってきている。

新監督、新加入選手の「野心」と、奮起を示した反発心

まず評価すべきは今季の補強について。FC琉球から加入したMF小泉佳穂が規律違反でチームを去ったMF柏木陽介に代わって、新しい司令塔として躍動。栃木SCから加入したMF明本考浩は持ち前のタフネスとオールラウンダーぶりを発揮。J2からカテゴリーを上げてJ1初挑戦だった2選手は今ではチームになくてはならない存在となった。右サイドバック、ボランチをこなせる経験豊富なDF西大伍は序盤こそケガで出遅れたがその後は見事にフィット。極めつけは今年5月に加入したデンマーク人FWキャスパー・ユンカーがここまで公式戦9試合8得点と大暴れ。今季獲得した選手たちが素晴らしい活躍を見せている。加えて新たにデンマーク人DFアレクサンダー・ショルツ、フランスリーグ・マルセイユからDF酒井宏樹の加入が決定している。

評価すべきは強化をつかさどるフットボール本部の功績だけではない。難解で理解・浸透に時間が相当かかるとされるロドリゲスサッカーに挑む姿勢、チームの本気度も同様だ。

リーグ序盤、第2節・サガン鳥栖戦(0-2)、第4節・横浜F・マリノス戦(0-3)、第6節・川崎フロンターレ戦(0-5)とつまずいたものの、一貫した指導と選手選考、そして監督の分析と采配で徐々に勝ち星を重ねた。

その結果、現在リーグでは8勝4分5敗の7位。直近5試合は3勝2分。JリーグYBCルヴァンカップはプライムステージに進出して8強に残った。天皇杯は順調に3回戦に進出。リーグ第12節・アビスパ福岡戦(0-2)に敗れて以来、公式戦でみれば6勝4分。10戦負けなしと波に乗りつつある。

その間、浦和レッズユース出身の大卒ルーキーMF伊藤敦樹は今季すべての公式戦に出場。浦和レッズジュニア1期生GK鈴木彩艶がいよいよリーグ戦の舞台に立つなど、育成組織出身選手による世代交代が始まっている。

その原動力はロドリゲス監督が口にする「野心」という言葉に集約されている。これは監督自身の野心、加入した選手たちの野心、そしてここ数年、思うようにいかなかった悔しさを覆す反発心がもとになっているといえる。

こうした様相とともに新鮮さや数年後のチームに自然と抱かせる期待感がファン・サポーターに伝わりつつある。それらが冒頭の面白さにつながっているのではないだろうか。

「認めていただいていると感じている」

ロドリゲス監督がサポーターに支持されていると感じた光景があった。

6月9日に浦和駒場スタジアムで開催されたJ3・カターレ富山との天皇杯2回戦のキックオフ5分前。監督がベンチに向かうべく姿を現した際、スタンドから大きな拍手が起こった。最低限の礼儀といえばそれまでだが、これまであまり見られなかった光景だった。

「ファン・サポーターの反応を見ると支持していただいていると感じる。私は選手を成長させ、チームを向上させ、浦和レッズの価値を高め、タイトルを取るために浦和に来た。同時にファン・サポーターには試合を見て楽しんでもらいたい。彼らの愛情を感じ、しっかりと勝利を重ねながらチームを成長させ続けていきたい。認めていただいていると感じている。ありがたく思っている」

ロドリゲス監督の言葉からも、ファン・サポーターとの良好な関係を築きつつあることがわかる。

監督・選手を含めた補強の的中。難解な戦術でありながら、成長曲線を描き、さらに世代交代が進みつつあるのは、先ほど挙げた強化とチームとの齟齬が徐々に解消され始めた表れにほかならない。

フットボール本部のブレない姿勢からもその意気込みがひしひしと伝わってくる。今月14日の会見で西野TDはこう話している。

「1年半前に土田SDと僕が着任した際、しっかりとコンセプトをつくって、それを打ち出したサッカーをして、クラブとして一貫性を持たせていこうと決めた。そこにブレがないということはいえる。ロドリゲス監督と契約する前に初めて話した時も、新しい選手と契約する時も、契約更改する時も、外国籍選手を獲得する時も、『われわれはこういうサッカーをする』というコンセプトを必ず最初に伝えている。『何も言われなかったからできない』とは一切言わせないような形で、強い気持ちを持ち続けている」

さらに「批判を恐れずにオープンにさらけ出していくということ。強いチームをつくるためには強いフットボール本部、クラブが必要」という覚悟を持ち合わせ、「J1リーグ優勝はしたい。必ずしなければいけないし、できると思っている。その先にはJ1リーグの連覇やACL優勝、さらにはFIFAクラブワールドカップという舞台がある」と明確に目標を示している。

「見やすさ、わかりやすさ、面白さ」の先にあるもの

懸案事項はある。それは経営の生命線である観客動員だ。先ほど触れたように現在は入場制限がかかっている。問題は制限が明けたあと、どれほどのファン・サポーターがスタジアムに戻ってくるのか。スタジアムでの観戦熱は一度冷めてしまうと客足を戻すのに時間がかかってしまう。

その中で静かに、かつ着々と準備を進めているのが、すべての窓口である広報部門。浦和では広報・メディアプロモーションと呼ぶ。

コロナ禍が始まった昨年、今では主流になったオンライン取材の先駆けとなったのをはじめ、クラウドファンディング、トレーニングマッチの中継、さらに試合前、チームが埼玉スタジアムに入る際、選手とファン・サポーターが画面越しにやりとりをするなど、他の部と連携しながら、今の浦和を広く伝えてきた。

その広報・メディアプロモーションでは新たに3つの点を意識していることがわかる。それは「より見やすく、よりわかりやすく、より面白く」だ。

まず「見やすさ」。これは多くの人が目にするSNSで使う写真一枚のクオリティー、背景のデザイン、配色などへのこだわり。短い映像も含め、今日の試合はどのような意味や意義があるのか?を伝えるように考えられている。

次に「わかりやすさ」。その一例が浦和レッズの公式HPにある選手紹介のページだ。選手の顔写真とともに出身地、誕生日、選手の名前にふりがな、そして簡単な紹介文が掲載されている。特にふりがなについては、サポーターなら当然知っているような事柄だが、あえてふりがなをつけることで、新規のサポーターを意識した、些細ではあるが、親切な姿勢が感じられる。

そして「面白さ」。最近話題となった例の一つが5月12日の公式SNSにクラブマスコットのレディアが登場したことだ。文面には「5/12、公開練習に合わせチームを激励に訪れたレディアでしたが、到着した時には練習が終了していたことをお知らせします」と、大原サッカー場の隅でポツンとたたずむレディアの写真が掲載された。その反響はものすごく、2352リツイート・6467いいね!がついた。埼スタに登場すると雨になることが多いことから「雨男」のレッテルを貼られ、一時は出入り禁止にされることもあったレディアが大原に足を踏み入れるのは異例なこと。その驚きと、この日の天気が中途半端にも曇りだったことも相まって哀愁漂う投稿として話題を呼んだ。

「今のコロナ禍でファン・サポーターの皆さんと直接コミュニケーションを取る機会がなくなってしまった。その分、これまでスタジアムに来ていただいた方、そして初めて見に来たいただいた方に興味や関心、魅力を感じてもらうようにしたい。僕らの仕事はあくまでファン・サポーターに向けたものですから」。広報担当はそのように語る。

長年取材する身として、先ほど挙げた「見やすさ、わかりやすさ、面白さ」の先にあるのは、スタジアムに来るなら知っていて当然、わかっていて当然ではない、敷居の低さであり、良い意味での「浦和はかくあるべし」からの脱却ではないだろうか。広報・メディアプロモーションはその字のごとく広く報せるという作業を日々行っている。「中には浦和らしくないと思う人もいるのでは?」という問いに「そういった声があるのも想定しています」と語っていたのが印象的だった。

監督と選手、そして強化、広報を含めたクラブ全体が強く持つ、変わろうとする、変えようとする本気度。その姿勢に大きな期待と夢を乗せつつあるファン・サポーター。この空気感は2004年当時に感じたものに似ている。2004年とは、浦和が黄金期を迎えようとする、その始まりとなったシーズン。

今われわれはさらなる黄金期の入り口に立っているのかもしれない。

<了>

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