ダルビッシュ有が明かす、成功の秘訣「僕は夢っていうものを持ったことがない。ただ…」

Career
2020.12.24

「信じ抜けば、夢は叶う」というメッセージをテーマに、12月25日公開の『映画 えんとつ町のプペル』が大きな注目を集めている。さまざまな時代背景から、夢を持つこと、そしてその夢を叶えることが簡単ではなくなっている今、REAL SPORTSではこのメッセージに共感し、「自分の道を信じて、努力し続ける」人たちの姿や信念を伝えるコラボ企画をスタート。

今回はその最後を飾る第5弾。今シーズン、メジャーリーグで日本人初となる最多勝を獲得。サイヤング賞の最終候補にも残り、圧巻の成績を残したダルビッシュ有の登場だ。

「メジャーリーガーになりたい」という夢を持ったことはないと話す彼は、いかにしてさまざまな逆境を乗り越え、成功をつかんだのか。周囲の雑音にもブレずに自分を貫く、その思考の源泉をひもとく。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=浦正弘)

「メジャーリーガーになりたい」とは考えていなかった

――ダルビッシュ選手は『えんとつ町のプペル』という絵本はご覧になったことはありますか?

ダルビッシュ:出版されてすぐに買いました。絵がとにかくきれいなんです。なんていうんだろう、表現がすごく難しいんですが、例えば太陽の明るさとか、火の熱さ。明るさとか熱そうとかを色で表現するのって難しいじゃないですか。でもそういうものがうまく表現できている絵だなって思いました。

――絵の質感がすごくて、リアリティーがありますよね。今回の映画の「信じ抜けば、夢は叶う」というメッセージは、すごくアスリートとの共通点を感じます。ダルビッシュ選手はご自身が成功するために大事だったものってなんだったと思いますか?

ダルビッシュ:(野球を)好きだったことですね。ただ自分が変化球を投げたり、投げた球を見た相手や受けた人の反応を見たときの喜びというのがすごく強かった。そういうことに対してとにかく好きだったらからずっと今までやっているのだと思います。あとは自分が好きなことを追求するためだけに時間を使えるように、周りの人たちがうまくやってくれていたからだとも思っています。

僕が夢っていうものを持っていたわけではないし、なにかを信じ続けたわけでもないんですよ。毎日ずっと好きでいたから、好きであり続けたから、今があると思うので。「プロ野球選手になりたいな」っていうのはあったけど、「メジャーリーガーになりたい」とは考えていなかった。(2012年1月の北海道日本ハムファイターズ退団会見で)「世界で1番になりたい」と言ったのも、結局なんか言っとかなきゃみたいなところもあって……。

――なにより「好き」だということがポイントなんですね。

ダルビッシュ:もう本当、そこです。

「なんでそんなに他人を嫌な気持ちにさせたいんだろう」とは思う

――これまでいろんな批判などを乗り越えてこられたのも、好きだったから。

ダルビッシュ:ですね。嫌いだったらやらないじゃないですか。なんだかんだ野球を続けているということは、好きだから。いろんなマイナスなものに比べてプラスなものが大きいからやっているので。そのプラスの部分の大半は「好き」っていうこと。それだけです。

――批判されたときは、どういう思考になるんですか?

ダルビッシュ:いつも思うのは、「なんでそんなに他人を嫌な気持ちにさせたいんだろう」とは思います。たとえ批判の内容が正当だったとしても、そんなわざわざ(他人に)嫌な気持ちになってほしいと僕は思わないから。そこに関しては、「(わざわざ相手に言うのは)なんでなんやろう」っていうのはずっとあります。

――ネット上で他人を批判することへの問題提起はSNSでも発信されていますよね。

ダルビッシュ:「これは正当な批判だから別にいいだろう」みたいなことを言う人もいるんですけど、そもそも道端で会った知らない人からいきなり「あんたこうでしょ」って言われたら、嫌な気持ちにならへんのかとか、そういうのはいつも思います。

――本当にその通りだと思います。なぜSNSなどでは“言っていい感じ”になってしまうのでしょう。

ダルビッシュ:「これはTwitterだから」「ネットだから違う」って勝手に自分たちの中で区別をして、なんでリアルではできないことがSNSではOKになるのかっていうのが理解できないです。そのようなルールを作った人も誰なのか分からないし、なにをもってそれをOKとしているのか、一切僕には分からない。

――理解できないからこそ、逆にそこに心を持っていかれることもないわけですね。

ダルビッシュ:そんなので落ち込むことはないです。暇つぶしにそういう人たちとやりとりをしたりしますけど、あれって自分の思考を整理できるから結構大事で。140文字の中でどういうふうに文章を入れたらより伝えられるかを考えると、結構頭のトレーニングになったりするんですよね。

「見返したい」という思考回路は一切ない

――ダルビッシュ選手は、「なにくそ」みたいに思うこともないのですか?

ダルビッシュ:ないですね。たまに「見返したい」とか言う人もいるじゃないですか。「俺のこの結果を見せて黙らせたい」とか言う人もいますけど、僕にはそういう思考回路は一切ないです。

――そうですよね。そういった部分はお話していても全く感じないです。

ダルビッシュ:全然ないです。ただ自分が表現したい変化球を表現できたらうれしいのと、自分が表現できた変化球を他の人が同じような球を投げて喜んでいる顔を見るのが、一番うれしいです。

――今シーズンはストレートも変化球みたいでした。

ダルビッシュ:ツーシームはそうでしたね。

――あれを間違った見方をする専門家に対して、ダルビッシュ選手が「あれはストレートですけど」「ツーシームですけどね」と返すやりとりすごく好きです。

ダルビッシュ:日本の解説者、特に昔の解説者の人って、本当にレベルが低いんですよ。びっくりしました。自分が現役の頃から知識が変わってない人も結構いるんですよ。でもメディアがそういった人たちを平気で起用するというのも、本当に意味が分からないです。

――それはそうですよね。違う時代を生きている感じになってしまうわけですから。

ダルビッシュ:視聴者の人たちはみんな分からないじゃないですか。なのに、自分の経験だけで間違ったことを言ってたら、見ている人は「ああ、なるほど」と思って、だまされている感じになってしまって。それが嫌なんです。

コロナ禍でも全く変わらないインドアな生活

――今シーズンはコロナ禍でかつてない1年を過ごされたと思いますが、家族と過ごす時間は増えましたか?

ダルビッシュ:コロナで今みんな外に行けなくて家族と過ごす時間が増えてるじゃないですか。けど自分はコロナが始まる前から同じなんですよ。生活が全く変わっていないんです。

――なるほど。オフの過ごし方も変わっていない。

ダルビッシュ:もともとあちこち行くタイプではないので、全く変わってないんです。だから僕としてはむしろ外出しなくていいから逆にうれしくて。

――もともとそんなに行きたくないのに、行かなくて済むから。

ダルビッシュ:妻はたまに外食とか、買い物に行きたがったりしてたんですけど、それが今不可能なので。そういう意味では、僕はすごくストレスがない生活を送れている。

――ずっと出かけていないんですか?

ダルビッシュ:全く。たまに日本食スーパーに買い出しに行ったりはするけど、家族みんなで行くっていうことは絶対にしないので。(連れて行くのは)1人だけとか、僕だけとか、そんな感じですね。

――それって他のメジャーリーガーも?

ダルビッシュ:そこまではやっていないんじゃないですか。気にしている人はいるんだろうけど、気にしていない人のほうが多いかもしれないです。

――それは、プロとして気にしているのか、それとももともと外出が好きじゃないから家にいるのか、どっちなんですか?

ダルビッシュ:外へ行くのも好きじゃないし、自分が例えば買い物したいからって外出して、いろんなものベタベタ触ってコロナに感染しちゃって、もし家族にも感染させて大きな病気になったり死なせてしまったら、と考えるとやっぱり後悔するから。若い人は大丈夫と言われたりもしますけど、ワクチンとかそういうのがちゃんとするまで、別にわざわざ行かなくてもいいんじゃないかとは思います。

――その徹底はプロとしての部分もあると思うので、その意識は本当にすごいなと感心します。

ダルビッシュ:ありがとうございます。本当にストレスが全くないんです。1週間ぐらい自分の敷地から出ないということも多々あるので。

<了>

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PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBシカゴ・カブス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデングラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振を記録。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャースを経て、現在シカゴ・カブスに所属。20年、日本人初となる最多勝を獲得。

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