「辞表と刺し違えでお金を出してください」。J3富山・左伴社長、“力業”も辞さないプロ経営者の覚悟と矜持
今、カターレ富山が熱い。現在J3首位に立ち、7シーズンぶりのJ2復帰を狙う北陸の雄が、確かな変貌を遂げつつある。陣頭指揮を執るのは、今年4月に代表取締役社長に就任した左伴繁雄。横浜F・マリノス、湘南ベルマーレ、清水エスパルスなど数多くのクラブを渡り歩いてきた、スポーツビジネスの“プロ経営者”だ。
長年J3の舞台に甘んじてきたクラブを昇格させるだけでなく、そこで戦える地力をつける。そのために進めている数々のドラスティックな改革、そして、出向社長であれば躊躇(ちゅうちょ)する“力業”さえも辞さない覚悟。左伴社長の矜持(きょうじ)を聞いた――。
(取材・文=藤江直人、写真提供=カターレ富山)
スポーツビジネスの“プロ経営者”が、J3・カターレ富山にやって来た理由
Jクラブの経営体質を根本的に変えるドラスティックな改革の数々が、北陸の地で、シーズンと並行しながら急ピッチで、なおかつ確実に進められている。
舞台はJ3リーグを首位で折り返したカターレ富山。陣頭に立って指揮を執っているのは、今年4月に代表取締役社長に就任したばかりの左伴繁雄だ。
カターレの歴代社長は北陸電力やインテックをはじめとする、主要株主に名を連ねる大企業の出身者が務めてきた。山田彰弘前社長も北陸電力の出身だった。
翻って左伴は横浜F・マリノス代表取締役社長を皮切りに、湘南ベルマーレの常務および専務取締役、清水エスパルスの代表取締役社長を歴任してきた。
2020年1月にエスパルス社長を退任した後は、バスケットボールのB3リーグに所属する、ベルテックス静岡のエグゼグティブスーパーバイザーを務めていた。
サッカーを含めたスポーツ界で稀有(けう)な存在であるプロ経営者を、カターレは初めて外部から社長として迎え入れた。きっかけは昨秋にかかってきた一本の電話だった。
左伴の疑問「大企業がいくつも株主に顔をそろえながら、なぜJ3なのか――」
左伴:今現在もカターレの社長室長として、僕をサポートしてくれている齋藤徳宏君から突然電話がかかってきて、会っていろいろと話をしたいと。当時の僕はベルテックス静岡だけでなく、プライベートで二輪のモーターチームもサポートしていた関係で、スケジュール的に『ちょっと富山には伺えません』と返したら、齋藤君が前社長の山田さんと一緒に静岡に来られたんですね。
――次期社長への招聘(しょうへい)を前提としたお話だったわけですね。
左伴:僕からすれば北陸電力やインテック、YKKと非常に大きな株主をそろえていて、どうしてJ3なのという物見遊山的な関心もあって、いろいろと話をしました。ただ、北陸電力を筆頭にしたそうそうたるお歴々が決裁権者として取締役会にいるし、いくら齋藤君が外から引っ張ってきたいと提案しても難しいよ、とも話していたんですよ。そうしたら年末になって、再び齋藤君から『説得しました』と連絡があったんですね。それで捨て置けなくなった、という感じですね。
年明けの今年1月には、僕の方から富山へ行きました。街の事情やクラブのインフラなどを調べる予定でしたけど、あいにくの豪雪で何もできなかった。その状況で北陸電力の会長でもあるカターレの代表取締役会長の久和進さんが、長靴を履いて僕に会いに来てくれたんですね。その熱意にも胸を打たれて、決めたのが1月の中旬くらいでした。
――3月1日の顧問就任を経て、4月20日の定時株主総会および取締役会で社長就任が決まりました。なぜ自身に白羽の矢が立ったと受け止めていますか?
左伴:行き詰まったんじゃないですかね。計算すると株主のトップライン(売上高)の合計が1兆円をはるかに超える額になる。これだけの企業が後ろについているのに、カターレの売り上げが5億円程度しかない。クラブ側から株主に対して、スポーツビジネスの事業規模感についてインプットしていないんだな、と。J3で戦って7年目になりますけど、J2へ戻る目標でいえば、違うことをやってきた。でも、誰も間違えたと思っていない。あっけらかんとした感じには僕もびっくりさせられました。
スポーツビジネスに携わってきた人間なら『おかしいですよ』とすぐに言えますけど、そうした間違いに気付きもしないままここまで来ちゃったことに気が付き、やはり餅は餅屋で専門家を一回入れた方がいいんじゃないか、となったんでしょうね。さまざまな媒体を通じてスポーツビジネスに関する情報が大量に飛び交っている時代に、スポーツビジネスについて理解が深まる前に、2年に1度社長を替えていても強くならないと。
今季はJ2復帰に向けた千載一遇のチャンス。その言葉の意図は?
――コロナ禍の今シーズンを、J2復帰へ向けた「千載一遇のチャンス」だと位置づけた就任の際の言葉が強く印象に残りました。
左伴:一つは制度的な問題で、コロナ禍でなければJ2からの降格クラブがあったはずですよね。(今シーズンは)そうしたクラブがいない状況に加えて、上位2クラブがJ2へ昇格して抜けた。さらにプロの興行としてどうなのかと個人的に思っていた、J1のU-23チームがなくなってクラブ数そのものも減った。一方で来シーズンはJ2の下位4クラブが降格してくる中で、確率論的にいえば今シーズンはJ2に戻れる大チャンスとなります。(※編集注:コロナ禍における特例ルールとして、2020シーズンはJ1ならびにJ2からの降格を“無し”とし、2021シーズンはそれぞれ4クラブが降格することが決まっている)
もう一つはコロナ禍では何かに対して楽しみであるとか、満ち足りた気持ちを求める風潮が通常の年よりも高まると僕は思っているんですね。見ている方々が喜び、怒り、悲しみ、楽しんだりできるスポーツは人の表情を豊かなものに戻す力も持っていると考えれば、スポーツに対する飢餓感が増してくる。
カターレのスタッフに聞けば、雨が降ったときのホームの富山県総合運動公園陸上競技場の入場者数は『絶対に3桁です』と言うんですね、700人とかそんな数字ですけど。例えば大雨と強風で全ての試合前イベントを中止した5月16日のアスルクラロ沼津戦には、それでも1762人のお客さんが来て応援してくれました。
石崎信弘新監督のもと、技術的な問題はさておき最後までハードワークを貫き、前のめりに弾けまくる今シーズンのカターレのサッカーがだんだん認められてきた。さらにコロナ禍で我慢を重ね、ストレスをためていた方々も痛快だと感じてくれて、例年よりもお客さんが増えてきたんじゃないかと思っています。選手たちは大勢のお客さんが来たスタジアムの方が、モチベーションがどんどん上がっていく。実際に今シーズンのカターレは4勝3分とホームで負けていませんからね。
カターレの営業収益は約5億円。J2平均の15億円まで増やす青写真
Jリーグから開示された昨年度の経営情報では、カターレの営業収益は5億4800万円。FC岐阜の8億5300万円、FC今治の8億3400万円、鹿児島ユナイテッドの6億9800万円、AC長野パルセイロの5億6400万円に次ぐ数字だった。
ただ、入場料収入は2200万円と、SC相模原と並ぶ7位に順位をやや下げる。コロナ禍における入場者数制限の影響もあったが、J3で最多だったロアッソ熊本の4900万円と比べると半分以下の数字にとどまっている。
――ただ、1試合あたりの平均観客動員数は、昨シーズンの1217人から今シーズンは2476人と倍増させています。3000人を大きく超えた試合もすでに2度ありました。
左伴:僕はエスパルスを経験しているから、これでは現場に失礼だと思っていたら、何だか3000人を超えるのが2年ぶりだと聞いて。エスパルスでも一緒だったGKの西部洋平から『メインスタンドが埋まって、選手たちにめちゃくちゃ気合いが入っていました』と聞いて、3000人超えが初めてすごいと分かったわけですけどね。
やはりJ3へ降格して、アウェークラブのファン・サポーターもなかなか来場せず、そこそこのネームバリューのある選手もいなくなった。加えて、プロバスケットボールの富山グラウジーズがB1(1部リーグ)で、富山駅前のしっかりとした体育館で興行を順調に伸ばしてきた状況も重なって、サッカーはどんどん減ってきたんでしょうね。
僕が就任する前に決まっていた今年度予算では、(平均観客動員数の見込みが)1500人ぐらいの規模になっていました。ただ、今のサッカーを見せ続けて、そこへコロナ禍でスポーツに対する飢餓感が増す相乗効果が生じれば、2000人や3000人の数字では収まらないと思っています。後半戦でずっと昇格争いに絡んでいけば、4000人から5000人は必ず来てくれる。1000万円から2000万円の上振れは期待できると考えています。
富山第一に行く子どもが後を絶たない。アカデミー改革の必要性
――物販収入が2100万円と、J3平均の2400万円をも下回っていました。
左伴:ちょっと壊滅的な数字ですよ。というか、長くJ3を戦っているうちに、グッズを買う方も少なくなっちゃったんでしょうね。スタッフはそれなりに努力しているけれども、経営的なベクトルをJ2のレベルへ持っていく、いわゆる攻めの経営をやってきていないから、物販収入もこんなものでいいとなってしまった。だからこそ、後半戦においてチームの成績をうまく活用しながら、どこまで数字を伸ばせるか。J2復帰祈願の絵馬とかお守りとかがあるじゃないですか。あとは復帰を果たしたときの定番グッズとなる記念Tシャツや、あるいはDVDなどさまざまなものが考えられるので。
――アカデミー関連収入はどうでしょうか。5100万円とJ3では最多でしたが。
左伴:育成はトップチームへ毎年確実に昇格できる、教え方を含めた体制の確立とブランド力を高めることが急務です。アカデミー出身者は、今シーズンのチームでは馬渡隼暉と松岡大智の2人だけですが、カターレ産だけではなく、富山産の選手を大事にしていきたい。富山の中でも『黒部や高岡はちょっと違う』とか、あるいは射水とかいろいろと地域が出てきますけど、富山に一つしかないJクラブとして。もちろん色目を使ったりはしませんけど、それでも富山県出身のJリーガーは地元の方々に受け入れられやすい。
なので大事にしなければいけないですし、毎年1人もしくは2人はトップチームに昇格させたいし、そのためには年代別の日本代表に何人かが選ばれたいと考えれば、アカデミーは人数というよりも適正なサイズ感と、もう一つは教え方が大事になってくる。カターレではジュニアユースからユースへの昇格が決まっても、富山第一高へ行きますという子どもが後を絶たないと報告を受けました。エスパルスではあり得ない状況ですけど、各種大会における成績や指導者の質、練習場のインフラを含めたカターレのブランドがまだまだ足りないからです。その意味でも強化と育成がぶつ切りになっていてはダメだと考え、2つの部署を統合して僕が本部長を務める形にしました。対照的にスクールは人数です。
プロスポーツ経営においてスクール運営は“超優良事業”。その理由は?
――現状でスクール生は何人で、どのぐらいに拡大させていく予定なのでしょうか。
左伴:700人ちょっとですね。カターレの営業収益をJ2平均の14億3500万円を超える15億円に、現状から3倍弱に増やしていく方針でいえば、これからの3年間で2000人ぐらいにする予算感を持たせることは絶対に必要です。将来プロの選手にならないまでも、しっかりとした社会人や大人になるための礎を、先輩後輩の間柄における言葉使いや礼儀作法を含めて、サッカーにおけるチームプレーや集団生活を通じて養っていくスクールは、親御さんも学習塾とは別の意味で非常に大事だと思ってくれるんですね。何よりもカターレを最も長く応援してくれる層といえば、やはり子どもたちなので。
僕たち経営サイドから見れば、チームが強いか弱いかで実入りが変動しやすい観客動員数や物販と比べて、月謝が確実に振り込まれてくるスクールほど安定的な収入源はないんですよ。例えばJ3は東京五輪開催に伴って1カ月半ほど中断します。キャッシュフローが大きく変動する中で、スクール運営は超優良事業であり、そこの面積、つまりはスクール生を増やしていくことは安定した経営への一助にもなりますよね。
スクールコーチも当然増やしていきますが、選手のセカンドキャリアにリーグ全体で取り組んでいる中で、地元出身の選手は地元に帰すとか、あるいはそのクラブで長くプレーした人間はそのクラブでセカンドキャリアを、というのも考えています。富山やカターレにもそういう選手が多く出てくるはずなので、その受け皿にもしていきたい、と。
――日本全体で少子化が加速している中で、小学生年代の子どもたちを現状から3倍弱に増やしていくことは困難を伴うのではないでしょうか。
左伴:エスパルスのように4000人近くまでいってしまうと、少子化の影響で伸びが鈍化するとか、あるいは減ったりするかもしれません。でも、カターレの場合はまだ700人ですから。富山市の人口が41万人あまり、県全体では103万人あまりを数える中での子どもという状況と、競技別人口ではサッカーが一番という富山県の傾向を考えればまだまだ増やせる余地はあります。スポーツ事業に詳しくない、プロではない経営者が親会社から出向してくるとトップチームの成績や損益重視となる傾向が出がちになので。
数字をしっかりと把握しているわけではないので、少子化の進行具合などは詳しく分からないですけど、一つあるのは『全国住み続けたい街ランキング2020』で富山市が1位になったんですね。なので、若い世代が大都市へ旅立つ割合も少ないんじゃないかと。生まれ育った街を愛し、地元で働く人が多いというデータは、他都道府県に比べて高い確率で少子化が進んでいない証しなんじゃないかと僕としては考えています。
行政サービス比較検索サイト『生活ガイド.com』が昨年10月に調査・発表した、住んでいる街と住み続けたい街に選んだ市区町村が一致する人の割合ランキングで、神戸市や福岡市、札幌市などを押さえて富山市は堂々の1位に輝いている。富山の地が持つポテンシャルの高さも、65歳になる左伴の背中を押した理由の一つになった。
今のままではJ2に昇格しても、下手するとすぐに降格してしまう
カターレで取り組む経営改革を「積み木を一から組み立てるような、自分にとっても初めての挑戦」と位置づけた左伴は、短期的目標に据えるカターレのJ2復帰と、その場合の営業収益15億円の内訳をどのように思い描いているのか。
左伴:クラブによって違ってきますけど、カターレの場合は入場料収入に比べてスポンサー収入の比率が高くなると考えています。なので、やはり9億円から10億円はないと厳しいし、そこへJリーグからの分配金が入り、物販収入も1億円に近いところへ持っていかなきゃいけない。J3へ降格した時に値下げした入場料も元に戻すなどして1億円ぐらいにしなきゃいけないし、そこへスクール事業が加わるのが15億円の絵です。つまりはスポンサー収入を今の約3倍にしなきゃいけない計算になります」
昨年度のカターレのスポンサー収入3億8200万円は、岐阜の5億3400万円、今治の5億2500万円、いわてグルージャ盛岡の4億2400万円に次ぐ4位だった。
コロナ禍でも前年度の3億4100万円から上積みさせたが、左伴自身も「3倍にするとなると、ちょっと半端ない数字だと思う」とやや自虐的に笑う。
左伴:数字は非常に冷酷なので、これだけの金額がないとJ2で戦っていくのは難しいとすぐに答えが出る。ただ、それをどのようにして達成していくのかを考えるときに、スタッフたちの日々の努力だけではどうしようもない、単に営業担当がスポンサーを新規で獲得してきても追いつかないというか、大きな会社に今現在よりも大きなお金を出してもらえるように決断してもらうケースが必要になってくる。
カターレがJ2へ戻るのは、今のままならばそれほど難しくはないと思っています。ただ、J2へ戻っても7~8億円の営業収益ならば下位をチョロチョロするか、下手をするとすぐに降格してしまう。そこに経営を追いつかせるには、ちょっとした力業が必要になってきます。ただ、今まではそうした力業に気が付かなかったというか、力業を定義すらしてこなかったから、7シーズンもJ3で戦っているんだと思います。
「4億円で僕の辞表を買ってください」。エスパルス時代に見せた“力業”
左伴がマリノスやベルマーレ、エスパルスでの経営で培ったノウハウの一つとして「事業を数値化、可視化、標準化、相対化することで大方のソリューションが見えてくる」がある。カターレでもすでに実践し、地方クラブとして、特にスポンサー収入ではある結論に達した。
左伴:数値化と可視化でいえば、扱っている商材を全部売り切ればいくらになる、というスタディをちゃんとしていなかった。実際に数値化してみるとスポンサー収入は5億円ぐらいで、値上げを含めて商材そのものを見直さなきゃいけないし、アクティベーションプログラムといったものを各商材で増やしていきながら、値上げ感を少なくするようなスタディを、通常の営業活動とは別にやっていかなきゃいけない。
ただ、上へ行って上で戦い続けるために必要な金額を維持するには、それだけではらちが明かない。スポンサー収入を3倍にするには、カターレに大金を投じてくれる人や会社、例えば楽天の三木谷浩史さん(ヴィッセル神戸 代表取締役会長)やメルカリの小泉文明さん(鹿島アントラーズ 代表取締役社長)のような人や会社を僕が呼んできて入ってもらうのか。あるいは既存の株主に事情を説明した上で今までとは桁が違う、スケールの大きな金額を入れてもらうのか。それしかない状況で、どちらを取りますか、となりますよね。
――それが「力業」であり、発揮するのが左伴社長となるわけですね。
左伴:僕はそういうことを言ってきた経営者なので。エスパルスで1年目にJ2へ落ちた時も、鈴与の鈴木与平代表取締役会長に『ここは与平さんが倍の金額を出さなかったら、1年でJ1へ戻るのは無理です。4億円を8億円にしてくれるのならば、その4億円で僕の辞表を買ってください』とたんかを切って、実際に1年でJ1へ復帰しましたからね。
カターレでも1年でJ2から落ちないようにするにはどうすればいい、となったときに似たようなことをするんですよ。北陸電力にインテック、そしてYKKと腹をくくれる大企業がJ3の中で唯一、ここにはあるんです。なので、現状ではJ2を乗り切っていくのは不可能だと示す相対的なデータをJ3のうちに示して、その上でこれまでの規模より大きなサポートを僕の辞表と刺し違えで買ってくださいと。リスクマネジメントというよりも、逆リスクマネジメントですね。それができないクラブ経営者は、勝負ができないと思っています。
――強烈なリーダーシップを早くも発揮されている中で、外部から招聘された者としてあつれきですとか、摩擦のようなものは感じていますか?
左伴:もっとお金を出さなきゃダメだ、どこそこの会社なんてこんなに出しているなどと実際に言い出せば、ちょろちょろと出てくるかもしれませんね。チームがこの先どうなるのかを見極めながら、これは間違いないんじゃないかなとざわつき始めたときに、こういうことを満を持して言えばあつれきも少ないんじゃないですか。そうすれば、ちょっと勢いで出してくれるところが出てくるかもしれない、と考えています。
今言ってしまうとオオカミ少年になっちゃうのでね。ただ、2年ごとに出向で来る社長だと、いくら大企業でいい成績を残してきてもこんなことは言えないですよ。このクラブは潜りまくっている感じがして仕方がないので、僕の名前が先行してでもいいから、とにかくいろいろな形で表出されないと。
スポーツビジネスの世界で最後のキーになるのはやはり……
スポンサー、入場料、物販、アカデミーの各収入をアップさせていく上で、共通の課題としてクラブと市民、県民との間に生じて久しい大きな隔たりを挙げた。顧問として各所を回っている時に、間接的にこんな声を聞いたケースが少なくなかった。
「J2へ戻るまではスタジアムへ応援には行きません」
カターレの番記者も不在という状況で、さまざまな情報を伝達する手段としてSNSを積極的に活用している。例えばTwitterではすでに存在していたクラブ公式に加えて、営業やスクールでもアカウントを取得し、左伴個人のものも含めて頻繁(ひんぱん)に更新している。
左伴:Twitterも数値化していて、エンゲージやインプレッションを毎月取って、どういった傾向のツイートが心に刺さるのかを把握しています。勝った負けたも確かにいいですけど、心に染みこんでいくような言葉や問題提起でもいいし、例えば『J2へ戻らないと――』と言っているような方々には、冗談でもいからスタジアムに来て、J2へ戻るためのフラッグにメッセージを書き込んでくれませんか、そうすればJ2へ戻る過程にあなたも居合わせたことになりますから、と。そうしたツイートが100万を超えるインプレッションが取れる。小回りが利く点がSNSのいいところでもあるんですよね。
結局、人の心の機微に訴えるかどうかというのは、こういうスポーツ産業の最後のキーになってくる。スクールのアカウントは写真ではなく、親御さんに訴えるものとして子どもたちの動画を上げるようになったら数字が一気に伸びていった。公式アカウントのフォロワーは2万人ちょっとで、J3だとそれぐらいだとスタッフは言いますけど、僕からすれば富山県の人口が103万人あまりなんだから、左伴個人の倍ちょっとじゃダメ、10万人ぐらいのフォロワー数にしなきゃダメとは言っています。
J3後半戦のスタートは8月28日。カターレは藤枝MYFCをホームに迎える。リーグ戦は長期中断に入るが、左伴を含めた13人のスタッフはスポンサー営業、チケット販売、物販を全員が兼務しながら、J2の戦いを見据えて夏の陣に挑んでいく。
(文中一部敬称略)
<了>
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